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上陸作戦の建議

「えー、つまり、我々には強襲上陸が可能な兵器、或いは艦艇が必要な訳です」

「強襲上陸?」


 ヒンケル総統の辞書には、と言うかこの世界には強襲上陸という言葉は存在しなかった。


「あー、敵が防御を固めている拠点に対し上陸を仕掛けることです。便宜的にこのように呼ばせて頂きます」

「分かった。それで?」

「はい。我々に必要なのは、地上に速やかに安全に、兵士を送り込める小型船です。海上からの砲撃で援護を行いつつ、このような艦艇で敵地に兵士を叩き込み、地上を制圧します」


 兵士50人程度を乗せる小型快速、かつ少なくとも魔導弩の攻撃を受け付けない防御力を持った上陸艇。この世界の技術で可能なのは、そんな第二次世界大戦で使われていた方法くらいだろう。


「なるほどな。しかし、我々にはその条件を満たせる主機がないのではないか?」


 シュトライヒャー提督は言う。蒸気機関はかさばるし、爆発的な出力を出すのには向いていない。シグルズの要求を満たす船を建造するのは厳しいのではないかと。


「そこについては、戦車のエンジンを流用すればよろしいかと。小型船にはそっちの方が向いています」

「なるほど……。確かにな」

「ライラ所長、こんな感じですが、いけそうですか?」


 シグルズは三角帽子を被った、絵に描いた魔女のような女性に問う。


「うーん、まあいけるんじゃないかな。特別新しい技術が必要な訳じゃなさそうだし」

「どのくらいで量産出来そうですか?」

「1ヶ月もあれば設計図が出来ると思うよ。いつもみたいに私に見せてくれるんでしょう?」

「ええ、まあ」


 いつもの事だが、この上陸艇は何もシグルズが考えたものではない。大東亜戦争で日本が運用していた大発動艇のパクリである。


 よってシグルズは魔法でそれを作り出すこのが出来て、ライラ所長がそれを分析して図面に起こすのである。


「この案に異論はないか、シュトライヒャー提督?」

「ありません。そのような艦艇があれば、上陸を強行することも可能でしょう」

「分かった。ではライラ所長、可能な限り早く設計図を仕上げてくれ」

「了解ー」


 量産と言ってもそう何千隻も造る訳ではないし、全長は戦艦の10分の1程度の小型船だ。準備はすぐに整うだろう。


「それともうひとつ」

「ん? 何だ?」

「このような船ですから、海を渡るなど到底不可能です。海岸のすぐ側までこれらを運ぶ輸送船が必要となります」

「輸送船か。それは、普通の輸送船ではダメなのか?」


 ゲルマニアが運用する鉄の輸送船ならば、問題なく運ぶことは出来るだろう。しかしそれではダメなのである。


「ダメです。上陸艇を輸送することは当然ながら、同時に多数を素早く展開する能力も必要になります。強襲揚陸艦とでも呼びましょうか」


 上陸艇を搭載するのみならず、専用の射出装置を持ち素早くそれらを展開出来る艦が必要だと、シグルズは考えている。まあこれも、陸軍が運用していた神州丸やあきつ丸のパクリなのだが。


「なるほどな……。しかし、その建造には相当な時間がかかるだろう。規模としては戦艦に近いようであるし」

「それについては、既存の輸送艦を改装すればよいかと。そこまで期間はかからないと思います」

「分かった。ではその研究も、ライラ所長、頼めるか?」

「えー……二つも? ですか?」


 ライラ所長は総統に露骨に嫌そうな顔をして見せた。


「ふむ……シグルズ、その強襲揚陸艦は、必ず必要となるか?」

「勝算は大幅に向上するかと」

「分かった。それではライラ所長、まずは改装に時間のかかる強襲揚陸艦から設計図を頼む」


 確かに、上陸艇も強襲揚陸艦も同時に完成させればよい。ヒンケル総統の判断は的確だ。


「それだったら、まあ、うん」

「では頼む」

「あ、だったらシュトライヒャー提督、船渠一つ貸してね」

「……了解です。適当に手配しておきます」


 ライラ所長とシグルズは早速、上陸に関する技術の研究に打ち込むこととなった。


 〇


 北部の海軍工廠を海軍から分捕り、ライラ所長とシグルズは早速開発にかかることとなった。


「じゃあシグルズ、その強襲揚陸艦、見せてくれる?」

「はい。では――」


 シグルズは手をかざし、歴史の教科書で見た最初期型の強襲揚陸艦を思い浮かべる。そしてそれが目の前の船渠に浮いている姿を克明に想起し、手元に力を込める。


 すると数十秒かけて、かつて存在した艦がそのままの形で造られた。知っている実在の兵器ならば何でも呼び出せる、シグルズ固有の魔法である。


「へー、ここから上陸艇を飛び出させるんだ」

「はい。多数の上陸艇を素早く展開することが可能です」


 船の中には上陸艇を収容する船渠があり、そこから機械で上陸艇を引っ張り出して、滑走台から素早く海に出撃させるのである。


「ねえねえ、魔法でこれ造れるんだったら、これで上陸すればいいんじゃないの?」

「ダメですよ。ものが大きくなるほどにそれが崩壊するのは速くなりますから」

「分かってるってー、冗談だよ」


 魔法で作ったものは必ず崩壊する。大体丸一日が目安だが、こんな巨大なものは2時間程度で使い物にならなくなるのだ。

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