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最後の闘争Ⅱ

 ピョートル大公は死を覚悟した。だが、ニナの剣が彼に届くことはなかった。剣と剣がぶつかり合い、火花が散った。


 彼を救った剣の持ち主は、マキナであった。


「マ、マキナ……」

「マキナ? 余はお前の女王であるぞ? 余に逆らうとは合州国に逆らうことであると分かっているのか?」

「主の主は主に非ずと申します。我が主はクロエ様のみ。そしてクロエ様が大公殿下を守れと命じた以上、私は例え相手が女王陛下であろうとも、剣を取らせて頂きます」

「ふはは、なるほど。面白い。ではその覚悟、見せてもらおうか!」

「っ…………」


 ニナは楽しげに剣を振り上げ、再びマキナに向かって振り下ろした。マキナはその剣を自らの剣で受け止める。


 剣と剣が擦れる度に火花が舞い散り、マキナの足元の床が軋む。余人の介入を一切許さない気迫を彼女らは放っていた。


 ――この状況、どうすれば……


 突然現れたニナに蚊帳の外に追い出されたエカチェリーナ隊長は、その銃をニナに向けながら、何も出来ないでいた。


 そもそもニナは味方なのか敵なのか、彼女は一体全体何がしたいのか、ここで引き金を引いたらどうなるか。頭の中に様々な思考が入り交じり、エカチェリーナ隊長はすっかり固まってしまう。


 だがニナとマキナの鍔迫り合いは激しさを増すばかりである。


「マキナ、諦めよ。いくらお前でも余に勝てはしまい」

「それは、やってみなければ、分かりません」


 心なしか、マキナの声は苦しげであった。


「そうかそうか。なれば、その身に教えてくれろう。我が力をな」

「クッ……」


 ニナは更に力を込めて剣を押し込む。その剣に触れれば人間など紙切れのように真っ二つにされるだろう。そして、魔導剣すらもその力に耐えられなかった。


「剣が……」


 パキパキとマキナの剣にヒビが入った。そうなってしまえば最後、剣は形を保っていることも出来ない。


「さらばだ、マキナ」

「あ……」


 諦念のような感嘆のような、そんな声を漏らした瞬間、マキナの左の脇腹から腰にかけて剣が通り抜けた。


 マキナの体は二つに別れて、上半分が落下すると同時に、下半分も崩れ落ちた。


「ふぅ。我が国の優秀な魔女を殺したのは少々心苦しいが、まあいい。ピョートル大公、お前には死んでもらうぞ?」


 ピョートル大公を守る者はもういない。


「そうですか……だったら一思いに殺せばよろしい」

「聞き分けの良い奴だ。では遠慮なく――」

「おやめ下さい!!」

「あ?」


 叫んだのはエカチェリーナ隊長だった。


「お前、さっきは大公を殺そうとしていたではないか。今更何を言う」

「私は大公殿下を殺そうとなどはしておりません。あくまで大公殿下をお止めしたかっただけです」

「であれば、死んだら止まるぞ?」

「そういう話ではありません! ふざけないで下さい!」


 エカチェリーナ隊長の目的はあくまでピョートル大公を諌めることだ。それを排除しようとする気は元よりなかった。


「まったく、面倒な奴だ。……この戦争を終わらせるのがお前の目的だったな」

「え、ええ。民が無用に苦しまないようにと」

「はあ……分かった分かった」


 ニナは大きく溜息を吐いた。


「興醒めだ。お前達がそうしたいなら勝手にすればよかろう。余は帰る」


 そう言い残し、ニナは透明になって立ち去った。確かに彼女の目的を達成するにはピョートル大公を殺害する必要はない。


「で……はい。殿下、ヴェステンラントは我が国を見限ったようです。それでもなお、殿下は戦争を続けるおつもりですか?」

「…………私にはもう、戦う力も希望もない。だから……これ以上の戦いは、無意味だな……」


 ダキアにとって唯一の希望であったヴェステンラントが彼らに牙を剥いたのだ。ピョートル大公の妄想にも近い勝算すら、今や粉々に砕けた。


「殿下……」

「こうなったからには…………この戦争も終わりにしよう。私はゲルマニアに降伏する。恐らくは処刑されるだろうがな」

「でしたら、我々もお供致します」

「ならん!」

「なっ……」


 エカチェリーナ隊長にとって、ピョートル大公に拒絶されるのは想定外だった。


「私は戦争の責任を負い、ゲルマニアに処刑される。だがお前達は逃げよ。どこかに逃げて、再起の時を待つのだ」

「逃げると言っても、どこに行けば……」

「ガラティアに行くのだ。ガラティアには我が国の重臣達を庇護することに利がある。彼らならば受け入れてくれるだろう」


 ガラティアはダキア情勢においてゲルマニアに対抗出来る切り札が欲しい筈だ。ここにいる者達はその切り札になり得る。


「……分かりました」

「さあ、もう時間がない。早くオブラン・オシュから逃げるのだ。そして南を目指せ」


 もうすぐ3つほど先の部屋にまでゲルマニア軍は迫っている。


「はっ。殿下もどうかご無事で」

「まあ、努力することとしよう」

「では、失礼致します」


 シグルズが進入したのは言わば正面玄関であり、他にも多数の出入り口がオブラン・オシュの各地に隠されている。飛行魔導士隊は大貴族や重臣を連れ、地下壕から脱出した。

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