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洋上の白兵戦Ⅱ

「総員、かかれ! あの魔女どもを仕留めろ!」

「「おう!!」」


 ゲルマニア兵は機関短銃を乱射しながら、スカーレット隊長と彼女に付き従う魔女を一斉に攻撃した。たちまち数人の魔女が撃ち殺されたが、残った者は素早く防壁を展開し、奇襲の効果は一瞬にしてなくなってしまった。


 再び泥沼の銃撃戦が始まる。


「隊長、お下がりください! 危険です!」

「私の辞書に後退と言う文字はない! やることは変わらない! 側面からの攻撃は防ぎつつ、正面の敵を突破する。私に続け!」

「は、はいっ!」


 スカーレット隊長を剣を片手に突撃を開始した。機関短銃の弾丸を軽々と防ぎ、防御陣地に斬り込んだ、その時だった。


「んなっ!? お前は!」

「久方ぶりだな、スカーレット隊長」

「オーレンドルフ……」


 第88機甲旅団の幕僚長、シグルズの第一の部下、グレーテル・ヨスト・フォン・オーレンドルフ幕僚長が参戦した。彼女の魔導剣はスカーレット隊長の魔導剣を受け止めていた。


 スカーレット隊長は怯まず数太刀を入れた。だがオーレンドルフ幕僚長はその斬撃を軽々と跳ね返した。


「ふん、魔法に任せた剣技など、私の敵ではないな」

「お前……」

「隊長! 敵の勢いは激しく、支えきれません!」

「クソッ。下がれ下がれ! 陣を立て直す」

「戦術を知らぬ愚か者が」

「ほざけ!」


 スカーレット隊長の力量だけに頼った戦術は、それと同等の魔女が現れた時点で破綻した。かくしてアトミラール・ヒッパーを制圧するヴェステンラント軍の試みは失敗に終わったのだった。


 ○


「――うーん、困りましたね……これではあの船を落とせません」

「はい。敵は我々の戦術を読んでいたようです」


 クロエとマキナは空中に留まりながら静かに会話を交わしていた。スカーレット隊長の率いる突撃部隊はどうやら作戦に失敗したらしく、アトミラール・ヒッパーを葬る最適な方法は選択肢から失われた。


「この場では私も動けませんし、詰んでしまいましたね」

「そのようです」


 流石のクロエでも空中に安全な経路を作ることで精一杯で、アトミラール・ヒッパー攻撃に加わることは出来ない。ヴェステンラント軍に取れる手段はなくなってしまった。


「ん、オーギュスタン様から通信が入っております」

「あら? 繋げてください」


 艦隊の総指揮を執るオーギュスタンは、相変わらず自室でくつろぎながら通信をかけてきた。


『元気かな、クロエ』

「ええ、お陰様で。どうやら敵の鋼鉄船は私達の予想以上に強力なようですよ?」

『そのようだな。であれば、私の旗艦アリーナを出そうではないか』

「おや、あなたが自分で出て来るんですか?」

『そうとは言っていない。アリーナを出すだけだ』

「あ、そうですか」


 オーギュスタンも窮していた。未知の敵を相手にすると言うのは、流石の彼でも厳しいものがある。


 ○


「閣下、敵の大型魔導戦闘艦を確認しました!」

「ついに出たか……旗艦アリーナ」


 シュトライヒャー提督は生唾を吞んだ。単純な大きさではアトミラール・ヒッパーにも匹敵する巨大な艦。ついにそれと戦う時が来たのだ。


「ガレオン船など無視して構わん! 全砲塔、奴を撃て!」

「はっ!」


 アトミラール・ヒッパーの主砲は全てアリーナを向いた。そして砲撃を開始する。


「命中! 装甲が砕け散っています!」


 木造船に対して徹甲弾などあまりにも威力過多。たったの一発でアリーナの甲板が大きく削れ、船体に大穴を開けた。


「おお、これなら――ん?」


 喜んだのも束の間であった。アリーナの甲板は瞬きする間に、何事もなかったかのように完全な状態に戻っていた。


「なんて船だ……だが、魔法にも限界はある。撃ち続けろ! 魔法を使い果たさせるのだ!」

「はっ!」


 アトミラール・ヒッパーは全力でアリーナを砲撃する。その砲弾はアリーナに極めて有効であった。だが、船の形が変わるほどの損害を与えても、アリーナは次の瞬間には何もなかったかのように修復されるのである。


 アリーナが魔法を使い果たす様子はまるでなく、アトミラール・ヒッパーは砲弾をただただ浪費するばかりであった。


「クッソ……どうして沈まない! おかしいだろっ!」

「閣下、これでは埒があきませんよ」

「おお、シグルズ、戻って来たか」


 シグルズはやっと動けるようになって、一先ず艦橋に戻って来た。


「はい。何とか帰還しました」

「それはよかった。だが、だったらどうすればいいんだ?」

「それについてはお任せを、こちらでちょっとした仕掛けを用意してあります」

「仕掛け?」

「はい。ヴェロニカ、準備はいいかな?」


 シグルズはシュトライヒャー提督も見たことのない機械に向かって話しかける。


「何だそれは?」

「帝国最新鋭の電気式通信機です。もう魔法などには頼らず通信が行えます」

「もう完成していたのか……」

『こちら、準備は完了しました!』


 ヴェロニカの元気な声が響き渡った。因みにヴェロニカは自分の声が周りに聞かれていることを知らない。


「おお……声が」

「よし。じゃあ始めようか。U-1、攻撃を開始せよ!」

『はい!』


 U-1は大洋艦隊の所属ではない。実のところシュトライヒャー提督の直接指揮下にはないのである。

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