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ルシタニア共和国

「さて、ヴェステンラントもなかなか派手な嫌がらせを仕掛けて来た訳だが、どうしたものか」


 ゲルマニアとしては対応を決めなければならない。ルシタニア共和国なる傀儡政権に対しどう対処するべきか。


「まあ取り敢えず、共和国はヴェステンラントの傀儡として、国家承認しないということはいいな?」


 これについては異論なし。


「閣下、どうやら皇帝陛下はかなり心を痛めておられるようです。陛下のお気持ちを無下には出来ますまい」

「ふむ。『共和国なるものに遺憾の意を示すと同時に、全てのルシタニア人に共和国に抵抗するよう呼びかける』か。――そうか、それほどまでに……」


 皇帝が自ら心の内を表明するのはかなり珍しい。ということは、言葉の上では比較的穏やかであっても、皇帝はかなり本気でルシタニア共和国を嫌悪しているということだ。


「であれば、政府としてもルシタニア共和国には強い態度を取らざるを得ないでしょう」


 ザイス=インクヴァルト司令官は言う。まあゲルマニア人全員の君主である皇帝の意に反することを政府がやる訳にはいかない。しかし、実はそう単純な問題でもないのである。


「それはそうなんだが、一応私は、と言うより社会革命党は選挙によって選ばれた訳だし、今でも名目上は選挙が続いている。忘れては困るぞ」


 全権委任法の成立によって帝国議会の機能は完全に停止し、立法権は完全に総統に委任された。だが帝国議会自体は今でも存在し、名目上は選挙があり、それが総統の権力の名目上の根源となっている。


 選挙制を掲げるルシタニア共和国を否定すれば、それは総統を否定することになりかねないのである。これが面倒なところだ。


「ふむ……とは言え、ルシタニア共和国を非難すべき理由はそれ以外にも無数にあります。あまり困ることはないでしょう」

「まあな。やはり人民に主権があると主張していることこそが問題だな」

「はい。君主を否定し臣民が主権者になろうとする傲慢な態度は、徹底的に否定してよろしいでしょう」

「分かった。そういう方向性で非難するとしよう。ついでに陛下の歓心も買えることだろうしな」

「確かに、軍制改革を快く支持して頂けるでしょう」


 軍部にとってはある意味渡りに船である。皇帝の共感を得ることでこれからやろうとしている貴族性からの脱却を支持してもらいやすくなるだろう。まあ皇帝と取引しようとしている訳で、不敬なことこの上ない発想ではあるのだが。


「しかし、ヴェステンラントはどうして今になって傀儡政権など作ったのだ?」


 これまで2年以上、ヴェステンラントは占領地を直接統治する形態を取ってきた。ブリタンニアに関しては今でもそうである。それが今になって突然現地人に統治を任せるのは理解に苦しむ。人手が増えて作業はやりやすくなっただろうに。


「それは恐らく、補給線を確立しようとしているものかと思われます」

「と言うと?」

「軍事的に圧倒的に優勢であるヴェステンラント軍がルシタニアを未だに滅ぼせていないのは、ルシタニアが徹底的にヴェステンラントの補給線を断っているからです。ヴェステンラント軍はいくら兵士がいてもこれを動かせず、前線が膠着しているのです」

「なるほど。補給部隊の警備を共和国に任せようという訳か」

「はい。それに加え、占領地に潜伏するルシタニア兵を摘発しようともしているのでしょう」


 ルシタニアは国民総動員によってヴェステンラント軍の後方を脅かして来た。その国民を分断することで補給を維持しようとするのがヴェステンラントの戦略だと想定される。


「そんなことが上手くいくものか……」

「それは指導者の手腕によるでしょう。ド・ゴール将軍なる男がどれほどの手腕を持っているのか、見極める必要があります」

「彼についての情報はないのか?」

「ただの犯罪者ですから、あえて情報収集などはしておりませんでした」


 親衛隊のカルテンブルンナー全国指導者は言う。どれほど高尚な大義を掲げていても、所詮はただの殺人者だ。合法的に政権を取ったヒンケル総統とは比べ物にもならない下劣な男である。


 故に親衛隊はド・ゴール将軍について全くと言っていいほど注目しておらず、彼についての情報はないに等しい。


「ふむ、そうか。であれば、見極める必要があるな。そして彼に十分な手腕があるのならば、早急に対応を練らねばならない」


 それはつまり、ルシタニアが滅ぶ時だ。


「そうですな。まあ、ルシタニアには出来れば生き残って欲しいところです」


 ザイス=インクヴァルト司令官は大したこともなさそうな反応を示す。


「ルシタニアが滅んで一番困るのは君ではないのか?」

「確かにルシタニア方面に張り付いている6万の魔導兵がこちらに回ってくるのは厄介ではありますが、最早西部方面軍にとっては大した脅威にはなり得ません」

「そうなのか。しかし、こちらから攻め込むことは難しくなるのではないか?」

「それも確かに。しかし、敵の大兵力が集結しているということは、逆にこれを一気に殲滅する好機ではありませんか?」

「それはそうだが……」

「ちょうどいい。この際、西部方面軍の大戦略を披露するとしましょう」


 ザイス=インクヴァルト司令官は壮大な計画を語り出した。

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