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レタウニアの戦いⅡ

「これは……問題ですね。今のところはアトミラール・ヒッパーしか見えませんが、ゲルマニア海軍を阻める戦力は最早我々にはありません」

「で、では、どうするんだ?」


 シモンはクロエに尋ねる。


「海岸に要塞を建てても意味がないようです。とにかく、ゲルマニア軍の上陸を防ぐ為、兵力を海岸に配置するしかありません」

「だがそれでは、正面の戦線が保てないのではないか?」

「ええ……その通りです。しかし上陸を許す訳にもいきませんし……はぁ…………」


 クロエは派手に溜息を吐く。僅かに二万程度の限られた兵力を沿岸防衛と塹壕に振り分けなければならないが、そんなのは端から不可能だ。この世界にはどんなに考えてもどうしようもないことはあるのである。


「オーギュスタンの奴……こうなることくらい読んでいなかったのか?」

「恐らくは読んでいたかと。だから交渉の時間さえ稼げればいいという話でしたが……それにしても……」

「守り抜くのは不可能、か。そして、出来る限り時間を稼げばいいんだな?」

「そういうことです。それでも厳しいんですが……」


 時間を稼げる気もしないが、クロエは最大限の備えをしてゲルマニア軍を待ち構えた。


 ○


 ACU2313 5/1 ルシタニア王国 レタウニア


「シグルズ様、敵情の偵察が完了しました。敵はおおよそ一万の軍勢でレタウニア半島を塞ぐように塹壕戦を築き上げているようです」

「なるほど。作業が早い」

「魔法を使えば塹壕を掘るくらい大したことではないかと」

「ああ、そうだったね」


 ほんの一週間程度で防衛線を完成させたことは特筆すべきことだ。しかしたったの一万の兵力で、機甲旅団を含むゲルマニア軍13万の攻勢を受け止めきれるとは思えない。


「どうする、師団長殿?」

「そうだな……まずは降服勧告でもしてみようか。彼らも勝つつもりでいる訳ではないだろう」

「そうだな。それがよかろう」


 シグルズはまずヴェステンラント軍に降伏を呼び掛けた。しかしクロエからの返答はなかった。


「どうやら、徹底抗戦をするつもりらしいな」

「或いは、それも交渉材料にするつもりかもしれんな」

「確かにな……まあいい。全軍、攻撃を開始せよ!」


 交渉を受け入れないのなら徹底的な殲滅があるのみだ。機甲旅団を先頭に、各師団の戦車部隊が攻撃を開始した。数百の榴弾が塹壕に降り注ぎ、たちまちそれを掘り返していく。


 戦車と装甲車は前進し、その勢いのまま塹壕を踏み潰そうとするが――


「し、シグルズ様! 前方に大きな魔導反応です! 白の魔女クロエと赤の魔女ノエルかと思われます!」

「何? ――分かった。クロエが出てくるのは想定外だが、僕が出よう。部隊は一旦停止し、ここから砲撃を継続するように。それと対空戦闘用意」

「は、はい!」


 ノエルはまだ何とかなることが分かっているが、クロエは戦車にとって大きな脅威だ。彼女の剣は遠くから投げ飛ばしただけでも戦車の装甲を貫くことが出来る。だからシグルズが彼女を足止めする必要があった。


 シグルズが白い翼を広げて空に飛び立つと、すぐにレギオー級の魔女2人が姿を現した。


「おやおや、久しぶりですね、シグルズ」

「ああ、久しぶり。クロエ、そしてノエル」


 戦闘が始まる直前の張り詰めた糸のような空気。


「早速だけど、君達、本当に戦う気か?」

「当たりめえだろ。そうじゃなかったらここにいない」

「それは労力とエスペラニウムの無駄だ。それでもか?」

「確かに私一人だけではあなたと殺し合うだけで時間の無駄ですが、今はレギオー級の魔女が二人います。片方があなたの相手をしてもう片方があなたの部隊を壊滅させれば、それで済む話では?」

「じゃあやってみようか。因みに僕はクロエのお相手がしたいんだけど、どうかな?」


 クロエはシグルズの力で押さえておきたい。


「……いいでしょう。ではノエル、行ってらっしゃい」

「おうよ!」


 ノエルは機甲旅団目掛けて飛び立った。シグルズは特に何もせず、彼女が通過するのを許した。


「本当にいいんですか? ノエルを舐め過ぎでは?」

「それは僕達の部隊を舐め過ぎだよ」

「言ってくれますね。ならばせめて、あなたを葬りたいものですね、シグルズ」

「受けて立とう」

「では、参ります!」


 クロエは以前に見せたように自らの周囲に大量の剣を作りだし、そして容赦なくシグルズに向けて投げ飛ばした。


「君も芸がないな!」


 シグルズも同じように厚さ2メートルはある鉄の壁を造り出し、その斬撃を防いだ。クロエの剣は相変わらずその壁すら貫通してくるが、シグルズにまで到達することは出来なかった。


 クロエの激しい攻撃を受け止め続けること数分。シグルズの壁はハリネズミの背中のようになっていたが、決して破られることはなかった。


「まったく、相変わらず硬いですね。しかし防御しているだけでは勝てませんよ?」

「ああ、その通りだ。ではこっちからも撃たせてもらおう!」


 シグルズは対物ライフルを生成し、壁から躍り出た。そして一瞬で狙いを定め、クロエを狙って徹甲弾を叩き込む。しかしその程度の照準では人間に命中させることは出来ない。そして次の弾丸を撃つ前にクロエの攻撃が飛んできた。

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