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切羽詰まる

 ACU2313 9/11 王都カムロデュルム西門付近


「クロエ様、ゲルマニア軍は市街地のおよそ3分の2を制圧しました。敵の有利は圧倒的かと」

「もうそこまで来ましたか。火炎放射器……本当に忌々しい兵器ですね……」


 魔導装甲にとってそれは天敵のようなものだ。火炎放射器の前では魔導装甲はほぼ何の役にも立たない。解決策と言えば水の魔法辺りで装甲を冷やすことだが、そもそもそんな魔法が使える魔女は魔導兵をやっていない。


「西門こそ防衛出来ていますが、最早カムロデュルムが陥落するのは時間の問題かと。非常に悔しいですが……」


 スカーレット隊長もそう判断せざるを得なかった。ゲルマニア軍の機甲旅団は圧倒的な力で着実に攻め寄せてきており、ヴェステンラント軍にはこれ以上打てる手がないのである。


「戦車を撃破する手段がない以上、勝ち目はないと言わざるを得ませんか」

「申し訳ありません……クロエ様……」

「こうなると、そろそろ脱出するべきですね。カムロデュルムにいつまでもいては、数少ない戦力も一網打尽にされてしまいます」

「……はっ」


 ヴェステンラント軍にとって最大の拠点であったカムロデュルムには、ブリタンニア島守備隊のほとんどである3万の兵が集結している。これが包囲殲滅の憂き目に遭えば、最早ブリタンニア島でゲルマニア軍に抵抗する手段はない。


「幸いにして、北門は我が軍の支配下にあります。そこから脱出することとしましょう」

「はっ。それでは準備を始めます」


 かくしてヴェステンラント軍はカムロデュルムを放棄することを決定した。


 ○


「閣下、ヴェステンラント軍に撤退する気配があります」

「おおそうか、ハインリヒ。北門からだな?」

「はい。その様子です」


 紳士の中の紳士と有名なハインリヒ・ヴェッセル幕僚長はオステルマン軍団長にそう報告した。追い詰められたヴェステンラント軍がいずれ北門から脱出を図るであろうことは、既に予想されていたことである。


「敵は我々の狙い通り、北門から逃げようとしている。逃げ道を塞いでやれ」

「はい。第71、74師団を動かします」

「そうしたら奴らがどう出るか、ちゃんと見ておけよ」

「もちろんです」


 北門を開けていたのはわざとだ。いつでも部隊を派遣してそれを封鎖する準備は出来ている。ヴェッセル幕僚長は早速予備部隊を動かし、北門に向かわせた。


 ○


「クロエ様、一大事です! ゲルマニア軍が北門に部隊を増派したようです。これでは逃げ道が……」


 スカーレット隊長は慌てた様子でクロエの許に戻ってきた。


「……敵の数は?」

「おおよそ3万です。それに40両程度の戦車があります。強行突破も出来なくはないですが、城門から出るところを狙い撃ちにされると、相当な損害を覚悟しなければならないかと……」

「せっかく逃げても意味がない、ですか……」


 カムロデュルムの水堀は、ほんの限られた道からしか出入り出来ない。それはカムロデュルムの防衛には非常に強力であるが、敵に利用されると今度はヴェステンラント軍を閉じ込める檻になる。細い橋の上でゲルマニア軍の銃砲の一斉射撃を浴びれば、魔導兵は何の反撃も出来ずに殲滅されるだろう。


「クロエ様、これで出口は塞がれてしまいました。いかがしましょうか」

「退路を事前に確保していなかったのが失敗でしたね……。最悪、コホルス級だけ逃がして他は降伏させることになるでしょうが」

「しかし、それ以外の選択肢は……」


 兵に大きな損害が出るのであれば脱出を図ったとしても意味がない。魔女以外を逃がす方法は残念ながら存在しないと言わざるを得ないのだ。


「クロエ様、かくなる上は焦土作戦を行い、ゲルマニア軍の進軍を遅らせるしかないかと」


 マキナはカムロデュルムの破壊を提言した。


「罪のない人々の生活を奪えと言うのですか?」

「はい。そしてゲルマニア軍ならば彼らに食糧や家を提供せざるを得ないでしょうから、進軍が鈍ります。多少の時間稼ぎにはなるかと」

「そうですね……。別に民を殺す訳ではない、ですか」

「はい。それはクロエ様のご意志に反しますので」


 カムロデュルムをくれてやるくらいなら灰にしてしまえ。それがマキナのせめてもの作戦である。


「……分かりました。市民には直接被害が及ぶことのないように、市街地を焼き払います。それと同時に、北門突破の用意だけは整えておいてください」

「はい。そのように」


 焦土作戦は決定だが、まだ強行突破を諦めた訳ではない。北門に部隊を集結させつつ、ヴェステンラント軍は更に後退を開始した。


 〇


 一方その頃、シグルズはクロムウェル子爵と合流を果たしていた。


「それではクロムウェル子爵、オーレンドルフ幕僚長を返してもらいます」

「ええ。もう人質など必要ありません」


 半月ほどクロムウェル子爵と行動を共にしていたオーレンドルフ幕僚長は、第88機甲旅団に復帰した。


「それでは、我々は王宮に政府を設けます」

「はい。ヴェステンラント軍は速やかに排除しますのでご安心を」


 クロムウェル子爵は政府の復活を宣言し、市民を味方に付けた。ヴェステンラント軍の状況はますます悪くなるのであった。

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