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オーギュスタンの策略Ⅱ

「閣下、敵は全方面から攻勢を開始しました」

「全方面……兵力の配置は?」


 西門と北門に一万程度、東門に残りの四万の兵がいるようだ。


「――なるほど。西と北に兵力を引き付け、東から突破しようという策か」

「どうされますか?」

「敵は恐らく、激烈な攻撃を仕掛けてくるだろう。だがそれは、我々を引き寄せる為の作戦だ。だから、何があっても動くんじゃない。以上」


 アルタシャタ将軍はオーギュスタンの、表向きの作戦をすぐに看破した。それがオーギュスタンの狙いそのものだとは知らずに。


「しかしこれで、敵の狙いがはっきりしたな」

「狙い、ですか?」

「重武装の魔女を侵入させ、城内を撹乱しているうちに地上部隊を突入させることだ。であれば、魔女共の狙いはまさにここだろう」

「な、なるほど……」


 この魔導通信機の密集した司令部こそ、敵の狙いだ。ここを攻撃して指揮統制を崩壊させ城門を突破する気だろう。


「で、であれば、我々はどうすれば……」

「対空警戒を厳とせよ。但し、敵にはそれを悟られぬようにな」

「はっ!」


 司令部は特に目立たない屋敷の中にある。敵に気付かれてはお終いだが、同時に攻撃されそうになったら追い返さねばならない。


 アルタシャタ将軍は建物の中に兵士や対空機関砲を隠れさせ、上空に接近した敵だけを迎え撃つように命じた。


「これで、出来ることは全てやった。後はここが敵に見つからぬように祈るだけだな……」


 アルタシャタ将軍は最大限の防備を整え、ヴェステンラント軍を迎え撃つ。その布陣は完璧と思われたが、しかし――


「っ!!??」


 その瞬間、アルタシャタ将軍の足元が崩れ落ちた。兵士達と共に彼は下階へと落下する。思いもよらぬことに衝撃を受け止めることも出来ず、アルタシャタ将軍は派手に頭を打ち付けてしまった。


「い、一体、何が……氷……?」


 朦朧とする意識で辺りを見渡す。


 落下した先には槍のように長く尖った氷の柱が無数に立っていた。それは上の階に容易に到達し、一瞬で床を破壊したようだ。


「皆、無事か……?」

「え、ええ、何とか。しかし、魔導通信機は吹き飛んでしまいました」

「これが狙い――誰だっ!」


 コツコツという硬い足音が聞こえた。アルタシャタ将軍が剣を杖にして立ち上がると、扉の前に上から下まで真っ黒にドレスを着た少女が立っていた。


「こんなことが出来る魔女なんて限られると思うけど、一応、私は黒の魔女クラウディア」


 水を司る黒の魔女は、顔色一つ変えずに言った。ヌミディア大陸の南端で戦争をしている筈の彼女が、どういう訳かここにいた。


「お前……どうしてここに?」

「オーギュスタンから頼まれて。司令部の警備が手薄になった隙にあなたを消してくれって」

「何故だ……空はしっかりと警戒していた筈……」

「ああ、私は歩いて来ただけ。人々は混乱して目もくれなかったし、この格好は夜には目立たなくていい」

「なるほど……分かったぞ。全て分かった。あの重装備の魔女は全て囮。本当にそこら中で爆発を起こしていたのは地上の魔女。そうだな?」

「正解。あの子達は最初から空を飛び回っていただけ」


 考えてみれば分かることだった。魔法は2つまでしか使えない。空を飛び魔導装甲を動かしている彼女らが、更に魔法を使える筈などなかったのだ。


 全てはルシタニア軍の目を空に向けさせる為の壮大な仕掛け。そして警戒が空に向かった時を狙って、彼女が司令部を襲撃したのだ。


 全てはアルタシャタ将軍を無力化するというオーギュスタンの構想の中にあった。


「それで、私を殺すのか?」

「それは……私は司令部を吹き飛ばすところまでしか頼まれてないし、あなたはそれなりに強そうだ。やめておく」

「いいのか……?」


 クラウディアは五大二天の魔女の一人だ。アルタシャタ将軍相手に勝てないことなどないだろう。


「死にたいの?」


 クラウディアは両手の中に氷の剣を作りだした。


「いや、遠慮しておく」

「そう」

「だが、構わなければ教えて欲しい。どうやってここに忍び込んだんだ? 空はしっかりと警戒させていた筈だが……」

「私が持っている潜水船で来た。ここは港町だから」

「なるほど。あれか……」


 大八州との戦闘で一度だけ確認されている、海中を進む船。それならば誰にもバレずにマフティアに侵入することも可能だろう。魔女達が空から侵入する前から、彼女らは市内に潜入して準備をしていたのだ。


「さて、私は帰る。お元気で」

「あ、ああ」


 クラウディアは何事もなかったかのようにそそくさと歩き去った。アルタシャタ将軍はこうして生きているが、司令部は完全に破壊されてしまった。


「閣下、魔導通信機はしっかりと破壊されています。これでは全軍に命令することが出来ません……」

「これは、最早どうにもならんな……」


 狼煙でも伝令でも、魔導通信機に頼らない通信手段を用意しておけばよかったのだが、結局それは為されなかった。ルシタニア軍は静かに、しかし完全に統制を失ってしまったのだ。


 そして、ヴェステンラント軍はこれ見よがしに攻勢を強め始めた。

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