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ヴェステンラントの増援

 ACU2312 11/17 ルシタニア王国 旧王都ルテティア


 マキアが戻ってきてすぐ、遥か遠くの海原からの援軍が到着した。陽公シモンの率いる陽の国の軍勢8万である。一旦は1万の先遣隊が大陸に上陸し、残りの兵力はヴェステンラント軍の前線基地と化したブリタンニアで待機している。


「シモン、長い船旅、お疲れ様です」


 クロエは自らシモンを迎えた。


「ありがとう。しかし、ノエル君はいないのか?」

「赤の魔女ノエルはルシタニア方面にかかりっきりで、ここ最近は私も会っていません」

「そうか。オーギュスタンの奴がよろしく伝えてくれと言っていたが……無理なようだな」


 ノエルの父、赤公オーギュスタン。娘のこととなると途端に何も見えなくなる性分だ。このことを伝えたらさぞ悲しむことだろう。


「だが、ルシタニアごときに6万もの兵力が必要か? ゲルマニア相手なら分かるが、あんな国ごときに……」

「彼らは国民を総動員して徹底抗戦を貫いています。それにゲルマニアから膨大な武器が送られていますから、なかなかしぶとく、戦争が長期化しています」


 2年以上に渡る戦争で、ルシタニアの主要都市は軒並み堅牢な要塞に改造されている。ゲルマニアの武器で武装したこれらの都市を落とすには、多大な労力と犠牲が必要だ。


 それに彼らはヴェステンラント占領地の住民を武装し、補給線を絶え間なく襲撃させている。補給線を防衛する兵力を捻出出来ないヴェステンラント軍としては、これもかなり響く。


「――とは言え、彼らに反撃を行う戦力は残されてはいまい。占領地防衛の兵力を残し、ゲルマニア方面に全力を注ぐというのはどうなのだ?」

「それは考えはしましたが、実のところ彼らは戦車をそれなりの量保有しています。いざとなれば反撃を行える戦力は保持しているのです」

「それを考えれば手を抜けないということか」

「はい。ルシタニア方面もまた、戦力が拮抗しているのです」


 ルシタニアの生産力も武器の量もゲルマニアには到底及ばないが、それを国民を使い潰す勢いの人海戦術で補っている。決して油断出来る敵ではないのだ。


「とは言え、聞くところによると戦争で潤っているらしいゲルマニアと比べれば、ルシタニアの方が落としやすいだろう」

「それは間違いありませんが――」

「であれば、クロエ様、シモン殿と協力し、一気呵成にルシタニアを滅ぼしてしまいましょう!」


 クロエの腹心の一人、猪武者として内外に有名なスカーレット隊長は、思い付いたことを即座に口にした。


「協力するのはノエルですが、まあ間違いではありませんね。片方に注力し先に片付けるのは正しい策です」

「ふむ……しかし、兵力を増やしたところで兵站が持たなければ兵を動かせないのではないか?」

「ぐっ……そ、それは……」


 スカーレット隊長は大して考えもせずに勢いで言っただけのようだ。補給線を維持出来ないという根本的な問題を解決出来なければ、兵力がいくらあっても意味がない。


「ではやはり、いかにして占領地の治安を維持するかというのが問題か」

「そうなりますね」

「であれば、ゲルマニアに倣って現地人の傀儡でも作ればよいのではないか?」

「直接統治を止めるということですか。ですが、それでうまくいくのでしょうか……」


 今のところはルシタニアの各地にヴェステンラント軍が駐屯し、直接占領行政を行っている。確かにその為に余計な兵力が拘束され、輜重部隊の護衛が十分に出来ていない。そしてシモンはそれを改めよと提案するのだ。


「ダキアでうまくいったのだ。我々がうまく出来ない理由はない」

「そういうものでしょうか……。まあ、試してみる価値はありそうですね」

「その辺りは頼めるかな? ここに来て数日の人間には、エウロパの勝手は分からないのでな」

「はい。ではマキナ、そこら辺の用意をお願いします」

「それならば、このような事態もあると見込み、見当を付けています」


 マキナはキーイ大公国なるものを間近で見て来たのだ。既にこのような手段も検討していたらしい。


「ほほう、その候補とは?」

「長らくルシタニアで地下活動を続けて来た、ド・ゴールという将軍です。我々が来てからは活動を鎮静化させているようですが、実力はあるものかと」

「地下活動……それはどういう……」


 クロエはその男を使ったらロクでもないことになる気がした。


「ド・ゴールは、ルシタニアに民主主義を打ち立てることを大義に掲げ、数々の破壊活動を行っていたようです」

「ただの犯罪者じゃないですか。しかも倫理観が終わってる」

「はい。しかし我々が敵対しているルシタニアの敵です」

「ふむ。敵の敵は味方、という訳か」


 国王を弑逆するという悪逆な目的の為に犯罪を繰り返しているという男だ。到底信用出来るものではないが、とは言え利害が一致さえすれば人間は手を組めるものだ。


「判断はクロエ君、君に任せるが?」

「そうですね……個人的な感情で言えば手を結びたくはない相手ですが、武装勢力として実力も持っているようですし、手を結ぶ利益はあるかもしれません。その方針で準備を進めましょう」


 クロエは得体の知れないド・ゴールなる男と手を結ぶことを決定した。

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