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本土決戦

「相変わらず迎え撃つ気のない連中ね……」


 ドロシアは誰もいない海岸線を眺めながら呟いた。敵地に上陸するその瞬間は兵士が最も無防備になる瞬間だと言うのに、大八州軍は何故かその好機を使いたがらないのである。


「今回もまた、私達を引き込んで殲滅しようというつもりなんでしょうか……」

「まあ、そう考えてるでしょうね」


 全くいかれた話だが、大八州軍に最早敗北という発想はないのである。彼らにとって勝利は前提であり、いかに完璧な勝利を掴むか、つまりヴェステンラント軍をいかに殲滅するかしか考えていないのだ。


 水際で防衛を行うのが最も合理的な方法だ。だがそれではヴェステンラント軍に逃げられてしまう。だからわざわざ陸地に攻め込ませて、それを完膚なきまでに叩こうと言うのである。狂った連中だ。


「まあいいわ。それなら物量で叩き潰してやるまでよ。先遣隊はとっとと上陸し橋頭保を確保、そのままま後続の到着を待つわ」

「はい。そうしましょう」


 ヴェステンラント軍は早速上陸作戦を開始した。


 ○


「嶋津殿、どうやら奴らは守りを固めているようです」


 大友家臣の立花肥前守義茂と嶋津薩摩守昭広は、またしても偵察に出ていた。


「そのようだな。奴ら、少しは慎重になったじゃないか」


 ヴェステンラント軍はこの時点で二分三倍の兵力差をつけている訳だが、無暗に進攻せず、上陸地点に陣地を築いて守りを固めていた。ヴェステンラント軍もなかなか成長している。


「どうされますか? 敵はすぐにこれに倍する増援を送り込んで来るでしょう。今のうちにこちらから攻めかかるのが王道かと思われますが」


 どう考えても敵が三倍になる前に叩いた方がよい。それは幼子にだって分かる道理である。


「そうだなぁ。まあそれも悪くはねえが、もっと面白く勝ちてえな」

「面白くとは?」

「十万の兵を叩き潰してやろうぜ。そうしたらもうヴェステンラントの奴らは手も足も出せなくなる」

「五倍ですよ。勝てますか?」

「勝てるさ。俺達ならな。お前もいるし、俺もいる」


 確かに大八州でも最強の戦闘狂が揃っているが、それでも義茂は賛成出来なかった。


「……まあいいでしょう。嶋津殿が仰るのならば、異論はありません」

「いいのか? 俺が間違ってるかもしれないぜ?」

「それは……しかし、私は負けましたが、嶋津殿が負けたことはこれまでに一度もありません」

「まあな」

「そうだ、では一つ聞かせてくれませぬか?」

「何をだ?」

「何故に嶋津殿は敵を叩き潰そうとお考えになるのですか? 我々はそもそも神州を守ればよいというのに」


 これは防衛戦である。最大の目的である大八州本土の防衛を危険に晒してまで敵を叩こうとする昭広の意図が、義茂には理解出来なかった。


「ま、一番は俺の好みだな」

「……お戯れを」

「冗談だ。ちゃんとした訳もある。武田だ」

「武田?」

「俺達が負ければ、武田は背後を脅かされる。だが逆に、俺達がヴェステンラントを叩き潰せば、奴らは気兼ねなく中國攻めが出来る。そうすればこの戦も終わる」

「なるほど。確かによき策です。勝てれば、ですが」


 武田と嶋津は互いに背中を預け合う位置関係にある。そこで嶋津が自由になれば、戦況は大きくこちらに傾くだろう。まあ負けたら全く意味がないのだが。


「それでは、何としても勝たねばなりませぬな」

「ああ。ここを皆の死に場所にする勢いで、奴らを滅ぼそうじゃないか」

「はい。必ずや勝って見せましょう」


 立花肥前守は覚悟を決めた。


 〇


 ACU2313 6/7 薩摩國


「さあ、村は焼き尽くしなさい。人は奴隷としなさい!」


 ドロシア率いる合州国軍は10万の軍勢を集結させ、嶋津領への侵攻を開始した。


 ヴェステンラント人は大八洲人の村を見つけるや否や魔法で火を放ち、逃げ惑う村人を捕まえて奴隷とした。新大陸の人間の本性とは、いつの時代でもこうなのだろう。


「殿下、我々の手から逃げ出した村人が数十人いるようです。どうされますか?」

「白人の奴隷になることを拒むのならば、殺すだけよ。騎兵を送って殺しなさい」

「捕まえなくてもよろしいので?」

「奴隷にすら値しない屑よ」

「ははっ」


 降伏した者は奴隷とし、そうでなければ殺す。ドロシアの非道はシモンがいなくなったせいでますます悪化していた。


「ドロシア……こんなことをして意味があるとは……」


 別に有色人種に同情する訳ではないが、明らかに占領統治に支障をきたすドロシアのやり方に、オリヴィアも流石に苦言を呈する。


「意味? 私は白人として当然のことをしているまでよ」

「それは理想論に過ぎますよ……。もうちょっと現実を見てはくれませんか?」

「……言ってくれるじゃない」


 ドロシアも本当は気づいているのだろう。これが馬鹿げた行為だと。だが、だからこそ、彼女は苛立つ。


「わ、私だってあなたと同じ大公です。我が軍の害となることは、排除しなければなりません」

「ほう? 私が害って?」

「べ、別に、そんなことは言っていませんが……」

「冗談よ。でも、指揮官は私なの。私の命令に従いなさい。そうでないのならあなたを解任するまでよ」

「……分かりました」


 ドロシアに妥協する気はないようだ。

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