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ヴェステンラント独立

 数十の弾丸がイズーナの体を貫き、剣が突き刺さり、服が黒く焼け焦げた。しかしイズーナは痛がる素振りすら見せなかった。


「ははは、無駄ですよ」

「クソッ……この悪魔がっ!」

「悪魔はあなた達の方でしょう? では、死ね」


 イズーナは一瞬で傷を治すと、自身を取り囲むように大量の剣を作りだし、魔女達に向かって銃弾のような速度で投げ飛ばした。たちまち魔女達の胸に剣が突き刺さり、ことごとく大地に墜落していった。


「こ、この…………」


 ふらふらとしながらもイズーナを睨んでいる屈強な魔女がいた。


「まだ生きてるんですか。しぶといですね。ではさようなら」


 イズーナは銃を作り出して彼女の頭を撃ち抜いた。かくしてゲルマニアの魔女隊は全滅した。


「じゃあ、とっとと終わらせよ」


 イズーナは再び巨大な火球を召喚し、ゲルマニア軍に向かって何度も何度も投げ飛ばした。兵士達はことごとく炎に包まれ、灰を焼かれ空気を失い、虫けらのように死んでいった。


 最後にイズーナが突撃の合図を出すとヴェステンラント軍はゲルマニア軍に突入し、マトモに戦うことも出来ない彼らを蹂躙し、殺し尽くしたのであった。


 ○


「そ、総督……我々は、負けました。ヴェステンラント軍がここに来るのも時間の問題です」

「悪魔め…………。私達は逃げるぞ。こんなところで死んでいられるか」

「植民地を――放棄されるのですか?」

「最早私達に兵士は残っていない。本国からの増援も間に合わないだろう」

「……分かりました。我々だけでも逃げるとしましょう」


 ヘルムート総督はゲルマニア植民地を放棄して本国へと逃げ帰った。そしてヴェステンラント軍はまもなく、大八州領以外の全ての植民地を解放して完全な独立を成し遂げるのであった。


 ○


 ACU2312 7/4 ヴェステンラント合州国 首都ルテティア・ノヴァ


「――我々は成し遂げたのだ! 今日この日より、我々は完全に独立した新たな国家であることを宣言する! エウロパの国々が我々に対し何かを要求することは、今後一切不可能である! 我々は自由の身となったのだ!」


 ルシタニアから接収したノフペテン宮殿で、ワスカル酋長は民衆に向かって独立宣言を発した。多くの白人がヴェステンラント合州国に取り残され、事実上その国民となっていたが、この式典に参加した者の大多数は先住民であった。


 そして合州国においても重要な役職は概ね先住民が占め、白人は完全に支配される側に回っていた。だが、中には例外もある。ワスカルに並んで立つ白人の男は演説を続ける。


「私達はワスカル酋長の理念に共感し、歪んだ発想を持った白人と戦い、これを大陸から放逐しました。今や、白人の中に先住民を奴隷にしようなどと恐ろしいことを考える者はいません。白人と有色人種に区別などは存在しないのです! 我々はついに、本物の隣人となったのです!」


 彼の名前はジョージ・ワシントン将軍。いち早くヘルムート総督を裏切り、ヴェステンラント軍の将軍としてゲルマニアやルシタニアと戦った男だ。彼は表向きは全ての人種の融和を説いていたし、そのように行動した。だが、その全ては彼の策略だった。


 独立宣言の翌月のある日。全てが寝静まった夜。


「イズーナ。お前のような裏切り者には、こういう死が相応しい」


 ワシントン将軍は自身の権限で警備に意図的に隙を作り、イズーナの寝室に忍び込んで彼女の頭を撃った。弾丸はイズーナの脳幹を撃ち抜き、彼女は死んだ。


「将軍、ワスカルも殺し終えました」

「そうか。ふはは、ふはははは! やった、やったぞ! これでヴェステンラントは我々のものだ! この大陸は白人のものだ!」


 ワシントン将軍はこの為だけにヴェステンラントに取り入り、地位と権限を手に入れたのだ。そして今、彼がヴェステンラントの実質的な指導者となった。


「ヴェステンラント国民の皆さん。私は、大変悲しいお知らせをしなくてはなりません。我々の偉大なる指導者、ワスカル酋長とイズーナが昨日、何者かによって弑逆されました」


 突然の発表に、人々は混乱に陥れられた。


「彼らを殺したのは、白人がこの地に存在することを許さない先住民の過激派でした。我々は既に彼らを捕らえています。奴らにはすぐに正義の鉄槌が下されることでしょう。そして私は誓います。必ずや、偉大なワスカル酋長が作り上げたヴェステンラントを守り抜くと!」


 最も巨大な権力を持ったワシントン将軍は自動的にヴェステンラントの最高指導者となった。彼はイズーナの子供達に母を殺した有色人種への恨みを吹き込み我がものとした。軍と最強の魔女を掌握した彼に逆らえる者はヴェステンラントには存在しなかった。


 ワシントンは当初の立場をかなぐり捨てて有色人種への迫害を開始した。ヴェステンラントの女王にイズーナの長子ヴァルトルートを据え、白人の王国としてヴェステンラントを再編した。


 結局のところ、有色人種にとっては何も変わらなかった。支配者がエウロパからヴェステンラントの白人にすげ変わっただけで、彼らは奴隷にも等しい身分とされ、白人が重要な官職を独占した。


 誰も歯止めをかけなかった分、これまでより更に酷くなったとすら言えるだろう。理想の国になる筈だったヴェステンラントは、ワシントンによって完全に乗っ取られたのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前から気になっていたんですが,この世界ではいわゆるオランダにあたる地域がゲルマニア領で史実と違い独自の植民地を持っていないのになんで,爵位の記号にヴェステンラントではオランダ語のファン…
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