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ダキアの崩壊

 ACU2312 9/27 キーイ大公国 イジャスラヴリ


「クッ……イジャスラヴリ伯の遺臣を殺せなかったか……」

「公爵様……そのようなことはもう……」


 お止め下さいとエカチェリーナ隊長は訴える。エカチェリーナ隊長に言えたことではないが、味方を積極的に殺害するなど正気の沙汰ではない。


「……ゲルマニア軍と事を構える訳にはいかない。我々はこのまま撤退する。オブラン・オシュまで可能な限り早く帰還せよ」

「はい。一刻も早くオブラン・オシュを要塞化しなくてはなりません」

「そうだな。最後の決戦の、準備を……」


 イジャスラヴリは落ちた。最後の砦はオブラン・オシュ。そこを落とされた日がダキア大公国が亡びる日になるだろう。その為にも、アレクセイは全力で部隊を撤退させるのであった。


 だが、ゲルマニア軍の攻撃は別の形で彼らの背後を突くこととなる。


 ○


 ACU2312 9/28 ダキア大公国 モノマフ近郊


「……やはりか。イジャスラヴリ伯の遺臣団が証言を……」

「隠し通すのは……最早不可能です」


 ゲルマニア軍に曰く、イジャスラヴリ伯爵の死について調査を行った結果ダキア軍の親衛隊が彼を殺害したことが判明した、らしい。どうせ初めから知っていただろうに。


 しかしイジャスラヴリ伯の遺臣は本当に親衛隊に恨みを持っており、ゲルマニア軍に本気で協力している。彼らの言葉は重たく、多くの諸侯がその言葉に耳を傾けるであろうことは想像に難くない。


「アレクセイ様、これは……」

「我々に出来ることは、ただ戦うことだけだ」

「……ええ」

「っと、モノマフの門が閉まっているようだが、どうした?」


 イジャスラヴリとオブラン・オシュの中間にある中規模な都市、モノマフ。都市としては大きくないが、街道を守る堅固な城壁に囲まれた砦であり、親衛隊にとっての休息地でもある。


 事前にここを親衛隊が通ることを伝えてあるから、もうとっくに門が開けられていてもおかしくはないのだが、モノマフは親衛隊を頑なに拒んでいる。


「で、殿下……城内の間者より報告です。モノマフ伯爵、謀反とのこと……」


 通信士は青ざめた顔でアレクセイに報告してきた。親衛隊が事前に城内に忍び込ませてあった間諜からの報告である。


「何? 何故だ? まさか裏切ったとでも?」

「……その通りかと。イジャスラヴリ伯を殺した連中を受け入れることは出来ないと、彼は言っているようです」


 懸念していたことが、しかも最悪の形で起こった。アレクセイは呆然と暫く言葉を失ったが、すぐに怒りにわなわなと震えだす。


「馬鹿な! 私が直接話をつける! 通信機を寄越せ!」

「は、はい!」


 アレクセイは通信士から魔導通信機をひったくると、向こう側の通信士にも伯爵を出すように怒鳴りつけ、直接の会話が実現した。


「モノマフ伯爵、これはどういうことか! 説明してもらおうか」

『もうあなた様ならご存じでしょう。我らは最早、味方を殺してまで戦争を継続しようとするピョートル大公には付いていけませぬ。その先鋒である、あなた方親衛隊にも』

「大公殿下より受けた御恩を忘れるか!」

『私はモノマフ伯。大公国より、この地の民と土地を守らねばなりませぬ。それは殿下への奉公より重大なことです』


 感情的になっているアレクセイと、あくまで理性的に対応するモノマフ伯爵。交渉の勢いがどちらにあるかは言うまでもない。アレクセイは彼に譲る気が全くないと悟った。


「……伯爵、お前もキーイ大公国とやらに臣従するつもりか」

『はい。今はそれが、我々にとって最もよき道です』

「……分かった。貴殿の意志は固いようだ。我々はモノマフを避けて通る。邪魔はしないでくれ」


 アレクセイはモノマフを迂回することに決めた。だが周囲で話を聞いていた諸将は納得出来ないらしい。


「恐れながらアレクセイ様! 既に戦闘部隊を忍ばせているのです! 伯爵を暗殺するべきです!」


 各地の忍ばせた部隊の目的は監視だけではない。反乱を起こそうとする者があれば直ちに消すこともまた、主要な任務である。だがアレクセイはその命令を下す気にはなれなかった。


「もういい……もういいんだ。同胞同士で殺し合うくらいなら、モノマフなどゲルマニアにくれてやる」


 力なく呟く。アレクセイからはすっかり覇気が抜け落ちていた。


「し、しかし……モノマフはオブラン・オシュの玄関口です。国家の城門を明け渡すようなものですよ!」

「仮にモノマフをダキアに留めたとて、ゲルマニア軍相手には数日と持たないだろう。その為に同胞を殺すなど、私には出来ない。……分かったな?」

「……はい」


 結局、親衛隊はモノマフを諦め、とぼとぼとオブラン・オシュに帰った。更にはこのことに衝撃を受けたのか、親衛隊からも多くの者が脱走を図り、キーイ大公国に付くと表明した。


 親衛隊はほとんど何の成果も得られないまま半数の魔導兵を失い、オブラン・オシュに無事に帰り着いたのは1万だけだった。


 そして親衛隊が崩壊したように、ダキア大公国も音を立てて崩れていくのだった。

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