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イジャスラヴリ包囲戦Ⅱ

 ゲルマニア軍はまずイジャスラヴリを包囲することとした。イジャスラヴリを完全に囲むように兵を展開し、敵の反撃に備え塹壕を掘りめぐらし、機関銃を設置し、戦車を並べた。


 とは言え、敵の士気や食糧が尽き果てるまで包囲を続けているような暇はない。オステルマン軍団長は早速師団長達を集めて軍議を開いた。


「閣下、ダキアが降伏するまで、待てるとしても3日程度なものでしょう。それが過ぎれば総攻撃を仕掛けざるを得ません」

「そうだな、ハインリヒ。だが、総攻撃を仕掛けて落としきれるとは限らない訳だが、さて諸君、どうしようか」

「であれば、僕に策があります」


 シグルズは手を挙げた。


「おお、シグルズ。どんな策だ?」

「市街戦において厄介なのは無数に存在する建物からの攻撃です。なので、これらを砲撃で吹き飛ばせばいいかと」

「なるほど。いいんじゃないか?」

「お、お待ちください、閣下。砲撃で民間人の家を狙えば、流石に言い逃れは出来ませんし、我が軍の士気にも関わります」


 ヴェッセル幕僚長は珍しく焦っているようだ。確かに、空襲ならまだしも砲撃でやむを得ない巻き添えと強弁することは難しいし、市民を積極的に殺害する行為には砲兵隊に士気も下がるだろう。


 という訳でシグルズの策をこのまま実行するのは難しい。


「シグルズ、これについて何か案は?」

「ではこうしましょう。包囲を行いつつ、非戦闘員を退避させればよいのです。そうすれば市内に残った人間は全てダキア兵ということになりますから」

「市民全員を避難させるってことか?」

「はい。まあ実際は無理でしょうが、兵の気持ちは幾分か楽になります。大義名分の上でも問題はなくなるでしょう」

「なるほどな。いいだろう。それでいこう」


 オステルマン軍団長はあっさりと作戦を決定した。


 ○


 ACU2312 9/24 イジャスラヴリ市内


「爆撃機か……私達は、あれを……」


 飛行魔導士隊のエカチェリーナ隊長は悔しそうに俯いた。ゲルマニア軍に完全に包囲されたイジャスラヴリに、またもや爆撃機が迫っていた。飛行魔導士隊にそれを迎撃するような余力はなかった。


「隊長……」

「すぐに空襲警報を。飛行魔導士隊は市民をいつでも救助出来るように配置を整えるのよ」

「はいっ!」


 いつも通りに消火と避難の準備に取り掛かる飛行魔導士隊。だが、爆弾が降ってくることはなかった。


「あれ、通り過ぎて行きましたね」

「え、ええ。これは一体……ん? あれは?」

「あれは……薄い布のようなものが落ちてきていますね」


 空を見上げると、無数の白い布のような何かが、空をゆらゆらと揺れながら、ゆっくりと落下してきていた。地上に落下してきたそれを手に取るとそれは紙であり、ダキア語でとある文章が印字されていた。


「これより2日の後、我が軍は総攻撃を行う。それまでに非戦闘員はイジャスラヴリから避難せよ。ゲルマニア軍は避難民を無事に周辺諸都市まで送り届ける。2日を過ぎた後に市内に残る者は、全てダキア軍人とみなす……ねえ」

「これはつまり、どういうことです?」

「市民を避難させた後、徹底的に攻撃をしたいようね。民間人がいないとなれば、ゲルマニア軍はイジャスラヴリを徹底的に破壊するでしょう……」


 ゲルマニア軍がしたいことは明白だった。


「で、では、どうするのですか? 市民は逃がしますか?」

「それはホルムガルド公が決めること。私達の出る幕ではないわ」

「は、はい……」


 飛行魔導士隊にどうこうする権限はない。エカチェリーナ隊長はアレクセイの籠る地下壕に飛んだ。そこには既に諸将が集まり対応を協議していた。


「――おお、エカチェリーナ隊長、来てくれたか」

「これが仕事ですから。それで公爵様、どのように対応するべきとお考えですか?」


 そう聞くと、途端にアレクセイは表情を曇らせた。


「……どうされましたか?」

「我々は……市民の脱出を許可しないことと決めた」

「は……? 何故ですか? ゲルマニア軍があらゆる手段を以てしてこの都市を攻撃しようとしていることは明らかです。このままでは十万以上の市民が巻き添えとなるのは避けられません」

「……だからこそ、だ。ここに市民が残っていれば、ゲルマニア軍は地道に街道を制圧するしかなくなる。時間を、稼げる」

「無辜の民を兵士の盾とするおつもりですか?」

「人間の盾、か。ああ。そうなじられても仕方はない。この都市が落ちればダキアは恐らく崩れる。それだけは何としても避けねばならないんだ」


 イジャスラヴリ市民を犠牲にしても守らなければならないものがある。アレクセイはそう言って自分を正当化するしか出来なかった。


「……大公殿下のお許しは得ているのですか?」

「ああ、得ている。非常に苦しい決断を強いてしまったが、大公殿下は理解を示して下さった。イジャスラヴリがゲルマニアの手に落ちるくらいなら、と」

「……分かりました。殿下がそう仰ったのなら、従いましょう。……後悔なさらないように」

「分かっている。これは全て私の責任。罪は地獄で贖うつもりだ」


 ダキア軍もなりふり構ってはいられない。ダキア軍は何としてもイジャスラヴリを守るつもりだ。

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