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原住民との接触

 ACU2210 6/13 ヴェステンラント大陸 ゲルマニア、大八洲植民地境界付近


 4人の子を連れたイズーナは東へと逃れ、諸国の植民地の端が交錯する地域へとやって来た。この辺りは列強が不用意な接触を防ぐ為の空白地帯となっており、いずれの支配は及んでいない。イズーナにとっては格好の隠れ場所であった。


 因みに、大八洲は未だ乱世を完全に抜け出せてはいない。東の上杉、西の武田がそれぞれの勢力圏を築いた冷戦状態、或いは二重政権の状態である。まあ平安洋に面し広大な植民地と富を手に入れた上杉家がいずれ天下を完全に統一するだろう。


 さて、何もない不毛の荒野に降り立ったイズーナは魔法を存分に使って食料調達に勤しんでいたが、魔法で食べ物を作ることは出来ないし(正確には消化される前に消滅する)、料理をするにも技量が必要だ。


 イズーナは人間としては大して器用な方ではなく、簡素な料理しか作れなかった。そうして子供達が少しずつ不満を顕にしている時、救いの手を差し伸べる者があった。


「こんな場所であなたみたいな女性が何をしておられるのですか?」


 原住民の伝統的な格好をした優しげな男が、イズーナの前に現れた。


「私は……」


 イズーナは言葉に詰まる。まさかゲルマニアから指名手配されていて逃亡してきたのだ、などとは言えまい。と、思っていたのだが――


「あれ、あなた、見覚えが……」

「見覚え? あ、もしかして、以前助けて頂いた方でしょうか!?」

「え、ええ。あなたの傷を治してあげたこともありましたね」


 彼は2ヶ月ほど前に白人に暴行を受けていたところをイズーナが助け出した男であった。そうと気付くと男は緊張を解いて、にこやかに話し出す。


「いやはや、本当にありがとうございました。あなたがいなければ、私はあの都市で野垂れ死んでいたことでしょう……」

「それにしても、どうしてこんなところに?」

「ああ、もうあんな白人の多い場所にはいられないと思いまして、街を出たのです。あなたは?」

「私も、同じような感じです」


 男は事情を察したようで、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「……まさか、私を助けたせいですか?」

「言い様によっては。ですがそれは私が選んだことです。後悔はしていませんよ」

「そんな、だとしても、私は恩を返さねばなりません。実のところ、この辺りは私の故郷なのです。もしよければ、私達の集落にお招きしますよ」

「子供達もお招き頂けるのなら」

「それはもちろん! あなたへのご恩は一生をかけても返せるものではありません」


 そういう訳で、イズーナは男の集落に招かれることとなった。


「あ、聞いていませんでしたが、あなたのお名前は?」

「名乗るのが遅れてすみません。私はワフンセナカウといいます」

「よろしくお願いしますね」


 そうして訪れた集落は、天幕と家屋の中間のような家が立ち並ぶ原始的な集落であった。人々は奇異の目で白人達を暫し見つめたが、それ以上は特に何もしてこなかった。敵意を向けることも敢えて友好的に接することもなかった。


「ひとまずは、ここを仮の宿としてください。いずれはあなたの為に立派な家を建てましょう」


 ワフンセナカウは周辺の家々と特に変わらないような家にイズーナ一家を案内した。どうやら家主が最近急死したらしい。縁起が悪い気もしたが、そんなことを気にしているほどの余裕はなかった。


「ありがとうございます。ですが、ここまでしてくれなくても……」

「いえいえ、あなたには出来る限りのことをして差し上げたいのです」

「……そうですか」


 ――何か裏がある気がするのだけれど。


 そもそもワフンセナカウはイズーナに強力無比な魔法が備わっていることを知っている筈。ここまでしなくても問題なく生きていけるということを。


 となると、イズーナでも満足出来るように最大限のもてなしをしようとしているのだろうが、その動機が問題だ。


 果たして恩返しというだけで、ここまでするだろうか。その嫌な予感は見事に的中してしまう。


 子供達を寝かしつけた夜、イズーナを訪れる者があった。


「どなたでしょうか?」

「ワフンセナカウです。少し、よろしいですか?」

「ええ」


 イズーナが外に出ると、ワフンセナカウの後ろに数人の物々しい雰囲気をした男達があった。イズーナを攻撃しに来たという訳ではなさそうだが。


「何かあったのですか?」

「実は……あなたに有色人種会議の議長が興味を示しておられるのです」

「何ですか、それ?」

「ああ、あなたが知らないのは当然ですね。この大陸で侵略者に抵抗する諸部族の会合です。我々の取りまとめ役、或いはあなた方の言葉で言うところの司令部といったところでしょうか」

「なるほど。それは、あまりよくない予感がしますが……」

「どうか、お会いになるだけでよいのです。お願い出来ませんか……?」


 ワフンセナカウは泣きそうな目で訴えてくる。イズーナはそれを無視出来るほど無情な人間ではなかった。


「……ええ、分かりましたよ。会うことにしましょう。会うだけですからね?」

「ありがとうございます! それでは早速、私がご案内しますので」

「分かりました」


 護衛の兵士に連れられ、イズーナは松明に囲まれた大きな天幕に入った。

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