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レタウニア決着へ

「クロエ様、申し訳ありません。任務を遂行出来ませんでした」

「あら、珍しい」

「いつの間に!?」


 マキナは熾烈な殺し合いを続けるクロエの隣に突然現れて、平然とお辞儀をしながら報告した。シグルズとオーレンドルフ幕僚長を引き付けている間に機甲旅団を撹乱するという計画は、ヴェロニカによって阻まれてしまった。


「まあいいでしょう。こんな姑息な手段に訴えたのが間違いでしたね。普通に戦うとしましょう。撤退します。ノエルにも通信を」

「はっ」

「僕を置いてけぼりにしないで欲しいんだけど?」

「あ、シグルズ。私はもう帰ります。決着はまた今度着けましょう」

「そう。僕も君を殺す気はないのでね。手足を捥いだところで復活されるし、これ以上戦う理由はない」

「さようなら。それではまた」


 クロエとマキナは戦いを放棄して戦場を離脱する。どちらの陣営にも、もう戦う理由はなかった。しかし一つ問題があった。


「……クロエ様、ノエル様と通信が繋がりません。ノエル様の炎も見えませんし、何かがあったのかと」

「それは……心配です。マキナ、見に行ってもらえますか?」

「はっ。直ちに」


 クロエは司令部へと帰還し、マキナは姿を消してノエルの許に向かった。


 ○


「うぐっ……」

「取ったぞ、ノエル」


 オーレンドルフ幕僚長が投げつけた長剣はノエルの胸に突き刺さった。ノエルは胸から血を噴き出しながら、空を飛ぶ力すら失って落下していく。


「く、そ…………」

「まあ、戦う力をなくした者は最早敵ではない。落ちて死ぬとは不憫だな」


 オーレンドルフ幕僚長は高速で降下し、ノエルの体を抱きかかえながら地面に舞い降りた。長剣は心臓や気道からは外れ、致命傷という訳ではなかった。まだ彼女は生きている。


「何故だ……何故、助け――ゴホッ…………」


 血を吐くノエル。とても魔法が使える状況ではない。オーレンドルフ幕僚長としてはレギオー級の魔女を生きたまま安全に運べる最良の状態である。


「お前はヴェステンラント軍の総司令官の娘だ。交換材料にこれ以上な人間だからな」


 実際、オーギュスタンの娘への溺愛ぶりは異常なもので、彼女と引き換えにならヴェステンラント軍を裏切ることすら承知してくれそうである。


「あっそう……。いい趣味、してやがる…………」

「では捕虜になってもらおうか。連れてってやる」

「好きに、しやがれ……」


 オーレンドルフ幕僚長はノエルを持ち帰ろうと歩き出した。が、次の瞬間だった。


「うっ――何……」


 ノエルにしたように、オーレンドルフ幕僚長の胸から剣が生えた。幕僚長は崩れ落ち、ノエルはその腕から転げ落ちる。マキナは血に塗れた剣を幕僚長から引き抜いた。


「ノエル様、お助けにあがりました」

「お、お前、マキナか……助かる」

「随分と深くお怪我をなさっているようです。簡易的ですが、治療を」


 マキナが手をかざすと、ノエルの胸に空いた穴は塞がり、血は止まり痛みは消えた。


「お、おお、すげえな」

「我が主に何があってもお助け出来るようにです」

「そうか。で、こいつは殺しちまったのか?」


 ノエルはうつぶせに倒れて血だまりを広げるオーレンドルフ幕僚長を指さした。


「はい。心臓を貫いたので死んだ筈です」

「――そうか。じゃあ戻ろうか」

「はっ」


 ノエルとマキナは飛び去った。オーレンドルフ幕僚長の死体だけを残して――


「…………まったく、やってくれるじゃないか」


 オーレンドルフ幕僚長を彼女らが去ったのを確認すると、のそのそと起き上がった。大量の血は軍服の上半身全てを赤黒く染めている。


「せっかくの機会だったが……いや、欲張り過ぎたか。まあいい、作戦に影響はないか」


 結局のところ、魔女達の戦いは誰にも何の成果ももたらさずに終わったのであった。


 ○


「さて師団長殿、進撃を再開するとしようか」

「ああ、そうだな。全軍前進! 敵の塹壕戦を突破せよ!」


 戦闘再開だ。戦車隊は榴弾砲を放ちながらヴェステンラント軍の塹壕線へと接近。たちまち至近距離にまで距離を詰めた。だが、その時だった。


「し、シグルズ様! 敵が突っ込んで来ます!」

「白兵戦か。数は?」

「ご、五千程度です!」

「何だって!?」


 ヴェステンラント軍が度々用いて来た白兵突撃だが、今回は規模が違う。塹壕から打って出た大軍は、ゲルマニア軍に迎撃する暇すら与えずたちまち戦車に取り付いた。


「た、大変です! 戦車が!」


 前線の戦車は次々と爆発、炎上していく。


「歩兵部隊を全軍押し出せ!! 何としても敵兵を撃退しろ!!」

「は。はいっ!!」

「クッソ……まったくもって美しくない戦術だ」

「し、シグルズ様……」


 大混乱の大混戦だ。そこに組織的な作戦も戦術もなく、そこは双方の兵士達が目の前の敵を殺し合いを繰り広げるだけの戦場であった。機関短銃を持った兵士達は魔導弩の射撃に倒されながら接近し、十分に距離を詰めれば大量の銃弾で魔導兵を仕留めた。


「僕も出る。何かあったらよろしく頼む」

「分かった、師団長殿」


 シグルズは対物ライフルを持って装甲車のハッチから出て、魔導兵を狙撃して射殺する。しかしシグルズ一人の力では限界があった。魔導兵も突撃歩兵も次々と倒れ、戦車は次々と炎上する。

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