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徹底抗戦Ⅱ

「――失礼を申し上げますが、それは確実な情報なのですよね、総統閣下?」

『ああ。確実な情報だ。ヴェステンラント軍の魔導兵4万が、つい昨日出航した』


 大八洲方面でヴェステンラントには余裕が生まれた。その余剰兵力がゲルマニアに送り込まれようとしている。


「昨日に出航したとなれば、西部戦線に到着するまでおよそ1ヶ月……。まさか本当にそこまで早く動けるとは……」

『まったくだな。私もまさか、本当に2ヶ月以内にダキアを片付けなくてはならなくなるとは思わなかった』

「ですな……」

『さて、意気消沈するのもこれくらいにしよう。言うまでもないが、東部方面軍は文字通り一刻も早くダキアを降伏させなければならない』

「と、仰るということは……我々に攻勢を継続せよと仰るのですね?」


 多大な損害が予想される真正面からの市街戦のことだ。ローゼンベルク司令官にはもうヒンケル総統の、というより参謀本部の言いたいことが察せられた。


『その通りだ。より多くの犠牲が出ることは分かっている。だが、空襲もピョートル大公の暗殺も確実ではない以上、これは仕方がないのだ……』

「ええ、分かっております。確実な手段を取る他ありませんからな……」


 シグルズとオステルマン師団長が提案した策は、確かに成功すればオブラン・オシュを一撃で落とせるだろう。だが一方で、失敗したらそれまでだ。何も起こらない。


 時間は有限だ。どちらの奇策も失敗した場合に一刻も早くオブラン・オシュを落とせるように、攻勢を継続して前線を進めておく必要があるのだ。それが無駄骨に終わる可能性もあるが、奇策の成功に全てを賭けるというのは愚者の選択である。


『そういうことだ。東部方面軍は爆撃機の用意とピョートル大公の捜索を進めつつ、全方面で攻勢を継続せよ。命令は以上だ。詳細は追って伝える。何か質問は?』

「いいえ、問題ありません」

『頼んだ』


 かくして東部方面軍は市街戦の泥沼に全身を突っ込むのであった。


 ○


 シグルズの第88師団にも当然、戦闘の再開が命令された。また今回、同行している歩兵第91師団もシグルズの指揮下に加えられることとなる。


「シグルズ様、前方に複数の魔導反応は確認出来ますが、特徴的なものは何も確認出来ません」


 指揮装甲車の中の師団司令部。ヴェロニカはシグルズに報告する。


 普通の魔導兵数百が存在することは確認出来るが、魔導弩砲やコホルス級以上の魔女など、特徴的な敵を発見することは出来なかった。


「分かった。やっぱりか……」

「すみません……」

「謝る必要はないよ。ヴェロニカに発見出来なかったら、ゲルマニア軍の誰にも発見出来ないよ」

「そうでしょうか……」

「うん、本当に」


 ヴェロニカはこの世界でも最大級の、恐らくはヴェステンラントのレギオー級の魔女達にも匹敵する魔力を持っている。戦闘にそれを活かしはしていないが、魔導探知機に精度は間違いなく世界一である。


 因みに、シグルズは意図的に、ヴェロニカの魔法を戦闘に使わせないようにしている。彼女の魔法が矛に使われればそれはゲルマニアをも貫きかねないからだ。


「さて……歩兵隊は街道周辺の建物を制圧。戦車隊は安全を確保した後に前進せよ」

「では私は前線指揮に出向こう」

「頼む」


 オーレンドルフ幕僚長は指揮装甲車を出て歩兵隊の指揮に向かった。歩兵隊は戦車に先行して戦車への脅威を排除し、その後ろで戦車が前進する。


 この戦闘で主役となるのは歩兵だ。入り組んだ市街地での戦いは塹壕戦や戦車戦とはまるで異なり、まるで中世のような戦いがあらゆる場所で展開されることになるだろう。


 さて、オーレンドルフ幕僚長は一時的とは言え2万人近い兵を率いることになる訳だ。流石に前線で剣を握っている訳にはいかず、少し下がった臨時司令部から指揮を執る。


「オーレンドルフ幕僚長殿、第5大隊、第21小隊が敵の拠点らしき建物を発見しました」

「分かった。第13から第22小隊を集結させ、敵拠点を制圧せよ」

「はっ!」


 物量作戦だ。歩兵師団を戦車師団の隷下に置いたのはこの為である。


 ○


「命令が下った。突入せよ!!」

「「おう!!」」


 隠密行動などくそくらえ。歩兵隊は機関短銃と小銃を手に扉を蹴破った。


「ぐああっ!!」「うっ……」


 その瞬間、数本の矢が正面から飛んできた。魔法で加速された鋼鉄の矢は容易く数人の人間を貫く。最初に突入した20人ほどが銃弾を放つことすら出来ずに斃れた。


 だがそんなことは織り込み済みである。


「怯むな! かかれっ!!」

「「「おおっ!!!」」」


 死体は踏みつけ負傷者は担ぎ出し、ゲルマニア軍は我武者羅に突撃を繰り返した。魔導弩には装填が遅いという欠点がある。物量で押し切ることは現実的な選択肢だ。


 死体を床に敷き詰めながら廊下を前進し、そしてゲルマニア兵は魔導兵に肉薄した。


「白兵戦で我々に勝とうとなど――」

「くたばれっ!!」

「何!?」


 ゲルマニア兵は銃剣すらかなぐり捨てて魔導兵に飛びかかった。予想外の攻撃に魔導剣は彼の手から滑り落ちる。


 兵士達は彼に群がり、その鎧を無理やり剥がした。物量で押し切るとはこういうことである。


 こうして彼らは中世のような白兵戦を繰り返し、たった1つの建物の為に100人以上の犠牲を出したが、何とか弩砲を制圧することに成功したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この状況下、火焔放射器や火炎瓶が有効に作用しそうですが、何かダメな理由が有るのでしょうか? 放射器をすぐ用意するのは無理としても、建物内に手榴弾の代わりに簡易な火炎瓶を投げ込む策はとれそうで…
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