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逃げ延びた者達

 ACU2312 11/13 帝都ブルグンテン 総統官邸


 アリスカンダルの要求通り、エカチェリーナ隊長達はダキアへ捲土重来を果たす意志は表明していないが、彼女らがガラティアにいるということは、ガラティア政府から発表したがあった。


 ガラティアに曰く、ダキア人達の安全が確保されたと確認するまでは彼女らを匿うとのことだ。


「――そうは言うが、我が国にとって目障りなのは変わりないな……」


 ヒンケル総統は苛立った様子で呟く。ガラティア帝国の真の目的がダキアに侵攻する口実を確保しておくことであるのは明白だ。


「ガラティアは一応は我々に協力してくれているのです。すぐに我々の脅威となることはないでしょうが……」


 ローゼンベルク司令官は控えめに言った。確かにガラティアは、キーイ大公国がダキアの全域を呑み込むことに一定の協力をしてくれている。


 貿易も全く問題なく続けている訳だし、今すぐに仕掛けてくるとはヒンケル総統も考えてはいない。


「そうではあるが、無駄な戦力と注意をガラティアに割かなくてはならなくなる」

「それは確かに。まあそう大きなものではありませんが」

「その点に関してはご安心を。我が親衛隊情報部がガラティア帝国に諜報網を張り巡らせております。仮にアリスカンダルにその気があれば、我々がすぐさま察知します」


 カルテンブルンナー全国指導者は自信満々に。親衛隊の秘密警察としての任務は外国にも広がっているのである。


「そうだな。それでいいだろう。ガラティア方面への警戒は親衛隊に任せる」

「はっ」


 ヒンケル総統は特に親衛隊の能力を疑っていなかった。何千人もの反乱分子を摘発してきた親衛隊の諜報能力は本物だと信じている。


「――しかし、結局我々に出来るのは警戒だけか」

「南部方面軍で塹壕の用意でもしておきましょうか?」


 南部方面軍のフリック総司令官は言う。万一にでもガラティアと開戦した際の時間稼ぎくらいは用意しておいた方がいいのではないかと。


「……いや、やめておこう。塹壕など掘ったところで、主力を欠いた軍勢でガラティア軍を足止めするなど無理な話だ。ガラティアを刺激するのとは割に合わない」

「分かりました。南部方面軍はこれからも事務作業に徹するとしましょう」


 フリック司令官は少々演技臭く溜息を吐いた。


「すまんな。南部方面軍にはロクに活躍の機会を与えられていなくて」

「戦争を最も望まないのは軍人です。不満などありませんよ」

「そ、そうか」


 南部方面軍が暇をしているのは、帝国にとっては幸運なことだ。


 〇


 ACU2312 11/15 西部戦線上空


 国境の端から端に伸びた長大な塹壕線。その南北1キロパッスス程度の範囲は赤茶けた更地になってしまっている。かつては穏やかな草原が広がっていたが、ゲルマニア軍の砲弾に掘り返され、ヴェステンラント軍の魔法に焼き尽くされてしまった。


 さて、そんな悲惨な戦場の上空を飛行する影が一つ。地上の人間から見れば点にしか見えないような高度で、黒い翼を背中に広げたメイド服の少女が飛んでいる。


「ああ、クロエ様…………いけない。クロエ様の禁断症状が」


 白公にして白の魔女、クロエ・ファン・ブランに仕えるマキナは、1年と半年ぶりにやっと主君と再会しようとしていた。ゲルマニア軍の対空砲火には気づかれることすらなく、彼女はヴェステンラント軍の司令部が置かれているルテティアに無事に到着した。


「クロエ様、ただいま戻りました」

「マキナ……よく無事に戻ってきましたね……」


 髪から肌まで真っ白な赤い目をした少女は、仕事を放り出してマキナを抱擁した。まあ西方の人間にとっては珍しいことではない。


「く、クロエ様……」

「ダキアはどうでしたか? 何か大変な目に遭わなかったですか?」

「それは……私がいたにも関わらず、ダキアはゲルマニアに滅ぼされてしまいました。クロエ様の命令を守れず、申し訳ございません」

「そんなことはどうでもいいです。あなた自身はどうでしたか?」

「私……ですか」


 クロエはただマキナの身を心配していただけなのだが、マキアには想定外の質問だったらしい。


「そうですね。私自身の身に危険が及んだのはただ一度、女王陛下に体を真っ二つにされたことくらいでしょうか」

「は……? え、もう一度言ってもらっていいですか?」

「はい」


 クロエは何度も確認したが、マキナは確かに女王ニナに殺されかけたと言っていた。間違いないようだ。


「……ええと、突っ込みどころが多過ぎるのですが……女王陛下が本当にピョートル大公を?」

「はい。間違いありません。私より強い魔力を持った魔女など、この世界でも極少数ですから」

「しかし、どうして……」


 女王の行動は完全に彼女の独断であった。前線指揮官であるクロエにすらそのことを知らされていなかったのだ。


「分かりません。いつもの思い付きにしては目的があるように感じられましたが」

「……このことは取り敢えず秘密にしておいてください。真相を確かめるまでは」

「はい、分かりました」


 今回のことは結局、なかったこととされるのだった。

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