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次の戦争の為に

 ACU2313 5/18 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


 エウロパ大陸をヴェステンラント合州国の手から解放してから2週間ほど、総統官邸で会議が開かれることは稀であった。とにかく誰もが、この一時の安息を楽しみたかったのである。


 とは言え、そうもしてはいられない。ヴェステンラント軍はブリタンニア連合王国を占領している。壊滅した海軍も、いつ本国から増援が届くか分からない。


 休憩時間はもう終わりだ。


「さて、まず、少々時間を置いてみたが、ダキアの情勢はどうだ?」


 ヒンケル総統はローゼンベルク東部方面軍総司令官に尋ねた。


「はい。東部ではまだ少数ですが、我々に降伏する勢力が出始めています。ヴェステンラント軍という希望が潰えたのと、総統閣下の宥和政策の賜物です」

「いささか穏健に過ぎるとは思いますが。反乱分子に殲滅以外の選択肢など……」


 親衛隊のカルテンブルンナー全国指導者は、ローゼンベルク大将を嘲笑うかのように言った。


「こいつ……。実際に成果を出しているのはこっちなんだ。ロクに成果も出せていない親衛隊に言われたくはない」

「本当に成果なのでしょうかね? 未来永劫に渡って反乱分子が牢獄で大人しくしているとでも?」

「ダキアを占領しなければならないのはこの戦争が続いている間だけだ」

「まあまあ落ち着け、二人とも。みっともないぞ」


 ヒンケル総統はいつも通りに喧嘩を止めさせた。相変わらず軍部と親衛隊は仲が悪い。


「しかし閣下、ローゼンベルク大将の言う通りです。この戦争には早急に幕を引かねばなりません」


 ザイス=インクヴァルト西部方面軍総司令官は言う。


「そんなことは分かっている。だが、エウロパ派遣軍を壊滅させても、結局奴らが平和条約に応じる気はないではないか」

「それは確かに、私の楽観でした。申し訳ありません」


 ザイス=インクヴァルト大将も少しはヴェステンラント軍が譲歩してくれると思っていたのだが、彼らにそんな気は微塵もなかった。まったくもって度し難い連中である。


「まあいい。どの道、我々には春作戦以外の選択肢はなかったからな。だが、次はどうするつもりだ?」

「当然、ブリタンニアも奪還します。我々にはそれ以外の選択肢はありますまい」

「ついに海を越えるか……。出来るのか?」

「海のことは海軍にお聞きください。我々から言えるのは、上陸に必要な兵力なら確保出来るということです。敵の兵力は精々3万で、西部方面軍は200万の兵力を持っているのですから」


 兵力はある。問題はそもそも強襲上陸が可能なのか、そして兵員を輸送出来るかである。


「そこのところはどうなのだ、シュトライヒャー提督?」

「そうですなあ……先のルシタニア上陸作戦と比べれば、やはり多大な困難が予想されるかと」

「具体的には?」

「まず先の作戦においては、軍団を複数に分けて潜ませておくことで、一気に40万の兵力が上陸したかのように見せかけることが出来ました」


 実のところ、ゲルマニアにそんな巨大な兵力を一度に輸送する能力はない。故に、ゲルマニア軍は複数回に分けて大山脈に兵を上陸させ、40万が揃ったところで一気にその制圧に乗り出したのである。


「ですが、その手は通用しないでしょう。ブリタンニアはヴェステンラントの手に落ちてから久しく、統治において混乱も見られません」


 ゲルマニアがバレずに兵を上陸させられたのは、ルシタニアでレジスタンスが活発に活動してヴェステンラント軍を撹乱していたことや、そもそもヴェステンラント軍がルシタニア全域を掌握出来ていなかったからだ。


「なるほどな。だから一回の上陸で地上に橋頭堡を築かなければならない、という訳か」

「流石は閣下、その通りです。然るに、速やかにブリタンニアの地に橋頭堡を確保するには、どこかの港を確保する必要があるでしょう」

「港か。真正面から敵とぶつかることになるな」

「はい。敵が防衛する拠点に対し上陸を仕掛けるというのは我が軍には経験がなく、実際のところどうなるかは未知数です」

「確かにな……」


 海を隔てた攻撃の例はなくはない。スカディナウィア半島の諸国との戦争であるが、その時は圧倒的な技術と国力の差で押し潰したようなもの。カイテル参謀総長も、上陸で苦労した記憶はない。


 同等の軍事力を持つ敵の拠点へ強襲上陸を仕掛けることには経験がないのだ。


「我々には戦艦がありますが、それとて敵が塹壕に籠れば殲滅は困難です。上陸には相当な困難が伴うかと」

「港の近郊に上陸を仕掛けるというのは?」

「敵もそのくらいは想定しているでしょう。それに、塹壕など彼らはすぐに造れますからな」

「そうだな……。いずれにせよ、我々は完全に未知の作戦に挑まなければならない訳だ」


 ブリタンニアは落とさねばならない。その為には強襲上陸は必須だ。避けて通ることは出来ない。


「そういう時はシグルズ君に意見を求めるののはいかがですか?」


 ザイス=インクヴァルト大将は不敵な笑みを浮かべながら言った。


「ええ……」

「何かあるか、シグルズ?」


 まあ、作戦がない訳でもない。

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