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戦車戦

 歩兵隊が家々の間を浸透し、伏兵や弩砲を排除する。そうして安全を確保した後に悠々と進撃するのは戦車と装甲車からなる戦車部隊である。


「前方に敵魔導反応です」

「4号車から8号車に排除させよ」

「はっ」


 ヴェロニカもシグルズもかなりこの市街戦に慣れてきた。敵はどこにでもいて、それを片っ端から排除する。


 ヴェロニカに探知されたが最後。ダキア兵は戦車砲の榴弾と機関銃によって迅速に排除される。このような正面戦闘が戦車の役目なのである。


「今のところは順調、か」

「損害は大きくなり続けていますが……」

「分かってる。はあ……」


 戦車部隊の順調な進軍は、歩兵隊の大きな犠牲に支えられたものである。死者は既に第88、91師団だけで千人を超えた。全体で見れば5桁に余裕で到達していることだろう。


 だが、その犠牲のお陰で勝利を掴み取れる。ゲルマニア軍はそう確信していた。しかしダキア軍もまた、状況に応じて次々と手を打ってくるのだった。


「シグルズ様、前方に再び魔導反応です」

「うん。すぐに排除を――」

「待ってください! 敵が急速に接近しています!」

「何? ――何であろうと迎撃せよ!」

「はいっ!」


 何かは分からないが魔導士が突進してきているらしい。シグルズは指揮装甲車から頭を出し、直接状況を確認する。


 そして双眼鏡を覗いた先に見えたのは、戦車隊に果敢に突撃する騎兵の姿であった。魔導探知機に反応したことからも、その鎧からも、魔導騎兵であることは間違いないだろう。


「なるほど……弩砲を潰された今、反撃の手段は白兵戦だけという訳か」

「シグルズ様、大丈夫そうですか?」

「いいや、あまり大丈夫そうではないね。数が尋常ではない」


 シグルズの率いる第88師団を攻撃する為だけに、見たところ2,500ほどの魔導騎兵が繰り出して来ている。その奔流のような勢いを戦車だけで完全に食い止めることは難しい。


 榴弾で数十騎を吹き飛ばし、機関銃で無数の弾丸をばらまけるにしても、やはり敵を追い返すことは出来なかった。


「シグルズ様、多数の魔導兵が陣形の中に潜り込んでいます!」

「クッ……やってくれる……」


 ダキアの騎兵は多くが斃れたが、まだ千人以上が生き残っている。彼らは戦車に肉薄し、その装甲を切り裂こうと試みた。実際、魔導剣で時間をかければどんな厚い装甲であろうとも切り裂くことが出来る。


 そして剣が届くほどに肉薄されると、戦車でも装甲車でもどうしようもなくなってしまうのだ。


「複数の戦車が炎上しています!」

「少し舐めていたな……」


 既に最初に突撃した者の7割は死んでいる。普通の軍隊ならこうなるもっと前に撤退するのだが、彼らは犠牲などまるで意に介さなずに突撃を敢行、戦車にいくらかの損害が出た。


 だがそれで戦車隊の手が尽きた訳ではない。戦車だけが戦車隊の全てではないのだ。


「歩兵隊は下車戦闘! 戦車に敵を取りつかせるな!」

「はっ!」


 敵騎兵を迎え撃つのは後方の装甲車からの銃撃、そして歩兵である。


 彼らは次々と装甲車から降りると慣れた動きで素早く前進し、戦車の後部――完全なる死角にして弱点――に取りつき剣を突き立てる魔導兵に引き金を引いた。たちまち魔導装甲は破れ、魔導兵は撃ち殺された。


 それでもなお迫る敵には戦車を遮蔽物としながら応戦。ゲルマニア軍にもそれなりの損害が出たが、ダキア兵は生存者が百人を切った辺りでようやく敗走したのだった。


「魔導反応、消失しました」

「ふう。何とかなったか」


 冷や冷やさせられる戦いだった。シグルズが自ら前線に出ようとも本気で考えたが、何とか兵士の力だけで撃退することが出来た。


「――しかし、シグルズ様、敵はおおよそ2千を超えていたのですよね?」

「え? ああ、そうだけど」

「その……それほどの魔導反応は確認出来なかったのです」

「じゃあ、どれくらいが確認出来た?」

「およそ500です。いくら探知し損ねていたとしても、2千を超える敵がいたとはとても……」

「つまり……敵の大半は魔導兵ですらなかったと?」

「そう、なりますね……」


 つまりは敵は魔導兵に偽装して派手な鎧を着ただけの、ただの人間だということになる。


「これは確認した方がいいな……ここらで陣形の立て直しを兼ねて休息を取ろう」

「はい。では、私も付いていきますね」


 シグルズとヴェロニカは再び指揮装甲車を飛び出し、つい先ほどまで熾烈な攻防が行われていた最前線へと赴いた。両軍の死体の片付けが行われている中、シグルズは何体かの死体を検分することにした。


「軽い……やはり敵の多くは魔法すら持っていなかったということか……」


 鎧に触れればすぐに分かった。それは見た目を魔導装甲に似せただけのただの鉄板であると。


「しかし、敵はどうしてそんなことを……」

「少ない魔導戦力を有効に使う為、だろうね。こうしておけば魔導兵が殺される確率がいくらか減る」

「無茶苦茶の作戦を考えるものですね……」


 魔導兵を可能な限り有効に使う為、市民を囮にしたのだ。ゲルマニア軍に必要以上の弾丸を浪費させることが出来るし、戦車部隊への接近も容易になる。死体の山と引き換えではあるが。


 合理的な作戦であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?ダキアは防衛側でしたよね?幾ら戦車を破壊できても、そんな無茶な突撃をして兵力を大きくすり減らしたら却ってマイナスになると思うんですが・・・なにしろ、ゲルマニアにとっては一々街中を探して…
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