対重騎兵兵器
ACU2313 1/3 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
クリスティーナ所長からの提案はすぐさま総統官邸に届けられ、ヒンケル総統は早速この件について会議を開いた。
「――という、ザウケル労働大臣が直接送り付けてきた提案な訳だが、何か意見はあるか?」
「確かに他国に我が国の最新技術を供与するのは問題ですが……」
リッベントロップ外務大臣は控えめに言う。
「問題だが、何だ?」
「それが我が国にとって脅威とならざるものならば、生産を委託してもよろしいこと思います。もっとも、その判断は私には出来かねますが」
「君もそう思うか。では問題は、この徹甲弾が我が国にとって脅威となるかどうか、か。その辺はどうなのだ?」
「それについては私から」
東部方面軍のローゼンベルク大将は名乗りを上げた。
「えー、シグルズ君の提案した徹甲弾については、東部方面軍でいくらか実験をしております。結果としては、魔導装甲への高い効果が認められると同時に、人間に対する殺傷力は低いことが確かめられています。まあこれは予想されていた通りですが」
「なるほど。いやその前に、東部方面軍は人間で実験をしたのか?」
「ええ……まあ、銃殺をする時に少しばかり」
「そうか。それならいいが。装甲車などにとって脅威にはならないのか?」
「戦車ならばどこから撃たれても問題ないですが、装甲車だと、側面から撃たれれば貫通される可能性が高いですな」
「そうか……」
徹甲弾は装甲車なら破壊することが可能。その事実はヒンケル総統を迷わせる。これまでも砲撃を直撃でもさせれば装甲車は破壊出来たは出来たが、現実的な手段がついに生まれてしまったのだ。
これがルシタニア軍に渡り、万一にもゲルマニアに敵対する勢力に渡った場合、帝国軍にとって大きな脅威となるだろう。
「とは言え、戦車を破壊するのは不可能です。装甲車はそもそも最前線に立つものでなければ、我が軍の優位を脅かすような兵器であるとは思えません。判断されるのは我が総統ですが」
「そうだな。ルシタニアが裏切るなど極めて可能性が低い仮定に過ぎない、か。であれば、戦況を一気にひっくり返せる対人徹甲弾を量産する方が合理的だ。私は決めたぞ。ルシタニアに銃弾の生産技術を供与する」
これは期待値の問題だ。徹甲弾の生産技術をルシタニアに供与した時にゲルマニアが得る利益、受ける脅威を天秤に掛ければ前者の方に傾くだろうと、ヒンケル総統は判断した。
「ではリッベントロップ外務大臣、よろしく頼む」
「承りました。すぐにルシタニア側と話を付けて来ます」
リッベントロップ外務大臣は早速ルシタニアと通信を行いに会議室を去った。いつも通り行動の早い男である。
「これについては、ルシタニアに拒絶されなければ問題はなしか。後は、突撃銃。これはどうなんだ? 私もあまりよくは分かっていないのだが」
シグルズが対重騎兵の切り札として提案したもう一枚。それが突撃銃なる新兵器である。
「ではこれも私から」
「うむ」
「東部方面軍ではシグルズ君からの提案を受け、ライラ所長の帝国第一造兵廠と共同して本兵器の開発に当たっています。突撃銃とは一言で言えば、拳銃弾と小銃弾の間の大きさの中間弾薬を使う歩兵用の火器です。歩兵が手で持って使え、かつ十分な威力を持った武器。それがシグルズ君が言うところの特性です」
これまでも歩兵用の自動火器として機関短銃があったが、使用する拳銃弾の威力は当然拳銃と同じであり、近接しないと効果がなかった。それでは小銃弾を発射する同じような兵器を作ればよいのでは、となるが、これだと反動が大き過ぎてとても人間が手に持っては扱えない。
そこで人間が扱えるギリギリまで威力を上げた中間弾薬を用いた自動火器を製造することを、シグルズは提案しているのである。
「なるほど。言わんとすることは分かる。だが、そういう中途半端は大抵失敗する気がするのだが、そこはどう思う?」
「それについては、実戦で使ってみないことには何とも言えませんな」
まあ地球で歩兵用の武器として圧倒的に普及したのだから、成功するのは間違いない。それを知っているのはシグルズだけであるが。
「それはそうだな。それで、開発にはどれくらい時間がかかる?」
「ライラ所長によれば、既存の技術のより併せとのことですので、そう時間はかからないそうです。まあ1ヶ月くらいかと」
「1ヶ月で出来るのか……」
シグルズが完成品を作り出してそれを写し取るだけだが、それにしても早いのは事実だ。
「まあいい。研究は進めておいてくれたまえ。だが弾薬が問題だな。中間弾薬という全く新しい弾薬を作らなければならないのだろう?」
「はい。自動火器ですから、消費量もかなり大きくなるかと」
「少数精鋭に配備するとしても、纏まった数が必要か。ルシタニアに任せるとしても問題だな」
ただでさえ弾が足りていないこの状況下で更に新種の弾薬を大量生産するとなると、いよいよ帝国の生産能力が追い付かなくなってくる。とは言え、ヴェステンラント軍に勝利するにはいずれ更なる鉄量が必要であることを、ヒンケル総統は痛感していた。