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黔中の戦い

 ACU2312 10/20 大八州皇國 魏國 黔中


 魏の國の地理的な中央にある黔中(けんちゅう)の平野。曉は迅速に主力部隊を送り込み、ここを決戦の地に選んだ。アリスカンダルもそれに応じ、決戦の構えを見せた。


「曉様、敵はおよそ四万、対して我らは三万に満たず。この戦、人事を尽くさば後は天命を待つしかありますまい」

「……最初からそんな弱気でどうするのよ」

「弱気などではありません。私はただ、事実を申し上げているまで」


 大八州の中の一大名である上杉家の更に一部。それと比べれば、ガラティア軍の主力の兵力が勝っているのはあまりにも当たり前のことだ。


 明智日向守には必勝の策などを画策することは出来なかった。ただ現実を直視するまで。


「……まあいい。まだ人事を尽くしてもいないわ。軍議よ。諸将を集めなさい」

「はっ。とは言え、唐土の将は使えぬ者ばかりですが」


 上杉家の優秀な将軍達は辺境地帯に取り残され曉に合流出来ないか、そもそも合流する気がないかのどちらかである。よって兵力に対し武将の数が足りていないというのが残念ながら実際のところだ。


 だがその中でも一人だけ、天下に名の知れた勇猛な武将がある。柿﨑吐蕃太守昭家、大八州の西方を守護する白虎隊の司令官である。白虎隊は曉の命令で国境地帯での戦闘は行わず、麒麟隊に合流していた。


「柿崎殿、貴殿の見たところを率直に教えて頂きたい。アリスカンダルが擁するあの長槍。あれにはどう当たればいいのでしょうか?」


 明智日向守は昭家に尋ねた。彼は大八州でガラティア軍に最も詳しい人材である。


「うむ。奴らの長槍は、決して見かけ倒しなどではない。正面からぶつかれば、例え武田の騎馬隊であろうと、斬り合いに持ち込むことすら出来ないだろう」

「やはり、晴虎様が奇策に頼っただけあるようです」


 晴虎の名前を出すと曉が不愉快そうな顔をしたが、明智日向守は特に悪びれもせずに続ける。


「となれば、我らはあの陣を側面から突かねばならないようです」

「いかにも。あれは真正面に進む以外、マトモに動けはせん。横から突けば、たちどころに総崩れになるであろう」

「問題は、一度喰らった手をアリスカンダルが再び喰らうかどうか……」


 晴虎とアリスカンダルが戦ったヴァンガの戦い。晴虎は初めて見るファランクスの弱点を即座に見抜き、その側面と後背に騎馬隊をぶつけ、一気に総崩れに持ち込んだ。


「それを許しはせんだろう。アリスカンダルは兵法において並々ならぬ才を持った男。同じ手を二度指せば、返り討ちにされるであろう」

「ですな。それに、我らには武田の騎馬隊はおりませぬ」

「ま、まあな」

「チッ……」


 晴虎の戦術は、武田家の強力な騎馬隊があったからこそだ。最早アリスカンダルがどう対処するかどうかという問題ですらなく、その作戦を採ること自体が不可能なのである。


「とは言え、正面からぶつかってはならないというのは疑いようのないこと。これを基に作戦を練る必要がありましょう」

「とは言うけどね、今度の敵はファランクスだけじゃない。それは一万で、残りの三万は普通の兵。例え奇襲に成功したとて、それに阻まれることは明白よ」


 条件は悪い。前回の敵は少数の騎兵を除けば全てファランクスであったが、今回は四分の一に止まる。側面、後背からの攻撃にも十分に応戦出来ると想定されるし、アリスカンダルは明らかにファランクスの弱点を補うべくこのような編成を組んでいる。


「はい。ですから、何とかしなくてはなりません」

「何とかって、ふざけてるの?」

「いいえ。正面からも側面からも後背からも当たってはならないとなれば、一体どうすればよいのかと、思案しております」

「……あっそう。だったら考えて教えなさい」

「はっ。暫しお待ちを」


 明智日向守は何やらぶつぶつと呟きながら考えを巡らせていた。


「前後左右が無理ならば、上というのはどうだ?」


 昭家は冗談半分に言った。確かに彼らには飛鳥衆という上から殴れる部隊がある。


「いいえ、なりません」


 明智日向守は即座にそれを否定した。


「な、何故だ?」

「飛鳥衆は我にとって最後の砦。ここですり減らす訳には参りません」

「城から打って出るべきだと言ったはお前ではないか」

「はい。確かに大勢についてはそのように申し上げました。しかし飛鳥衆は訳が違います。飛鳥衆は守勢にあってこそ輝けば、攻め手にあって使うべきではありません」

「そうか。確かにな」


 この世界の弓は全体的に射程が長い。空を自在に飛ぶ飛鳥衆とて、こちらから攻め込む時に使えば撃ち落とされる可能性は大いにある。


 だが守勢に回って友軍を空から援護する時はその心配もない。飛鳥衆は好きなだけ鬼道を用いることが出来る。


 明智日向守は、向こうが攻め立てて来た時の保険を残しておきたいのである。


「では逆に、こちらが守りを固め敵を疲弊させるというのはどうだ?」

「それもなりません」

「ええ。この戦、長引かせる訳には行かないわ。そんなことなら、ここまで出陣した意味がないもの」

「これはこれは。浅はかでした」


 戦いが長引けば離反する諸侯も増えるだろう。この悪条件の下、曉は短期決戦に勝利しなければならないのである。

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