Ⅴ号装甲列車
ACU2313 8/12 ブリタンニア連合王国
「よーし、行くわよ! Ⅴ号装甲列車、出撃!!」
「く、クリスティーナ所長、安全なところにいてください」
Ⅴ号装甲列車は全ての車両が大陸から送られてきて、出撃の用意を整えた。第88機甲旅団と共にカムロデュルム近郊に進出し、前線基地を整備するのだ。Ⅴ号装甲列車が先頭に、戦車隊が後ろに続く。
シグルズは装甲列車の先頭車両の先頭に立ち、魔法で線路を延ばしていく。クリスティーナ所長も何故かそこにいる。
「あなたがいれば安全でしょう。大丈夫よ」
「万が一にもクリスティーナ所長に倒れられると、帝国の工業生産が崩壊するんですよ。それは困ります」
「大丈夫大じょ――ひうっ!?」
その瞬間、高速の矢が飛来した。シグルズは咄嗟に鉄の盾を作り、矢を跳ね返した。
「ほら、言ったこっちゃないですよ」
「え、ええ…………そうね。は、はは、私は機関車に帰るわ。後はよろしく」
「そっちの方が助かります」
装甲列車は停止。戦闘が始まった。
○
「以前に確認された装甲列車と比べ、装甲も武装も強化されているように見受けられます。敵の新型車両かと」
マキナはクロエに報告する。装甲列車が通るであろう道は既に見当がついており、ヴェステンラント軍は五千程度の伏兵を配置していた。
「そうですか。それは少し、困りますね」
「はい。以前に確認された装甲列車ですら、我々は落とすことに失敗しました」
「そうですね……。一先ずは性能を試してみましょうか」
「はい。弩砲を使ってみましょう」
山中に20ばかりの弩砲を潜ませてある。装甲列車に狙いを定め、そして一斉に射撃を行う。
「撃てっ!」
放たれたのは戦車を簡単に貫く巨大な矢である。しかし装甲列車の装甲には通じなかった。それにほんの凹みを付けることには成功したものの、貫くことに成功したものは一つもなかった。
「なかなかの装甲ですね……」
「っ! クロエ様、危険です。離れてください」
列車砲と戦車が一斉に横に旋回した。そしてたちまち砲撃が開始され、弩砲は木々ごと次々に吹き飛ばされた。ゲルマニア軍が撃ってくるのはもう想定済みであり、ヴェステンラント軍に特に損害は出なかった。
「なるほど……。弩砲でも効かないとなると、いよいよあの装甲を貫くのは不可能なようですね。どうしましょう」
「あれを戦車と同じように考えるべきではないかと。戦艦と同様の存在であると考え、対処すべきかと考えます」
「戦艦ですか。確かに、それも一理ありますね」
戦艦の装甲を貫くことの出来る兵器をヴェステンラント軍は保有していないが、敵艦に乗り移るという方法でそれなりに追い詰めることは出来た。まあ結局乗っ取ることには失敗したが。
「しかしそういう意味だと、戦艦よりも厄介かもしれません。簡単に侵入出来そうな入口などありませんから」
「確かに、そうかもしれません」
戦艦よりも遥かに小さいが、それ故に隙も少ない。接近したところで侵入するのは困難だ。
「とは言え、あんなのにのさばられては問題です。何とかしなければ……」
「選択肢はひとつです。困難は予想されますが、外部から破壊することが不可能である以上、内部に侵入して制圧するしかないかと」
「そうですね。魔導剣ならあの装甲を焼き切れるかもしれません」
高熱を発生させる魔導剣を使えば、理論上はどんな厚さの鉄板でも切断することが出来る。まあ敵から妨害を受けなければ、だが。
「とにかく、それに賭けるしかありません。全軍突撃。装甲列車に乗り移ります」
「はっ」
ヴェステンラント軍決死の総攻撃が始まった。
〇
シグルズは中央の指揮車に移り、迎撃の指揮を執っている。
「シグルズ様! 左右より多数の魔導反応です! 左右に三千ずつくらいかと!」
ヴェロニカは素早くヴェステンラント軍の突撃を察知した。森の中に身を潜めていた魔導兵が一斉に突撃を仕掛けてきたのである。
「ただの歩兵と騎兵だけ?」
「はい。それだけです!」
「ならば問題はない。全軍、迫り来る敵を迎え撃て!」
各車に40門積んである重機関銃。それが一斉に火を噴き、無数の弾丸が魔導装甲を打ち付け、たちまちその限界を超えて貫いた。
ハリネズミのように装甲から突き出した機関銃は、何人の接近も許しはしない。ヴェステンラント兵はその圧倒的な火力を前に、距離を詰めることすら出来なかった。
「あ、シグルズ様! 空です。空から来ます!」
「コホルス級か。対空機関砲、撃ち方始め!」
「はっ!」
4連装の対空機関砲も、各車の天井に5基ずつ設置してある。大口径の銃弾の弾幕に、翼を生やした魔女達は次々と撃ち抜かれ墜落した。
四方八方に銃弾をばら撒き、ヴェステンラントのあらゆる兵器を無効化する装甲列車は、この世界の陸上で最強の存在であった。
「圧倒的ですね……。全く敵が近寄って来ません」
「その通りよ! ヴェステンラント軍の能力も全て計算済みなのだから!」
「あ、クリスティーナ所長、いたんですね。気付きませんでした」
「ねえそれは酷くない?」
ともかくヴェステンラント軍の試みは全て打ち砕かれた。そう思われていた。