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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第四章 ブリタンニア、ルシタニア戦記
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食糧問題

 ACU2309 4/1 ルシタニア王国 ノヴィオマグス ヴェステンラント軍臨時司令部


 草木も眠る丑三つ時――つまり深夜、スカーレット隊長は陣中を走っていた。白い鎧を身に着けたまま、がしゃがしゃと金属が触れ合う音を出しながら。


「殿下! 火急の要件です!」


 クロエの寝室の扉を荒々しく叩く。暫く待つが反応がない。


「殿下? いらっしゃいますか!? 殿下!」


 ――まさか、こんな時に何か起こったのか!?


「殿下、失礼!」


 意を決して扉を開ける。


「んなっ!」


 そこでスカーレット隊長は恐ろしい光景を目にすることとなった。一体何がどうなっているのか、彼女には皆目見当がつかなかった。ただただ頭が混乱するばかりであった。


「な、何をしている! マキナ!」


 寝台の上でマキナがクロエの隣で寝ていた。それでいてマキナだけがぱっちり見開いた目でスカーレット隊長を見つめてきた。


「き、貴様、まさかクロエ様を……おのれっ!」


 スカーレット隊長は剣を抜き、問答無用とマキナに斬りかかった。


「お止め下さい。危険です」

「くっ」


 むくっと上体を起こし、マキナは剣を平然と手で受け止めた。白い手袋が破れると、鈍色の掌が露になった。


「――忘れていた。貴様の腕はそうだったな」

「はい。ですので、魔法も使わない剣で私には勝てません」

「貴様……」


 確かにそうだ。こんなところでまでエスペラニウムを持ち歩いてはいない。


 魔法を使わねば、残念ながらマキナに勝ち目はない。そんなことは分かっていることだ。しかし、何としてもこの逆賊を討ち果たさなければならな――


「ん……どうしたんですか?」

「へ?」

「おはようございます。クロエ様」

「あ、あれ……?」


 ――うん。今のはなかったことにしよう。


「えー、殿下、現在捕虜の収容所にて――」

「スカーレット殿がいきなり襲い掛かって来ましたので、取り敢えず応戦しました」

「ば、馬鹿を言え! そのような讒言を、く、クロエ様が信じ込むとでも……」


 スカーレット隊長はこれまでになく動揺していた。誰の目からもスカーレットが誤魔化そうとしていてマキナが淡々と事実を述べているだけなのは推測出来た。


「スカーレット、どうしたのですか? 突然ゲルマニアに裏切りでもしたのですか?」

「そのようなことは断じてありません!」

「ではどうしたのですか?」

「そ、それは……」


 生まれてこの方最大級の勘違いだった。だが説明しない訳にもいかない。噓をつけばマキナに指摘される。


 スカーレット隊長は結局、ことの一部始終をクロエに説明した。


「なるほど。マキナが私を殺したと勘違いしたのですね」

「はい……殿下からお返事がなかったので」

「それは私が悪かったかもしれませんが、流石に早とちりが過ぎませんか?」

「はい……その通りです。何の申し開きもございません」

「まあ、このことは水に流しましょう」


 クロエは細かいことは気にしない主義である。許容範囲は腕一本が吹き飛ぶくらいまでという大雑把過ぎるものであるが。


「で、ではお尋ねしますが、殿下は何故に従僕などと寝床を共にしているのですか?」

「『マキナなど人間ではない』と言ったのはあなたですよ、スカーレット」

「そ、それでマキナに寝床を与えずに一緒に寝ていたと……?」


 マキナが嫌いなのか好きなのかよく分からない対応である。


「冗談です。真相はと言うと、マキナが一緒に寝たいと言ってきたからそうしただけです」

「なっ、マキナ、貴様……」


 ――抜け駆けか!?


「我が軍の陣地とは言え、ここが敵地であるのは変わりません。クロエ様の安全をお守りするにはこれが最適だと判断しただけです」

「……そ、そうか」

「まあマキナが何を考えているのかはよく分かりませんが、マキナとは生まれた時からの付き合いですので悪い気もしませんし」


 マキナはクロエにとって育ての親のようなものだ。一緒に寝たり風呂に入るくらいは極普通のことである。


「くっ。まだお仕えして4年ほどの私では敵わぬか……」

「何の話です?」

「い、いえ、殿下、何でもありません」

「そうですか」


 と、ここでスカーレット隊長は思い出した。自分がどうしてここにいるのか、その理由を。


「そ、そうだ。殿下、先程、捕虜収容所にてゲルマニア人捕虜の暴動が発生しました」

「暴動……理由は?」

「食糧不足です」

「やはり、そうですか……」


 捕虜を得て暫く食事を与えることはヴェステンラントでも想定されていた。だが、それも10万人が限度で、一気に20万人もの捕虜を取ることになるとは、予想だにしなかった。


「どうしましょうか……」


 暴動が起きた理由はヴェステンラント軍の配給が滞っているからだろう。空腹になれば誰だって苛立つ。


 しかし、原因が分かったところで解決策はない。ないものはないのだ。出しようがない。しかし捕虜を送還もしたくない。


 一体どうしたものか。


「予備の食糧を全て放出しましょう。取り敢えずは落ち着いてもらわないと」

「よろしいのですか? 我らの食事が確保出来なくなる可能性があります。奴らよりヴェステンラントの武人を優先すべきではないでしょうか」

「こういう時の為の予備です。それに、根本的な解決をしなければ、どの道、手詰まりになります」

「承知しました。ではそのように命じてきます。失礼」


 スカーレット隊長は足早に寝室を後にした。


「しかし、どうしたらいいんでしょうか」


 さっきは格好をつけたものの、根本的な解決策などどこにもない。


「やはり現地人――ルシタニア人から取り立てるしかないのではないでしょうか」

「まあ、そうですね……ですが……」

「御懸念は分かります」


 取り立てるとは略奪するということだ。だが、何の罪もないルシタニア人を苦しめるのを、クロエはよしとしなかった。


「しかし、それ以外に道が見えないですね」

「本国から送られてきた金で小麦を買うことも出来なくはないでしょうが」

「それでも手詰まりまでの時間を延ばすくらいにしかなりませんね」

「はい。私は軍政についてはそう詳しくないので、これ以上は」

「そうですね。どうしましょうか……」


 クロエは大きく伸びをして、再び眠りについた。心なしか、マキナが体をくっつけてきているように感じた。

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