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大胆不敵な策

 五畿内の扱いを巡り紛糾する会議。


「なあ源十郎、これはどうすればよい」


 晴政はどうにもこうにもいかなくなり、智の副将、片倉源十郎に助けを求めた。


「私の考えを述べさせて頂けば、畿内は天子様にお任せすればよろしいかと」

「天子様? 今は平明京にいるではないか?」

「はい。ですので、天子様を謀反人の手から救い出さねばなりますまい。その後、天子様の御料地として畿内を献上すればよろしいかと」

「だが、結局それまでの間はどうするのだ?」

「天子様に献上すると約せば、それまでの間だけ伊達が治めるということで、諸大名の方々も納得して下さるかと」

「なるほど。それはよいな」


 こんな下らないことに費やす時間はない。晴政は早速、源十郎の案を諸大名に提案した。


「――なるほど。それならばよろしいかと」


 三好阿波守は少々不満そうであったが、この案に同意した。他の大名の中にも特別異論を唱える者はなかった。


「皆々、感謝申し上げる。さて、内地のことなど正直言ってどうとでもなる。問題はガラティアの連中が平明京を落とす勢いで中國に攻め入っていることだ。奴らに土地を奪わせる訳にはいかん」


 ガラティア帝国は名目上は晴政らの味方であるが、その魂胆はこの混乱に乗じて大八洲の土地を切り取ることであろう。内戦の勝利がほぼ確定的となった今、ガラティアが大八洲にとって最大の敵となりつつある。


「従って、我らはガラティアがこれ以上東に進むのを食い止めねばならぬ。武力は用いずにな」


 まさかガラティアと戦争をする訳にはいかない。外交でガラティアを黙らせる必要がある。


「そこで、俺に策がある」


 晴政は今回、腹案を用意してきていた。


「ほう?」

「唐土を捨てればよい。唐土を捨てれば、大八洲のものではない唐土に、ガラティアが攻め込むことは出来まい」


 唐土を唐人に返還すれば、最早そこに大八洲の土地はなく、ガラティアが進攻する大義名分は消滅する。それが晴政の提案である。


 が、当然、その提案は問題だらけである。


「伊達殿、我らが唐土を捨てると言ったところで、曉は依然中國にいるのだ。ガラティアがそれを討伐すると言えば、我らは何も言えないのではあるまいか?」


 毛利周防守は尋ねる。


「ついでに上杉を将軍の座から引きずり下ろせばよかろう。さすれば、曉が謀反をする相手はいなくなり、傀儡にする者もいなくなる」

「伊達殿! 上杉を亡き者にするおつもりにございますか!?」


 長尾左大將朔は幼い声で晴政に怒鳴りつけた。あくまで彼女は上杉に仕える者。上杉に弓を引こうものなら晴政も敵である。


「案ずるな、朔よ。先程内地に上杉の所領を安堵したばかりではないか。上杉には一大名として政に参画してもらう」

「た、たった百五十万石程度でやっていけと仰るのですか?」

「……伊達は百二十万石だぞ」

「あっ……申し訳ございません。とは言え、上杉を諸大名と同列に扱うとはいかがなものにございますか?」

「今や上杉の武威は地に落ちた。お前も内心では分かっておるのだろう?」

「そ、それは……」


 朔も内心では分かっているのだ。今や上杉を中心とする体制を維持することは不可能。上杉が生き延びられるだけでも幸運であると。


「という訳だ。毛利殿、この点については、これでよろしいかな」

「それでよかろう。それが能うというのならな」

「うむ。他には?」

「最早問うまでもないであろうが、唐土は毛利殿などを初めとした先代の武士が自らの力で手に入れたもの。それをこんな軽々と手放してよい訳がないではないか」


 長曾我部土佐守は誰も言い出さなかったことをようやく問うた。大八洲が実力で獲得した豊かな土地をこんな会議一つで捨ててよい訳がない。


「そもそも、毛利殿はどうしてこのことから先に話されなかったのか?」

「儂はそういうことは気にせんからのう。今や各々の家がどうこうと言っている場合ではあるまい。大八洲というひとつの国の行く末を、我らは決めようとしているのだ」

「なっ……」

「ということらしい。うむ、問題ないな」

「そ、それはあまりに暴論! そのようなことを勝手に決めては、内地は再び二つに分かれ戦となるぞ!」


 今は曉に牛耳られているとは言え、諸大名は本来唐土に大きな権益を保有している。それを奪い返す機会を永遠に失うような決定は、容認しない大名の方が多いだろう。


「では、唐土を捨てないのならばどうするつもりだ。ガラティアと戦を構えるか? 今の疲弊しきった我らでガラティアに勝てると思うのか?」

「勝てるとは言い切れぬが……」

「それどころではない。ガラティアと戦になれば内地に攻め込む大義をも奴らに与えることになる。嶋津殿や山形殿は、それは認められぬのでは?」

「そうだな。俺達もヴェステンラントと戦って疲れ切っておる。とは言え、ガラティアに嫌がらせをするだけならば、管領を廃すればいいだけではないか?」

「武田も、ガラティアを敵に回すなど論の他ですが、唐土を手放すのはどうかと」

「うーむ……ではそれでよいか」


 このままではどうやっても唐土はガラティアに奪われるが、唐土を完全に放棄するまでは流石にしたくない。そういう訳で、一先ずは征夷大將軍位を上杉家から剥奪することが決定された。

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