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軍団の再編制

 ACU2312 11/20 帝都ブルグンテン 総統官邸


 ヴェステンラントがルシタニアでよからぬ事を目論んでいる間、シグルズはとある計画を総統官邸に持ってきていた。


「軍に独自の階級を設ける、だと?」


 ヒンケル総統は興味を示してくれたようだ。


「はい。今まで我が軍は、貴族の私兵の延長線上として発達してきましたから、貴族制度と軍部はかなり強い結び付きを持ったものでした。しかし、これからは軍は完全に貴族などとは関係のない組織となるべきなのです」


 ゲルマニア軍には階級というものが存在しなかった。軍にあるのは役職だけであり、それに応じた爵位が授けられるという制度である。軍人にある程度の階級を付けることは出来るが、爵位――即ち皇帝と結び付いている以上、軍人の都合で昇級や降等が出来なかった。


「そういう意見は随分と前からあった。それを知らん君ではないだろう?」

「はい。知っています」

「だったら何故、今それを提案する?」

「それは今が好機だからです。昨今、軍部の影響力はかつてないほど高まっており、今は戦線が小康状態です」

「戦線が落ち着いている間に制度を整えようという訳か」


 火急の問題であったダキア戦線は片付いた。今やゲルマニア軍の8割以上が西部戦線に集結し、その守りは万全である。この小康状態が続いているうちに軍の合理化を進めてしまおうというのがシグルズの考えだ。


「ザイス=インクヴァルト司令官、実際のところはどうだ? 西部方面軍にそんな余裕はあるのか?」

「改革の度合いにもよりますが、シグルズの言うように、確かに余裕はあります。今現在前線に出動しているのは、全軍の2/3程度です」

「そうなのか? では、そもそも200万もの大兵力は必要ないのではないか?」


 ヒンケル総統には不思議に思えた。2/3で事足りているのなら、そもそも東部方面軍から増援を送る必要などなかったのではないかと。


「閣下、塹壕で戦ったことのない人間には分からないのかもしれませんが、毎日のように鳴り響く銃声と爆音、劣悪で不衛生な環境、明日の命も知れぬ状況の下で、人間んが正気を保っていられる時間は限られています。兵を定期的に入れ替えなければ、我が軍は正気を保てません」


 塹壕戦というのは最も非人間的な戦争だ。不衛生な環境で一日と休みなく殺し合いを続けて、正気をいつまでも保っていられる人間はいない。


 故に西部方面軍では全軍をおおよそ3つに分け、それらを交代で前線に充てているのだ。そのうちの常に1つが休息しているという感じである。


「なるほど……。すまん」

「いえいえ、お分かりいただけたのなら結構です。それで、話を戻しましょう。このような状況である為、常に多くの兵が戦略予備として待機しています。予備兵力を再編していけば、軍制改革はそう難しいことではありません」

「なるほど。まあそれでは、シグルズから具体的なところを提案してもらうこととしようか」

「はい。とは言え、まずは名前からとしましょう。名は体を表すと言います」

「聞かせてくれ」


 シグルズは取り敢えず、新しく制定する予定の階級について、一通りの案を示した。上から役職に対応するものを書いていくならば……


 上級大将――参謀総長。該当するのはカイテル参謀総長のみ。


 大将――方面軍司令官。ザイス=インクヴァルト司令官ら3名のみ。


 中将――方面軍司令官以下、師団長以上の地位を持つものに臨時的に補す。オステルマン軍団長など。


 少将――師団長など。


 大佐――幕僚長など。


 中佐――幕僚、通信長、医長など。


 これより下までは、まだ具体的な案はない。


「なるほど。私は大将になる訳か」

「はい。まずは今の雑然とした制度を廃し、合理的で単純な階級を設定するべきかと考えます」

「これくらいなら問題なく出来そうか、ザイス=インクヴァルト司令官?」

「はい。結局のところは実際の制度に名前を合わせるだけですから、問題はないでしょう」

「分かった。問題は、この階級をあえて設けるべきかということだな」


 実行は不可能ではない。では今のままでも特別に大きな問題は生じていないのに、わざわざ階級というものを新設すべきか否か。それが問題である。


「私は先程も申し上げたように、合理的なものは好きですから、シグルズの提案したような改革には賛成です」

「そうか。では、帝国軍最高司令官のカイテル参謀総長は?」

「ザイス=インクヴァルト司令官の言うように、軍部は可能な限り合理化されるべきだとは思います。ですが、それは帝国軍の根幹を揺るがす事態であることも考慮して頂きたいものです」

「確かにな。名目上の話とは言え、軍が国家から完全に独立することとなる」


 神聖ゲルマニア帝国軍は名目上、皇帝の軍隊である。皇帝に封ぜられた諸侯が各々の私兵を率いるという、三百年ほど前の体制が残存しているのだ。もっとも、これはとうの昔に有名無実となり、皇帝は今や統帥権を全く行使出来ていないが。


 とは言えこの制度を廃すれば、国家と軍の繋がりが名目上ですら消えてしまう。これは問題だとカイテル参謀総長は言うのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルシタニアの民主主義派(?)がド・ゴールとはなんとまあ世界が違えど名前が一緒のやつはいるかもな。 (改変世界だけどカイザーライヒでは王政復古をやってるからこれはまぁと思ってる)
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