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マフティアの戦いⅡ

「だったら地面を焼き尽くすまでだ!」

「ちょ、ノエル様!?」


 ノエルは陣形の戦闘に躍り出て、魔法の杖を振りかざすと目に映る範囲の地面を炎で覆いつくした。すると視界の中だけでも地面から複数の爆炎が上がった。


「よっし! これなら行けるぞ!」

「さ、流石はノエル様……」


 ノエルの咄嗟の判断で、地雷を無力化することに成功した。ゲルタは自分の考えの斜め上を行くノエルに敬服するしかなかった。いや、呆れというべきか。ともかく、ノエルは軍勢の進路を確保することに成功したのである。


「よし。じゃあ前進だ!!」

「「おう!!」」


 兵士達は赤の魔女を先頭に城壁の間を駆け抜ける。ノエルの魔法によりルシタニアの小賢しい策を打ち破った、と思われたが――


「何だ!?」


 ノエルの後方で魔導兵がまた吹き飛んだ。魔導兵の隊列は再び乱され、敵機のど真ん中で立ち往生してしまう。


「燃やし残した爆弾か?」

「いえ、違います! 敵の迫撃砲です!」

「クッ……ここで迫撃砲か……」


 城壁の上から投げ落とされてくる榴弾は、防御壁の間に入り込み、内側の兵士を吹き飛ばした。密集した陣形では榴弾を回避することも出来ず、為す術もなく爆殺されていく。


「ノエル様! このままでは陣形を維持出来ません! 撤退を!」

「ここまで来て撤退か?」

「恐らく、内門は堅固に防衛されているでしょう。この状態で落とすのは不可能です」


 最初に門を簡単に突破出来たのは、この巨大な罠の中にヴェステンラント軍を引き入れる為の敵の策略だった。であれば、本物の門である内門は、ルシタニアの他の都市と同じく強固に守られていることだろう。


 兵の士気は振るわず、指揮統制も乱れているこの軍勢は、仮に内門に突っ込んだとしても無駄な犠牲を出すだけだろう。


「……分かった。今は一度退こう」

「はい。退きます!」


 ヴェステンラント軍は城外に撤退。マフティアを早々に落とす作戦は失敗した。


 ○


「流石はアルタシャタ殿。まさか百人の犠牲も出さずに敵を撃退するとは……」

「長年の準備があったからこそだ。このような極端な城は、平時なら作れもしないだろう」


 二重城壁は防御設備としては最強だが、普通の道としてはあまりにも交通の便が悪い。都市としては最悪の設計だ。


「それに地雷です。こんな狭い道で地面が爆発なんてしたら、誰だって攻め込もうとは思いますまい」

「だが、赤の魔女にそれは看破されてしまった。もう地雷は役には立たないだろう」

「そ、それは……」

「いいか。人は城に籠っていると城に頼り、正常な判断が出来なくなる。常に冷静に戦況を見極めるのだ」

「は、はぁ……」


 ヴェステンラント軍を撃退して城兵達がお祭り騒ぎをしている中、アルタシャタ将軍だけは冷静に、一切油断をすることはなかった。


 ○


 ACU2313 2/4 ブリタンニア連合王国 王都カムロデュルム


「殿下、ノエル様より手紙が届いています」

「我が娘から? まったく、通信で話せばいいというのに」


 赤公オーギュスタンにノエルから手紙が届いた。まあ手紙とはいっても、魔導通信で伝えた内容をその場で紙に書き起こしたものだが。オーギュスタンは暖炉の前で安楽椅子に揺られながら手紙を開いた。


「ふむ……私に助けを求める、か。珍しいな」


 ノエルは父に助けを求めた。ヴェステンラント一の策士と称される彼ならば、マフティアを陥落せしめる策を提供してくれるだろうと。


「どうされますか?」

「我が愛娘が助けを求めてくれたんだ。助けない訳がないではないか」

「殿下はブレませんね……。しかしどうするのです?」

「そうだな。せっかくだから陛下からお借りしていた新式魔導装甲を使うとしよう」


 既存のものより大幅に防御力を高めた禍々しい魔導装甲。赤の国用に赤く染色したその鎧は、百揃えほど用意がある。


「あれですか? あれは銃弾に対する防御力は高いですが、爆発物に対する耐性は低いと聞きますが……」

「別にあの魔導装甲を使って戦おうとしている訳ではないさ、セシル。たったの百人で戦局を左右することは不可能だ」

「では何の為に……」

「見ているがいい。マフティアなど一晩で落としてくれよう」


 オーギュスタンはカムロデュルムの執務室に引き籠ったままマフティアを落とそうと言うのである。彼の副官セシルは、その言葉に疑いなど持たなかった。


 ○


「親父は何て?」

「私が落とすから見ていろとのことです」

「はあ? 私は何もしなくていいのか?」


 ノエルはオーギュスタンが何をしたいのか全く分からなかった。マフティアを陥落させる為の作戦を何か伝授してくれると思っていたからだ。


「しっかし、親父が好きに動かせる戦力なんてほとんどないだろ?」

「はい。殿下はエウロパ方面軍の最高司令官ですが、直接の指揮権を持っているのはノエル様、クロエ様、シモン様です。強いて言うのなら王都警備隊くらいでしょうか」

「警備隊? ああ、カムロデュルムの警察だけは親父が統率してるんだったな。だが人数は千人もいなかったよな?」

「はい。それだけの兵力でどうにか出来るとはとても思えませんね……」


 次の日、オーギュスタンの命を受けた百人程度の魔女がマフティアにやって来た。ノエルは作戦を聞いたが、彼女らは答えてくれなかった。

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