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通信に関する問題

「これは魔導通信では言えなかった、つまり魔導通信そのものに関わる問題です」

「……ほう」

「我々の、いや、この世界の全ての魔導通信が盗み聞きされている可能性があると、報告します」

「何? 魔導通信を第三者が聞けるというのか?」


 ヒンケル総統は当然、疑ってかかる。それはあり得ないと誰もが思っていた。有史以来人類は魔導通信の秘密が絶対であることをあらゆることの前提としていたのだ。すぐに信じられるものではない。


「その根拠は?」

「オブラン・オシュでの戦闘において、我が軍の作戦はことごとく見破られました。最初は敵の指揮官が非常に優秀である可能性も考えましたが、敵は我々が初めて繰り出す戦術にも整然と――それどころかまるで、それを知っていたかのように対応して来ました。これは我々の通信が聞かれていたとしか思えません」

「それだけで通信が盗み聞きされていると考えてよいものか……」


 総統にはシグルズが最初に言った、ダキア軍の指揮官が非常に優秀であるという説の方がまだしも現実的であるように思えた。


 或いは――


「我が軍の中に内通者がいて情報が漏れたと考える方が自然ではないか?」

「確かにそれも考えられますが、第88師団だけで行った作戦でもこのような事例がありました。これはやはり通信が傍受されていると考えるのが自然かと」

「ふむ……こう言うのは悪いが、第88師団の中に内通者がいる可能性は?」

「それは……いいえ、あり得ません。裏切り者など我が師団にはいません」


 実の所、論理的に否定出来るものではない。その可能性を捨てることは出来ない。だがシグルズは、その可能性については意図的に無視していた。


「……分かった。まあいい。ではローゼンベルク司令官、東部の最高司令官である君としてはどう思う?」

「はい。少なくとも我々の作戦が漏れているというのは、薄々は感じていました。兵の士気に関わるので、一旦は保留としておきましたが」

「なるほど。情報が漏れている可能性は大きいが、その原因は分からんか」

「その通りです」


 ダキアの対応があまりにもよ過ぎるということで、情報漏洩に勘づいている者はいくらかあった。だがその原因が内通者によるものなのか、通信が傍受されているからなのかは分からない。


 検証のしようがない以上、結論を出すのは不可能であった。だが対応は決めなければならない。


「……よし。こうしよう。通信が傍受されていると仮定し、その対策を秘密裏に進めるのだ。いざという時の為にな」

「それでよろしいかと」

「で、シグルズ、どうすればいいかまで考えてあるのだろう?」

「はい。対策は簡単です。魔法に頼らない通信手段を確保すればいいだけのことです」

「狼煙でも使う気か?」

「いいえ、そんなものは非効率過ぎます。我々の文明の力を使いましょう。電気の力です」

「電気か……それが通信に使えるのか?」


 自動車などを作るには電子回路は必須だ。ライラ所長が既にその技術を習得してくれている。そしてその技術を通信に応用するのだ。


 もっとも、この世界の人間のほぼ全てには理解の出来ないことであったが。


「ライラ所長、本当にできるのか?」


 ヒンケル総統は三角帽子を被った眠たそうな女性に問う。ゲルマニアが誇る帝国第一造兵廠の所長である。


「それなら、多分出来ると思うよ。音声を電気信号に変換して、増幅して遠くに送ればいいからね」

「何を言ってるのか全く分からんが……まあいつものことか。君がそう言うのなら信じよう」

「ま、それでいいよ。それに、これは音だけに限ったことじゃない。いずれは写真や、映画すら通信で送れるようになるかもね」

「そんな凄いことが出来るのか……」

「かもしれないって話だけどね」


 シグルズには分かる。これは必ず実現出来る。その時、ゲルマニアが唯一魔法に頼りきりであった通信でも、魔法を完全に淘汰することが出来るのだ。


「まあ、その装置の開発は頼む。それと、ある程度量産しておいてくれ」

「うん? ある程度でいいの?」

「まずは数百台ほどだな。これは試験と技術習得の為だ。そして、帝国が最も重要な作戦を展開する時、これを実戦に投入する」


 もしも敵が通信を傍受しているのなら、それを逆手に取ることも出来る。偽の情報を魔導通信機で流しつつ、機械式の通信機で本物の通信を行えば、敵を大いに攪乱することが可能だ。


 そしてそれは、恐らく一度きりの作戦だろう。敵にそのことを察知されれば効果は薄くなるし、ヴェステンラント軍なら一度ひっかかればすぐに学習するだろう。


「なるほど、素晴らしい戦略です、総統閣下。仮に敵が通信を傍受していなくとも、我が国の安全保障には有益ですからな」


 これからその作戦を実際に使うであろうザイス=インクヴァルト司令官は総統を称賛した。


「そういう訳でライラ所長、通信装置の開発を頼みたい」

「分かったー」


 数百台の通信機を生産するくらい兵站には何の負担もかからない。実験をしておくに越したことはないだろうと、ヒンケル総統は特に迷いなくこれを可決した。


「シグルズ、これで問題ないか?」

「え、ええ。ありがとうございます」


 またしてもシグルズの手を離れてしまった感があるが、まあいいだろう。試験的にだが通信機の開発が始まることになった。

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