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政策の転換

 ACU2314 1/4 帝都ブルグンテン 総統官邸


「我が総統、ルシタニア国王陛下から弾薬生産の許可を頂くことが出来ました。すぐに実務作業に取り掛かりましょう」


 リッベントロップ外務大臣はたった一日で話を付けて来たらしい。まあこれから実際にどのように生産を行うかを詰める必要があるが。


「おお、早いな。よくやってくれた」

「はっ」

「他国に工場を建設するというのは我が国始まって以来、初めてのことだ。クリスティーナ所長を呼び戻した方がいいだろうな」

「そうですね。最高責任者である彼女はルシタニアに赴いてもらわねばなりません」


 そういう訳でクリスティーナ所長はカムロデュルムから本国に呼び戻され、ルシタニアでの兵器生産を監督することとなった。まあ、あの行動的な国王がやる気ならば、こちらは問題ないだろう。


「後は、ダキア問題の最終的解決を図るべき、だったな」

「はい、閣下。我が親衛隊は多くの予算を頂いてダキア方面の統治を行っております。これを削減することが出来れば、帝国の負担を大きく減らすことが出来るでしょう」


 貴族よりも貴族らしい男、ユリウス・マルクス・カルテンブルンナー親衛隊全国指導者は言う。


 ダキア大公国を完全に屈服させたゲルマニアは、ダキア大公国を名目上完全に滅ぼし、傀儡政権であるキーイ大公国と親衛隊が共同して統治に当たっている。そこで広大なダキアの各所に親衛隊が駐屯するのには当然、かなりの予算がかかっている。


「ふむ。具体的にはどうすればよいと思う?」

「はい。反乱分子を粗方粛清し、ダキア方面の情勢はかなり落ち着いております。ダキアの治安維持は、首都キーイを除いてキーイ大公国側に全面的に任せればよいものと、提案致します」

「キーイ以外から撤退する、か。それで本当に問題は生じないのだな」

「はい、何も問題はありません」


 以前にヘマをしでかして全面戦争を招いた親衛隊を軍部は信じていなかったが、とりあえず反論はしなかった。


「まあ、それはよかろう。だが逆に、キーイに駐屯する理由は何だ?」

「政権中枢を押さえておく為です。頭さえ我々に従わせておけば、問題はないでしょう」

「なるほどな」

「それに加え、全土への駐屯は一時的な処置でしたが、キーイへの駐屯は帝国政府の出先機関を設け、恒久的なものとしましょう。キーイ統監府、とでも名付けましょうか」

「ふむ、合理的だ。何か反対意見がある者は?」


 特に反対はなし。傀儡師を傀儡にすれば最も安く済むのだ。もっとも、軍部は親衛隊が失敗することに寧ろ期待しているだけだが。


「――皆様、ご賛同のほどありがとうございます。つきましては、親衛隊としてはこれまでに引き続き、ダキア大管区指導者のフリードリヒ・アイヒマンをダキア統監に任命したく思いますが」

「好きにして構わん」


 ダキア統監府は名目上、親衛隊の組織ではなくゲルマニア帝国政府の組織となっている。まあ本当に名目だけで、実際に統治を行うのが親衛隊であることに変わりはないが。


 これが成功すればダキア方面での負担はほんの千人程度の補給だけとなり、劇的に軽減されるだろう。


「我々の負担が減れば同時に、協力して頂いているガラティアの負担も減り、両国の利益となるでしょう。それでは、後は親衛隊にお任せを」

「うむ。任せた」


 ヒンケル総統はカルテンブルンナー全国指導者を東部に送り込んだ。さて、彼が言ったからでもないが、次の話はガラティア関連の話題である。


「――ではリッベントロップ外務大臣、状況を説明してくれたまえ」

「はい。端的に言いますと、戦況の膠着を受け、ガラティア帝国から和平仲介の申し出が届いております」

「それだけか?」

「今のところは何の条件も提示されてはいません。彼らとしてはとにかく和平の仲介に乗り出したいのでしょう」

「仲介などしたいものなのか?」

「仲介を成功させればガラティアがゲルマニアとヴェステンラントに影響力を持つと同時に、ガラティアの国際的な信用も上がります。彼らにとっては利益となるかと」


 ガラティア皇帝アリスカンダルの強かな計略である。いずれ行われるであろう講和会議を主導し、血を流さずにガラティアの影響力を向上させようというものだ。人の血をも利用するというのはガラティアらしい。


「講和など、そう簡単に決められるものではないな」

「しかし国内では物資の欠乏により、徐々に厭戦感情が出始めています。これを機に一度戦争から手を引くのも手かとは……いえ、これは外務省の言うべきことではありませんね」

「確かに、我が国は苦しい状況下にある。それは事実だ。だが、目先の利益だけで戦争から手を引くのは愚策だ。私はそう信じる」


 一度講和を結んでしまえば、武力を行使出来なくなってしまう。ゲルマニアにとって潜在的な脅威を残したままでの講和は、ただ破滅的な戦争を先延ばしにするだけだ。


「左様ですな。我が国の安全が保証されない限りは勝利とは言えますまい」


 カイテル上級大将は言う。ゲルマニアの安全を確保することこそが少なくとも今のところの目的だ。それはブリタンニア島を完全に解放しない限り達成されない。

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