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オブラン・オシュ開戦

 ACU2312 10/11 ダキア大公国 オブラン・オシュ


 20個師団、30万のゲルマニア軍はオブラン・オシュを完全に包囲した。流石に全ての師団に戦車を揃えることは叶わなかったが、敵の抵抗を粉砕するだけならば10個機甲師団もあれば十分だとローゼンベルク司令官は高を括っている。


 ゲルマニア軍はまず降伏を呼び掛けたが、当然、ピョートル大公が受け入れる筈もなかった。


「司令官閣下、ダキア軍からこのような通信が」

「見せてくれ」

「はっ」


 通信内容を纏めた報告書には、ダキア軍が公式に全ての市民を兵士とし、最後の一兵となるまで抵抗を続けるつもりだとあった。


「これを本当に向こうが宣言したのか?」

「はい。ピョートル大公は、市民共々玉砕するつもりのようです」

「自分からそんなことをするとは……。奴は狂っているのか――いや、狂っているのは我々も同じか」


 ローゼンベルク司令官は乾ききった笑い事を零す。こんな戦争、関わっている人間は全員狂っている。


「それで……どうされますか?」

「我々に選択肢はない。即刻、総攻撃を開始せよ。イジャスラヴリでしたように何でも吹き飛ばして構わんと、総員に伝えてくれ」

「はっ……」


 今回は敵の方から市内に残る人間は全て戦闘員だと宣言してくれたのだ。ゲルマニア軍は心置きなくオブラン・オシュを焼け野原にすることが出来る。


 ○


「砲兵隊、撃ち方始め!」


 シグルズの第18師団は早速、第一陣として市内へと突入を開始した。まずは前方に点々と存在する民家を吹き飛ばすところからである。


「着弾……命中! 魔導反応は消失、目標を完全に破壊しました!」

「よし。敵を掃討しながら前進だ」


 魔導反応の確認出来た建物を粉砕しながら機甲部隊は前進していく。一見順調と見える戦況だが、シグルズは違和感を感じていた。


「師団長殿、あまり気分の優れない顔をしているが、どうしたのだ?」

「あ、ああ。ここまで敵の魔導反応は完全に消失している。砲撃だけで敵兵を一人残らず殺せる筈がないのに、だ」

「なるほど。確かに違和感はある」


 榴弾の直撃を受ければ魔導兵とて即死する。だがある程度の破片くらいなら魔導装甲で防ぐことは可能だ。よって、砲撃だけで建物に籠る兵士を一人残らず殺せる筈がない。


 だが現実として、砲撃を行った時点で魔導反応は消滅し、敵が反撃してくることもない。


「シグルズ様、どういうことです?」

「そうだね……考えられるとしたら――」

「敵が我々を奥へと誘い来んでいる、とかな」

「その公算は大きいだろうな」

「ほ、ほう……」


 ダキア軍は恐らく壮大な演技をしている。拠点を砲撃されて守備隊が全滅するという演技だ。であれば、その目的は何か。


 考えられる中で最も可能性が大きいのは、ゲルマニア軍を油断させてオブラン・オシュの中心部へと誘い込むことだろう。より民家の密集した中心部へ、だ。


 ダキア軍の気持ちになってみれば、都市の中心部で戦った方が確かに有利だ。


「――な、なるほど。だとしたら……どうするんです?」

「まあ、どの道最終的にはオブラン・オシュのど真ん中まで攻め込まないといけないからね。最大限の警戒をしながら攻め込むしかないかな」

「そ、そうですね……」


 中心部へと攻め込むこと自体は既定路線である。であれば、出来ることと言えば、誘いに乗って油断しないことくらいだ。全軍に一応は警戒を促し、シグルズは一直線に兵を進めた。


 半日ほどで件の都市部へと第18師団は突入する。分かってはいたことだが、ダキア軍が降伏を申し出てくることはなかった。


「前方に魔導反応です。確かにかなり多いですね……」

「やっぱりか……念には念を入れよう。砲兵隊、正面の建物を薙ぎ払え!」

「――はっ!」


 敵に攻撃の機会は与えない。砲兵隊は視界に入る建物を片っ端から砲撃し粉砕、戦車を装甲車がその瓦礫の中に突入する。


 だが、その時だった。


「シグルズ様! 第7号車、大破炎上しました!」

「何!?」


 大急ぎで装甲車から飛び出すと、確かにその戦車が炎上していた。近くに敵兵はおらず、白兵戦で破壊されたのではない。


「……弩砲か。ヴェロニカ、位置は特定出来る?」

「は、はい! 3時の方向に大きな魔導反応を確認しました!」

「戦車隊、その辺りに向かって全力で砲撃!」

「は、はいっ!」


 大体の方向は分かった。戦車隊はその辺りに榴弾をばら撒く。瓦礫が雪のように舞い、砂塵が視界を覆いつくす。幸いにして、この攻撃で敵は沈黙した。


「し、シグルズ様……」

「ヴェロニカ、攻撃より前に反応はなかった?」

「はい。ありませんでした」

「厄介だな……攻撃されるまで反応を探知出来ないか……」


 魔導弩砲が厄介なのは、一撃で十分な威力を持っている為に、その一撃より前に探知出来ないことだ。事前に攻撃を察知するのは不可能である。


「ですが……あの辺りは完全に吹き飛ばしていた筈では? どうして弩砲が……」

「恐らく、事前に地下に弩砲を仕込んでおいたんだろう。上の建物を破壊されても問題ないようにね」

「そうだな……。都市をまるごと要塞化するとは、これはなかなか、敵も賢い」


 敵はどうやら戦術的には正気を保っているらしい。これは問題だ。

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