表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
684/1122

ヴェステンラントとガラティア

 ACU2314 1/5 ヴェステンラント合州国 陰の国 王都ルテティア・ノヴァ ノフペテン宮殿


「お初にお目にかかります。ガラティア帝国が外務大臣、バッシャール・ビン・ニザーム・ビン・ラディンと申します。ルーズベルト外務卿、こうして直にお会い出来て光栄です」


 ノフペテン宮殿、外務卿の応接間に通されたのは、人に好かれそうな笑顔を浮かべた、大臣にしては若い精悍な男、バッシャール外務大臣であった。


「私もお会い出来て光栄です、バッシャール外務大臣」


 ルーズベルト外務卿はバッシャール外務大臣と握手をした。ヴェステンラントとガラティア、両大国の外交の指導者が相対しているのである。両名は机を挟んで向かい合って座った。


「バッシャール閣下、おおよその要件は伺っております。ガラティア帝国にはこの戦争の和平を仲介する用意があるとか」

「はい、その通りです。我が国、我が主君は長きに渡る戦争で世界中の民が苦しみ、多くの者が死しているのを大変嘆いておいでです。平和を取り戻す為ならば、我が国はいかなる手でも尽くしましょう」

「ふむ。大八洲に攻め込んでいる最中の貴国が平和を語るのですか?」

「我々が大八洲に出兵しているのは、彼の国の秩序を乱したる謀反人を討伐する為に過ぎません。全ては平和を回復する為の手段なのです」


 まあ一から十まで嘘であるが。


「ふふ、まあ、それはそういうことにしておきましょう。それで、あなた方は我々に何を与えてくれるのですか? 我々に利益がなければ交渉には応じられません」

「ヴェステンラントの安全を保証しましょう。ゲルマニア、ヴェステンラント、ガラティアの三国で不戦条約を結び、いずれかがそれに違反したる場合は、残りの二国がそれに応じます」


 もしもゲルマニアがヴェステンラントに攻撃を行った場合はガラティアがゲルマニアを攻撃するという同盟である。誰にとっても丸く収まる現実的な策と言えるだろう。


 が、ルーズベルト外務卿は聞く耳を持つことすらなかった。


「ふはは、それは笑止千万というものですよ、閣下。集団安全保障など所詮は空手形。ヴェステンラントが安全を確保する唯一の手段は、ゲルマニアをこの地上から葬り去ることだけです」

「……ふざけておられるのか。大陸から追い出された今の貴国にそんなことが出来るとお思いですか?」

「ふざけてなどおりません。我々はゲルマニアを滅ぼすその日まで、戦争を終わらせるつもりはありません」

「貴殿は外務卿の筈です。戦争以外の手段によって国益を得るのが貴殿の仕事では?」

「戦争とは外交の一つ。立派な外交ですよ」

「……真面目に話して頂きたい」


 戦争が外交の手段であることは認めるが、相手国を滅ぼして安全を確保するなどという子供の妄想を主張するなど、正気の沙汰ではない。


「私は真面目ですとも。この世界に存在していいのは3種類だけ。合州国、合州国の同盟国、そして廃墟です」

「……あなた方の女王陛下に報告してもよいのですよ。貴殿が自らの職責を全く軽んじていると」

「そうすればよろしいでしょう。止めはしません」

「ゲルマニアを滅ぼすことが目的であると、それが本当に貴国の意志なのですね?」

「ええ、その通り。と言いたいところですが……我々の間に虚飾は無用です。腹を割って話しませんか?」

「何を仰る。我々は世界の平和を――」

「講和を主導してガラティアの影響力を拡大したいだけでしょう。それでよいのです。悪意で動くことはあれど善意で動くことは無い。国家とはそういうものです」


 そう言うルーズベルト外務卿は誰であろうと逆らう者を黙らせる気迫を持っていた。


「……貴殿がその気なら、そう認めましょう。では貴殿は何を望むのですか?」

「我々の望みは一つです。戦争を、人類の歴史に比類なき大戦争を、我々は望んでおります」

「……は? 戦争がしたいと? そう仰るのですか?」


 ありえない。戦争は手段に過ぎない。それも最も効率が悪い。


「いかにも。我々の望みは戦争です。未来永劫、我々は戦争を続けなければなりません」


 落ち着き払いながらルーズベルト外務卿が言った言葉を、バッシャール外務大臣は全く理解出来なかった。


「戦争を、したいと? 殺し合いがしたいと言うのですか?」

「そうです、そうですとも。我々は殺し合いがしたい。いつまでも殺し合いをしていたい。殺し合いの歓喜に浸っていたいのです。それが新大陸の人間というものです。古今それだけは変わりません」

「狂っている……。貴殿とはどうやらマトモに話をすることも出来なさそうだ。失礼ですが、女王陛下とお話させて頂きます。失礼します」


 バッシャール外務大臣は苛立ちを隠さずに席を立ち、応接間から退出した。だが女王は宮殿におらず、結局彼女との謁見は適わず本国へ帰還することとなってしまった。


「……意味が分からない。我が皇帝陛下ですら、世界の果てを手に入れたいという目的の為に戦争をしておいでだ。もしもそれが戦わずに叶うのならば、そうしている」


 戦争をする為に戦争をしている。ヴェステンラント上層部の狂気にバッシャール外務大臣は吐き気を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ