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ルテティア奪還Ⅱ

「ん? 大佐殿、前線に突出する戦車があります! 射線の邪魔になっており、攻撃が出来ません!」

「所属は?」

「ルシタニア義勇軍のものです!」

「まさか裏切ったと? であれば徹甲弾で吹き飛ばすだけですが」

「そのようではありませんが……」


 機甲旅団の攻撃を妨害する戦車。だが裏切ったと言う風でもない。ただ戦いに水を差すだけなのである。


「あ、あれは、国王陛下です! ルシタニア国王が、頭を出しています!」


 戦車のハッチを開けて身を乗り出したのはルシタニア国王その人であった。


「なっ……一体何がしたいんですかね」

「そ、それよりも、早く陛下を連れ戻さないと! 危険です!」

「……いいえ、このままにしましょう」


 ヒルデグント大佐には考えることがあった。


「な、何故です!? 陛下が死んだりしたら、一大事ですよこれは!」

「いいえ。ルシタニア人に国王を殺させれば、共和国内の日和見をしている勢力も一気に反共和国に傾きます。国王が死ぬのは我々にとっては寧ろ利となります。ですので、ここは国王陛下の好きにして頂きましょう」

「は、はい……」


 寧ろ殺してもらった方がいいという合理的な判断だった。だが国王はむざむざと殺される為に身を危険に晒したのではない。


 ○


「こ、国王!? どうしてお前が!?」


 大陸軍の兵士達は国王を目の前にして固まってしまった。ヒルデグント大佐も国王が何をする気なのか気になって、攻撃を停止させていた。今、戦場はつかの間の休戦状態になったのである。


「え、ええい! 我々の敵だ! 我々を苦しめて来た張本人だ! 殺せ!!」

「し、しかし……いくらなんでもここで殺すっていうのは……」

「そうです! やるなら人民裁判で死刑を宣告すべきでは?」

「諸君、余は諸君の国王、ルイ=アルマンである! 諸君らの王はここにいる! さあ、撃ちたいのならば撃つがいい!」


 国王は戦車から完全に出て、戦車の上に仁王立ちになった。大陸軍の兵士達は、彼を撃たなかった。そして国王の泰然とした立ち居振る舞いに、心を動かされていた。


「こ、国王陛下、万歳!」

「な、お前、何を言ってる!」

「あんなイカれた大統領より、国王陛下に仕えるべきだ! ヴェステンラントの傀儡なんてくそくらえだ!」

「貴様! 共和国を裏切るのか! 裏切り者はその場で射殺することが認められ――」


 銃声が響いた。


「裏切り者はお前だ! 我々は国王陛下に仕える臣民だ!」

「き、貴様……」

「国王陛下、万歳!」

「「「国王陛下、万歳!!!」」」


 かくして彼らは国王に帰って来た。


 ○


「大佐殿、どうやら敵の前線部隊が我々に寝返ったようです」

「ほう……そんな馬鹿なことが現実にあるんですね。ですがこれは好機です。前線が崩れたので、一気に王宮を目指して進撃します」

「はっ!」


 ルテティアは早々にゲルマニア軍の手に落ちようとしていた。


 ○


「だ、大統領閣下! 前線の部隊が敵に寝返りました! ルテティアには多数の敵が進入してきています!」

「裏切り者どもめ……」

「逃げましょう、閣下! ここにいては危険です!」

「逃げる? 逃げるだと? 我々が逃げるなど許されない! 我々は民主主義の砦であるルテティアを死守するのだ!」

「馬鹿なことを言わないでください! 最早我々に戦車と戦う手段はありません! 今は逃げるしか、逃げるしかありません!」

「……君はまったく民主主義的ではないようだ。フーシェ君! 彼を速やかに連行したまえ。ん? フーシェ?」

「そう言えば、フーシェ長官の姿が見えませんね」


 いつも反民主主義的な人間を粛清してきたフーシェ警察長官は今日はいなかった。


「こんな時に何をやっているのだ、あいつは! ――まあいい。総員武装せよ! 我々は最後の一兵となるまで戦い続けるのだ!」

「…………」


 この期に及んでもド・ゴール大統領に逃げるという発想はなかった。そして誰にも脱出を許さなかった。


 ○


「王宮に突入します。総員、白兵戦用意」

「た、大佐殿も行かれるのですか!?」

「私が行かずして何とするのですか? さあ、突入しますよ」


 ヒルデグント大佐は拳銃を片手に兵士達を指揮し、王宮へと突入した。


「突撃歩兵は突入。抵抗する者は全て撃ち殺してください」

「はっ!」


 機関短銃を持った突撃歩兵は弾丸をばら撒きながら突入。ほんの数人の敵兵が反撃をしてきたが、その銃は前時代的な前装銃であり、ゲルマニア軍の圧倒的な火力の前にたちまち黙らされた。


「このまま一直線に大会議場を目指します」

「はっ」

「しかしこの人達、兵士ではありませんね。ルシタニア共和国の高官でしょうか」

「そのように見えますね……。本当に狂った連中です」

「まあ、我々にとっては何の脅威にもなりません。とっとと制圧してしまいましょう」


 兵士でもない人間が武器を持ったとて、ゲルマニア軍の精鋭部隊に敵う筈がない。王宮は速やかに制圧された。


「おや、これはこれは大統領閣下ではありませんか」

「女? お前が指揮官か?」

「ええ、どうも。ヒルデグント・カルテンブルンナー大佐です」

「そうか。であれば死ね!」


 ド・ゴール大統領は拳銃をヒルデグント大佐に向けた。


「死ぬのはそっちです」


 しかし大佐は大統領よりも早く拳銃を抜き、彼の頭を撃ち抜いたのであった。

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