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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第四十六章 第二次カムロデュルム攻防戦
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大反撃Ⅱ

 シグルズはヴェステンラント軍の陣地に攻め入ったが、そこに敵兵の姿は見えなかった。


「師団長殿、敵はどうやら陣地を捨てて後退したようだ」


 オーレンドルフ幕僚長は言う。ヴェロニカの魔導探知機もそれを示していた。


「そのようだ。ヴェステンラント軍にしては引き際がいい」

「であれば何か裏があると見るべき。そうだろう?」

「ああ、そうだな。全軍、周辺を十分に警戒しながら進軍せよ」


 戦車の駆動音だけが響き渡る不気味な戦場。ヴェステンラント軍の建てた柵や櫓を破壊しながら第88機甲旅団は更に進軍する。


「シグルズ様、敵はかなり早く後退しています。まるで私達から逃げているようです」

「そう……。罠にでも掛けようとしてるのか?」

「そうかもしれんな」


 ヴェステンラント軍の行動は率直に言って不気味だ。そしてその予感はすぐに的中する。


「シグルズ様! 3時の方向より敵軍です! 数はおよそ1,000!」

「やはり来たか! 全軍、射撃よう――っ!?」


 シグルズが交戦を命じるよりも早く、一両の戦車が爆発炎上した。焼夷弾に火が付き手の付けられない炎上具合だ。


「ち、近いです! 敵はすぐそこにいます!」

「魔導封鎖して隠れていたってことか。直ちに応戦! 砲弾を惜しむ必要はない!」


 ヴェステンラントの重騎兵は魔法を一切使わないことで魔導探知機の探索を逃れ、機甲旅団が目の前に来たところで飛び出して来たのだ。やはり彼らの罠であった。


 それに対して戦車隊は即座に砲撃を開始。元より対人戦を主目的とする戦車砲は水平より下を向くことも容易であり、至近距離にまで接近されても敵を狙い撃つことが出来る。焼夷弾の炎は魔導兵を次々と焼き、炎の壁を作った。


「て、敵軍、突っ込んで来ます!」

「止められはしないかっ……」


 重騎兵は炎を飛び越え鬨の声を上げながら戦車に迫る。彼らの弩は次々と戦車の側面を貫き、大破炎上させる。そしてついに最前列(本来は側面)の戦車と接触した。


「白兵戦始め! 深追いはしなくていい! 奴らを迎え撃て!」


 歩兵は燃え盛る戦車を盾にして機関短銃で応戦。敵味方の混じり合う激しい戦闘が繰り広げられ、砲弾と銃弾と矢がそこかしこを飛び交う。矢は装甲を貫き、砲弾は装甲を焼いた。


「師団長殿、私も出るぞ」

「ああ、頼む」


 オーレンドルフ幕僚長は魔導剣を片手に指揮装甲車を飛び出した。そして周辺の兵を統率し、卓越した剣技で自ら重騎兵を斬り伏せる。


 激戦によって50両の戦車が全損し30両の装甲車が失われ、ヴェステンラント側も数百の兵士を失う。双方共に隊列を維持するのに支障が出るほどの大きな損害である。


「し、シグルズ様! 敵が下がっていきます!」

「よし! 歩兵隊は撤収。戦車隊は敵を追撃せよ」


 先に耐えかねたのはヴェステンラント軍であった。彼らは敗走し、その背中を対人焼夷弾が狙い撃つ。更に多くの兵士が燃え死んだ。こうしてヴェステンラント軍の奇襲は退けられたのであった。


「ふう……やっと終わったか」

「は、はい。何とかなりましたね……」


 竜巻に直撃された後のようであった。圧倒的な破壊の後には、ただ静寂だけがある。


「ヴェロニカ、被害を集計してくれ」

「は、はい」


 多くの下士官が戦死し指揮系統が混乱していたが、ヴェロニカはよく部隊の状況を集めた。


「シグルズ様、まず、現在動かせる戦車は320両です。他は完全に破壊されたか、工場での修理なしには動けないとのことです」

「そんなにやられたか。全滅じゃないか……」

「焼夷弾に引火したものが多いようです」

「対人焼夷弾の弱点、か。これは想定外だった」


 弩に貫かれても燃料槽に当たらなければ戦車が破壊されることはなかった。弩はほんの小さな穴を開けるだけだからだ。修理すればまたすぐに使える。少なくともこれまでは。


 だが戦車に新たな弱点が、それも複数生まれてしまった。戦車の随所に配置された対人焼夷弾は高温の矢に触れれば簡単に火が付き、その日が周辺の焼夷弾や燃料槽に引火し、あっという間に戦車が燃え上がってしまうのである。


「ええと、また、人的損害は900名ほどです……」

「そうか……。これじゃあとても戦列を維持出来ない。ザイス=インクヴァルト大将に通信を繋いでくれ」

「はい」


 状況を報告すべくシグルズはザイス=インクヴァルト大将に通信を掛けた。まず戦闘の一部始終と損害を報告した。


『――それは大きな損害だな。撤退が推奨されるほどのな』

「はい。ですので後退の許可を頂きたく」

『よい。これで機甲旅団が一気に2つも使えなくなってしまうが、仕方あるまい」


 第88機甲旅団は戦力を補充するまで戦闘に出られないだろう。


「閣下、対人焼夷弾は有力な兵器ですが、戦車に搭載するのはお勧めしません。もっと危険のない重砲に配備すべきです」


 敵の攻撃を受ける危険のない場所から撃つのなら焼夷弾は全く問題なく有効だ。


『君の報告を聞く限りはそのようだ。まあ、そもそもこれは一時的な処置。いずれはそうしよう』

「はい。それと、そうなるとやはり前線部隊に他の武器が必要です。対人徹甲弾の開発を強く求めます」

『君がそういう言葉遣いをするのは珍しい。それもライラ所長に要請しておこう』

「はい。ありがとうございます」


 第88機甲旅団は大きな損害を負ったものの、それ以上の損害をヴェステンラント軍に与えることに成功して帰還したのであった。

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