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激烈な抵抗Ⅱ

 オーレンドルフ幕僚長は計画通り、敵拠点の扉の目の前に抜刀して構えていた。単騎で突撃するつもりである。しかも簡単な鎧すら纏わず、その服はゲルマニア軍の標準的な黒い軍服だけだ。


「ば、幕僚長殿、大丈夫ですよね……?」

「何を間抜けなことを聞いている。案ずるな」

「は、はい……」

「私が前線を切り開く。お前たちはその後、敵を完全に制圧せよ。では行くぞ!」

「はっ!」


 オーレンドルフ幕僚長は扉を蹴破り、民家の中に突入した。思った通り、すぐに数本の矢が幕僚長を精確に狙って飛来した。常人ならば為す術もなく貫かれ、戦闘不能になるか命を落とすことだろう。


 だが彼女はその為に来たのではない。


「甘いっ!」


 ある矢は素早い身のこなしで回避し、回避しきれない矢は剣で叩き落した。一瞬の出来事で、何があったか理解出来た者は稀であった。


 これは強い魔法だけでなく、日々の厳しい鍛錬がなければなしえない戦い方だ。彼女に弩は効かない。


「おお…………」


 後ろで見ていた兵下達が感嘆の声を漏らす。幕僚長は敵の射撃をものともせず、廊下を突き進んでいく。


「クソッ! 何なんだ貴様っ!!」

「ただの兵士だ」

「ぐっ……!」


 オーレンドルフ幕僚長の剣は魔導兵を斬り裂いた。残る魔導兵たちは魔導剣を抜き、白兵戦を仕掛けようとする。


「ふん、女に対して4人で当たらないと勝てんとはな。軟弱者め」


 幕僚長は芝居がかった様子で魔導兵達を煽った。


「魔女に男女がないことは、我らが最もよく知っている! かかれ!」

「ふん」


 だがオーレンドルフ幕僚長は彼らを相手にせず、後ろの部屋にするりと入った。


「んなっ……。っ!!」


 兵士が拍子抜けしていると、次の瞬間、彼らの魔導装甲は数十の弾丸によって破壊された。オーレンドルフ幕僚長に夢中で後ろに控えるゲルマニア兵を忘れていたのだ。


 身を晒した彼らに生存の機会は残されていなかった。かくして正面玄関は敵の殲滅という形で制圧された。


「敵兵は全滅しました……」

「よろしい。では、このまま一気に建物を制圧するぞ!」

「はっ!」


 幕僚長の率いる小隊は家屋の奥へ奥へと攻め込み、たちまちに弩砲を無力化することに成功した。


 だが地下には魔導兵はいなかった。そこにいたのは魔導装甲も纏わぬ怯えた数人の男女だけであった。オーレンドルフ幕僚長は武骨なダキア語で問いかける。


「お前達は何故ここにいるのだ。魔法も使えないお前たちが」

「わ、我々は兵士では……いや、そうかもしれないのだが……」

「なるほど。この戦いに際して動員された市民か」

「あ、ああ、そうだ」

「本気でやるとはな……。彼らもまた追い詰められているか」


 ピョートル大公は全てのオブラン・オシュ市民が兵士であると宣言したが、それは虚勢ではなかった。本当に市民を最前線に立たせていたのである。


「彼らは捕虜として丁重に扱ってやれ。私は師団長殿と同様、無用な死は好まない」

「はっ」


 軍人であると示すものがない彼らに捕虜となる資格はなく、ただの犯罪者として殺されても文句は言えないのだが、オーレンドルフ幕僚長は彼らを寛大に扱うと決めた。シグルズもそれには賛同してくれるだろう。


 このような虱潰しを繰り返し、第88師団は着実に前進するのであった。


 ○


 ACU2312 10/12 オブラン・オシュ ピョートル大公の本営


「殿下、この戦いが始まり丸一日ですが……既に多大な損害が出ております……」

「具体的に言ってくれ」

「はい。魔導兵は既に500が失われ、市民には2,000人以上の損害が出ております」

「そうか。報告ありがとう」

「はっ……」


 ピョートル大公の作戦では弩砲などを担当する兵士は死ぬことが前提である。損害を前提とした戦術であり、ピョートル大公はその事実を確認することになっただけだ。


「殿下、まだ戦われますか……?」

「何? 我々にはまだまだ9,500の魔導兵と数十万の民がいるではないか。我々はまだ戦える。違うか?」

「…………はっ」


 無駄な抵抗であるとしか、ピョートル大公以外の全ての人間は思えなかった。だが意外なことに、この抵抗は無駄ではなかった。


 ○


 ACU2312 10/12 オブラン・オシュ近郊 ゲルマニア軍前線司令部


「閣下、我が軍の損害は甚大となりつつあります」


 東部方面軍総司令官相手でも、第18師団のオステルマン師団長は物怖じせずに言上する。


「報告は受けている。君達だけでなく、ほとんどの師団が大きな損害を出しているのだ。全体の損害はもう5千を超えている」

「たったの1日で5千とは……」

「ああ。これ以上の戦闘継続は厳しいかもしれん」

「では、攻略を諦めると?」

「いいや、それはダメだ。何としてでもダキアは滅ぼさなければならない。やり方を変えようというだけだ」


 今の戦い方のままではゲルマニア軍は息切れしてしまうだろう。何か手を打たないといけなければならない。


「なるほど。では攻勢を一時停止することとしましょうか」

「まずはそうしよう。全軍に現在の前線を維持するように命じる」

「そうそう、シグルズの第88師団だけが突出しているようですが、これはどうします?」

「そうだな……まあそのままでいいだろう。シグルズ君なら突出部でも維持してくれるだろうからな」

「でしょうね」


 ともかく、進軍は一時的に停止されることとなった。

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