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真の作戦

 ACU2313 4/20 ルシタニア共和国 アウレリアヌム


 ド・ゴール大統領は死んだ。ルシタニア共和国は首都ルテティアを喪失し、生き残った閣僚達は後方の都市アウレリアヌム――地球ではおおよそオルレアン辺りにある都市に逃れ、そこを臨時首都としていた。


「不甲斐ないことですが、既に我が軍の防衛線は崩壊しました。二百万のゲルマニア軍はルシタニアになだれ込んできており、いずれこのアウレリアヌムに到達するでしょう」


 クロエはヴェステンラント軍の最高司令官として現状を報告する。統制を失ったヴェステンラント軍は完全に瓦解し、各々の部隊が各々の判断で撤退し、手近な都市に立て籠もっているという状況だ。


 とは言えゲルマニアの戦車部隊に正面切って対抗出来る城塞都市はそう多くはなく、数少ないそのような都市も機甲旅団の手によってことごとく壊滅させられていた。つまるところ、戦況は絶望的である。


「かくなる上は、北ルシタニアを放棄し、南ルシタニアに防衛線を再度展開すべきだと考えますが、共和国の皆さんはどう思いますか?」


 ゲルマニア軍の勢いは甚だしく、相当な距離撤退して時間を稼がなければ防衛線の再編は厳しいだろう。そして幸い、地球のフランスとは違って、彼らにはまだまだ下がれる縦深がある。スペイン、ポルトガルに当たる領域もまた、ルシタニアの領域だからである。


 ルシタニア王国の歴史をそのまま繰り返すようで不本意ではあるが、それが最善の選択肢だと思われる。


「……分かりました、殿下。北部は放棄しましょう。幸いにして南北ルシタニアの間の大山脈には、ルシタニア王国が残した塹壕がそのまま残されています。これを再利用すれば、防衛線の再構築は可能かと」

「ええ、それしかないですね。とにかく今は、持久戦を――」

「殿下!! 一大事にございます!!」


 その時、会議室に血相を変えた伝令が駆け込んできた。


「どうしたんですか?」

「たった今、ゲルマニア軍の大部隊が大山脈に上陸しました! 我が軍の退路は、塞がれたのです!」

「んなっ……そんな、ゲルマニア軍にそんな通信は……」


 これこそがザイス=インクヴァルト大将の作戦、40万の使い道である。この作戦にだけザイス=インクヴァルト大将は無線機を使い、ヴェステンラント軍は一切その存在を察知出来なかった。全ては彼の手の内にある。


 ○


 ACU2313 4/20 ブリタンニア連合王国 王都カムロデュルム


「で、殿下……このような報告が入っています」


 赤公オーギュスタンにもその報告は入った。ゲルマニア軍が大山脈に上陸し、南北ルシタニアを分断しつつあると。そして彼は、その報告を受けるや否や、ゲルマニア軍の考えを完全に理解し、そして笑った。


「ふはは、ふはははは! ゲルマニア軍め、やるじゃないか!」

「で、殿下……?」


 頭がおかしくなったかのように笑うオーギュスタンに、家臣達はどう言葉を掛ければいいか分からなかった。


「奴らは北ルシタニア全てを使って我が軍を包囲しようとしているのだ。否、しようとしているではない。その包囲は既に完成されている。敵の総司令官の名は何だった?」

「え? ああ、ヴィルヘルム・オットー・フォン・ザイス=インクヴァルト侯爵です」

「そうか。では私は、その男に敬意を払おう。ここまで壮大な作戦を見事にやり切った、いやその勇気があったことに、私は感服しているのだ。今やエウロパ方面軍のほぼ全てが敵の罠に落ちた。我々に残された手段はないのだ」


 春作戦。その本当の目的は、地球でフランスと呼ばれる地域全てを巨大な網にし、ヴェステンラント軍を包囲することであったのだ。


「し、しかし、勝てないにしても逃げることは出来るのでは? 海から逃げるんです!」

「いいや、ダメだ。つい最近、我が海軍が壊滅したばかりではないか」

「で、では地中海側からは……」

「ターリク海峡が塞がれているではないか。無理だ」


 ゲルマニア軍が事前に制海権を確保しておいた理由がこれだ。ヴェステンラント軍が海から脱出することを一切許さない為であったのだ。


「では、大山脈に攻撃を仕掛け突破しましょう! これさえ破れば、包囲は成立しません!」

「我が軍に纏まった戦力はない。それに、大山脈の防衛線はルシタニア王国が建造した堅固なものだ。それをゲルマニア軍が利用するとなれば、我々に突破することは不可能だ」

「殿下の知略をもってすれば、突破は不可能ではないのですか……?」

「それだけなら不可能ではないかもしれない。だが、戦線を突破したとて、それを維持しなければならない。そしてそれだけの戦力は確保出来ない」

「それは……」


 ヴェステンラント軍はすっかり散り散りになっており、オーギュスタンが直接動かせる兵力は僅かに三千程度だ。それで一時的に戦線を突破することは可能かもしれないが、全軍を逃がす為に脱出路を確保し続けることは出来ないだろう。


「ど、どうされるのですか……?」

「少しでも多くの兵を逃がす。これしかあるまい。その為の作戦ならある」

「それでは……殿下の思うがままに戦ってください」


 ヴェステンラント軍の敗北は決定的となった。故にオーギュスタンは何とかして兵力を温存する方策を考える。

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