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Ⅴ号装甲列車Ⅱ

「し、シグルズ様! 巨大な魔導反応です!! 3時の方向です!」

「巨大な?」

「は、はい! 弩砲とは比べ物にならない規模のものです!」


 ヴェロニカの魔導探知機は見たこともない反応を示した。ありえない規模の魔導反応が探知され、ヴェロニカは全く状況が理解出来なかった。


「そ、そうか。何が何だか分からないけど、とにかくマズそうだ。列車砲、魔導反応がする辺りを吹きとばせ!」


 ヴェステンラント軍が何を企んでいるのかは知らないが、殺られる前に吹き飛ばしてしまえばいい。列車砲は直ちに旋回し、照準を定めようとする。しかし、一歩間に合わなかった。


「な、何かが来ます!!」

「総員衝撃に――っ!? うっ……」


 その瞬間、竜巻のど真ん中にでもいるかのような突風が吹き付けた。シグルズは鉄の盾を立てて風を防ぐも、周囲にいた兵士は簡単に吹き飛ばされてしまった。


「大丈夫か!?」

「は、はい。ただの風です。大したことはありません」

「それならよかった……」


 被害は酷い者でも骨一本が粉砕される程度で済んだ。しかし、そんなことは全く重要ではない。シグルズは烈風の先を見て驚愕することになる。


「れ、列車に穴が……」


 壁から光が射していた。装甲列車の難攻不落の筈の装甲に、まるで戦車砲にでも貫かれたかのような穴が開いていたのだ。それも両方の壁に同じような穴が一つずつ。


「嘘でしょ。この装甲を2枚も貫くなんて……」


 クリスティーナ所長はすっかり動揺してしまった。この世界の既知のどんな兵器よりも優れた貫徹力を持った何かに、装甲列車は撃ち抜かれたのだから。


「と、とにかくシグルズ、穴の先を見てみましょう。これを貫いたものがある筈よ」

「え、ええ、そうですね」


 装甲に開いた穴から外を覗き込む。するとそこには、更に信じられないものがあった。


「や、槍……?」

「ええ、槍ですね……」


 そこには地面に半分くらいが突き刺さっている槍があった。とても信じられないが、この状況からしてこの槍が装甲を貫いたのだろう。


「これは、間違いなくクロエがやったことでしょうね」

「白の魔女、ね。どうする? 魔導反応で撃たれる前に探知出来なくはないようだけれど、迎撃は間に合わないわ」


 魔導反応から攻撃までの間隔が余りに短い。大砲では間に合わない。


「それでは、やはり僕が出るしかないようですね」

「そうね……頼むわ」


 シグルズが自分からクロエを狩りに行くしか対処法はないだろう。


「それとシグルズ様、砲撃の用意は出来ていますが、どうします?」

「ああ、取り敢えず撃とう。撃ち方始め」


 一先ず魔導反応が確認された辺りを砲撃。まあ特に意味はないだろうが。


「では僕とヴェロニカは出撃して来ます。以降の指揮はオーレンドルフ幕僚長に任せますので、よろしくお願いします」

「分かったわ。行ってらっしゃい」


 シグルズは装甲列車を飛び出してクロエを迎え撃ちに行った。しかし、クロエからの攻撃はそれ以降パタリと途絶えた。それどころかヴェステンラント軍自体が撤退していった。


 ○


「クロエ様、撤退してよかったのですか? ゲルマニア軍の攻撃くらいなら私達の脅威ではないかと思われますが」

「私だってあんな大砲に直接撃たれたら死にます。いくらあなたでも死者を蘇らせることは出来ないでしょう?」

「そ、それは……はい」


 体を真っ二つにされても再生出来るマキナだが、死んだ人間相手にはどうにも出来ない。


「しかし……ゲルマニア軍にはほとんど何の損害も与えられていません。装甲列車に一つの穴を開けただけでは、意味がありませんかと」

「いいえ、これでいいのです。私達に装甲列車に損害を与えられる能力があるとなれば、ゲルマニア軍は常に大規模な護衛部隊を随伴させなければなりません。私達は何もしなくても、ゲルマニア軍の補給に負担を掛けることが出来るのです」

「なるほど。流石はクロエ様です」


 ゲルマニア軍は今後、クロエに対抗出来る部隊を常に同伴させなければ装甲列車を動かせなくなる。たった一回の魔法でゲルマニア軍に恒久的な負担を掛けさせるという、なかなかの策士である。


「それに、いささか疲れました。この魔法は実戦的ではないですね」

「そ、そうでしたか。気付けず申し訳ありません」


 マキナは珍しく動揺を顔に出した。


「おや、私のことを心配してくれるんですね」

「当然です。私はクロエ様をお守りする為に存在しているのですから」

「ありがとうございます。では王都に戻りましょう。王都で援軍が来るまで耐え抜けば勝ちです」

「帰りは私がおぶっていきましょうか」

「大丈夫ですよ。一人で帰れます」

「――はっ」


 ヴェステンラント軍はカムロデュルムに全力で立て籠もる。


 ○


「やっぱりカムロデュルムはなかなかの要塞のようだな」

「そうだな、師団長殿。ブリタンニアが大昔から要塞化しているのに加えて、ヴェステンラント軍がかなり戦力を増強しているようだ」

「付城戦術を選んでよかった」


 カムロデュルムの近郊に陣地を構築し、カムロデュルム攻撃の前線基地とする。中世的な付城戦術にはまだまだ需要があるようだ。

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