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大八州の戦況

 ACU2313 5/21 大八州皇國 中國 平明京


 上杉家を実質的に乗っ取りその巨大な軍事力を継承した曉であるが、彼女自身は危機に晒されていた。


「曉様、東陽が落とされました。最早武田がここに攻め寄せるのも時間の問題かと……」


 黒衣の少女に伝えられたのはいつも通りに絶望的な報告だ。平明京のすぐ北の要衝がたった今陥落した。


「曉様、最早武田がここに攻め寄せるのには一月もかからぬでしょう。かくなる上は、更に南に都を移すご決断を」


 曉の第一の家臣、明智日向守はそう提案した。武田家の勢いを食い止めることが無理な話であるのは、誰も言いはしないが分かっていることだ。


「……百姓を兵として使えば時を稼げると言ったのはあなたよ。にも拘わらずこの有様はどういうことかしら」

「それについては、申し訳もありません。私の思っていたより、武田の武略は遥かに強大なものでした」

「あっそう。でも退きはしないわ。この平明京は難攻不落の要塞よ。ここで奴らを迎え撃ってくれるわ」

「曉様がそう命じられるのならば歯向かいはしませんが」

「負けたら逃げるまでよ。もうじきヴェステンラントが来る。その時まで耐えられれば……」

「奴らを頼りにするとは……」


 曉は地上から撲滅したがっている白人を、本気で頼りにし出していた。それほどに余裕がなくなってきているのである。


「しかし、彼らはようやく内地に攻め込む算段を固めたに過ぎません。武田の背後を突くにはまだ相当な時が……」


 ヴェステンラント軍は皇國本土への侵攻作戦をいよいよ実行しようとしている。しかしそれが成功したとて、潮仙半嶋の武田家を叩くには筑紫洲(九州)を完全に制圧しなければならない。まだまだ時間はかかるだろう。


「平明京は難攻不落なのよ。兵は全てここに集めなさい。ここが死に場所よ」

「……はっ。それもまた、策の一つやもしれません」


 ここまでの遅滞戦闘では武士は極力温存してきた。そのお陰で二万以上の兵力が曉の麾下にある。まあこれでようやく武田の兵力と同等なのだが。これで大八州でも最強の要塞である平明京に籠城すれば、多少は時間を稼げるだろう。


「後は、ヴェステンラントに内地への進攻を早めるように伝えなさい。私達に弓引く嶋津の連中を叩き潰せとね」

「はっ。直ちに」


 筑紫洲のほぼ全土を領有する嶋津家。ヴェステンラントにとって当面の敵は彼らだ。


 ○


 ACU2313 5/21 琉球國


 大八州皇國の勢力圏のど真ん中にありながら独立を保ってきた琉球國。ヴェステンラント軍はこれを事実上制圧し、大八州侵攻の拠点としていた。


「へえ、曉が私達に泣きついて来たのね」


 黄公ドロシアは曉からの通信を鼻で笑った。彼女もまた、有色人種を人間と思っていない典型的な白人である。


「どうしますか、ドロシア。要請に応じます?」


 青公オリヴィアはドロシアに尋ねる。


「まあ、奴の為ではないけど、とっとと大八州に攻め込みたいのも確か。今すぐに船団を送り込むわ。そっちの用意は整っているでしょうね?」

「はい。いつでも行けますよ」

「じゃあ奴らを滅ぼしに行きましょうか。今度はこっちが攻める番よ」

「そうですね……。緊張します」


 植民地を一方的に攻め込まれ、それを奪い返し、今度は大八州の本土に攻め込もうとしている。だがヴェステンラント軍にとって大八州本土は全く未知の土地であり、地の利は完全に向こうにあるから、油断するべきではない。


「大丈夫よ。こっちの兵力は十万、相手は精々二万、負ける筈がないわ」

「そう言って今まで何度か負けてる気がするんですが」

「……うるさいわね。今は晴虎はいないのよ」

「それはそうですが……」


 何倍の兵力差を以てしてもそれを跳ね除けてしまう男はもういない。とは言えオリヴィアは安心など出来なかった。


 ○


 ACU2313 5/25 大八州皇國 薩摩國


「おおー、奴ら、本当に来やがったな」

「あ、昭広様……早く本陣にお戻りに……」


 嶋津薩摩守昭広は、自ら岸辺に出てヴェステンラント艦隊を眺めていた。二百隻程度の艦隊には、ざっと四万程度の兵が乗っていることだろう。上陸作戦の第一陣である。


「敵はこの目で見ておかねえとな。それが総大将ってもんよ」

「そ、それはもっともなのですが、いくらなんでも……」

「俺だって引き際くらいは心得てるさ。何年戦場を駆け抜けて来たと思ってるんだ?」

「そ、それは……」


 歴戦の武士である昭広の言葉は、そこらの武士では言い返すことなど出来なかった。


「まあいい。しっかりと敵を見た。そろそろ戻るとしよう」

「はっ!」


 昭広は本陣に戻る。そこには大八州でも名の通るそうそうたる面々が集結していた。


「そろそろ敵が攻めて来る。大友殿、龍造寺殿、よろしく頼もう」

「こちらこそ、神の国を守る為に手を携えられて嬉しく思う」

「うちには血に飢えた連中が多い。存分に使ってくれ」


 昭広が指揮を執るが、ヴェステンラント軍を迎え撃つ軍勢は、嶋津、大友、龍造寺という大大名の連合軍なのである。毛利や長宗我部からも援軍が届いており、その兵力は二万を超える。

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