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ガラティアと大八洲

 ACU2314 1/6 大八州皇國 唐土 巴城


「何? ヴェステンラントが和平に応じる気がない?」

『はい、陛下。彼らは何と言うか、全く狂っているとしか思えません。とても我が国の価値観とは相いれない、そう感じられました』


 大八州の最前線で軍団の指揮を執るシャーハン・シャー、アリスカンダルに、バッシャール外務大臣からの報告が届いた。当然、ルーズベルト外務卿の狂気についても。


 ガラティアもゲルマニアも大八州も戦争に躊躇はないが、戦争をせずに済むならその方が好ましいというくらいな倫理観はある。それとは正反対の戦争を好むという新大陸人の発想は全く理解不能だ。


「ふむ。それがあの狂人ルーズベルト個人の考えなのか、それとも国家としての考えなのかを見極める必要があるな」

『ルーズベルトが言うには女王ニナも同じ思想とのことですが……』

「ヴェステンラント女王か。彼女は全く予想が出来ないことばかりするが、マトモな人間ではあった筈だ。ルーズベルトに与しているとは思えないが」

『女王陛下との謁見は許されず、宮殿からも早々に追い出されてしまいましたので、何とも言えません』

「分かった。まあよい。理由が何であれ、連中が和平など眼中にないことが分かった。それだけで十分な成果だ。情報は多いほうがいいからな」


 狂人とは言えヴェステンラントの正式な代表だ。ルーズベルトがそう言うのなら、和平の可能性は絶たれたと言ってもいいだろう。既にゲルマニアからも厳しい回答をもらっている以上、講和条約を結ばせるのはまず無理だろう。


「陛下、逆によいことではありませんか。これで我々の方針は一つに決まります」


 イブラーヒーム内務卿は言う。


「そうだな。外交がダメならば武力に訴えるしかない。我々は我々の力で唐土を切り取り、世界の果てから果てを我がものとする」

「はっ! それでこそ陛下です!」

「今の私はそんな性格ではないんだがな」


 欲しいものは力で手に入れる。ガラティア建国以来の精神に立ち戻るしか、この激動の世界で生き延びる手段はないだろう。


「それでは進軍を急ぐとしよう。目標は大八州の都、平明京。この黄金の都を我々のものとせよ」

「仰せのままに」


 大陸東岸の豊富なエスペラニウム地帯を押さえ、世界に武力で覇を唱える。アリスカンダルの迷いはなくなった。


 ○


 ACU2314 1/9 大八州皇國 山城國 葛埜京


 平明京に遷都する前の旧都、葛埜京。内地では今でも政治、経済の中心であるこの地に伊達陸奥守晴政の呼びかけで諸大名が集まり、今後の大八州の在り方を決める会議が開かれていた。当然、その議長は伊達陸奥守である、


「――それでは、上杉の領地は越後、越中、能登、北信濃の旧領のみを安堵、残りは諸大名に振り分けということで、異論はないかな?」


 隻眼の大名晴政は並み居る大大名達に対しても全く遠慮というものがない。


「異議なし」「それでよかろう」「それでよい」


 唐土のことは置いておいて、内地においては上杉家の領土は二百年前から上杉家が治めていた伝統的な領地のみを安堵するということになった。そしてその他の広大な天領の分配で、会議がとんでもなく紛糾することが予想される。


「結構結構。これを諸大名の総意とさせて頂く。そして残った土地をどうするかだが、それは一旦棚に上げておき、まずは唐土の話をしたい。皆々方、それでよいか?」

「一つ。陸奥守殿、尾張や近江などは上杉の諸侯に任せるにしても、上杉の蔵入地はどうするおつもりですかな?」


 近畿の有力大名、三好阿波守は問う。


 上杉の領土と言っても二種類あり、内地を支配する齋藤家が直接管理する領地と、齋藤傘下の大名が支配する領地である。その前者が今、誰の支配も受けない無主地となってしまっているのだ。


「それについては、我ら伊達預かりとさせてもらいたい。無論、一時のこと。いずれ時が来れば、然るべき大名に与えるつもりだ」

「貴殿を疑いたい訳ではないが、信じられませぬな。そう言ってなし崩しに五畿内を伊達のものとする魂胆では?」


 葛埜京を含む山城、大和、和泉、摂津、河内の五ヶ国。大八州でも最も豊かで重要なこの地域は誰でも欲しがるものだ。


「八州の神々に誓ってそのようなことはない。伊達は決して嘘は吐かぬ」

「左様な言の葉で人を信じられるのなら、乱世などはなかったでしょうな」

「ふん、言ってくれるではないか。では、阿波守殿は逆に誰ぞが適任だと言うのだ?」

「齋藤家の筆頭家老、織田尾張守殿が適任かと存ずる」

「織田? ふむ、まあ確かに元より齋藤のものである畿内を尾張守に任せるのも悪くはないが――」

「左様に離れた土地を治めるは、いくら織田殿でも厳しいでしょう。ここは五畿内に隣接する我ら浅井や筒井、そして三好が和して治めるがよろしいかと」

「今は中継ぎとして齋藤に任せておればよいのでは?」

「ぐぬぬ……」


 誰もがそれぞれの思惑を持って提案を叩きつける。正直言って中央の情勢にはそこまで詳しくない晴政には明確な結論を出すのは難しい。

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