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イジャスラヴリ包囲戦、の前に

 ACU2312 9/20 崇高なるメフメト家の国家 無憂朝トリツ 対大八洲国境地帯


 大八洲との国境の近く、荒涼とした大地に、光り輝く甲冑と天を衝く長槍を持った1万の兵士が整然と並んでいる。彼らの後ろには通常の鎧と剣を装備した魔導兵が3万、魔法を持たない通常兵が40万は控える。


 槍兵の名はファランクス。大量の長槍兵を整然と並べることで敵を粉砕する、古代より伝わる伝統的な陣形である。他国では廃れて久しいファランクスだが、ガラティア帝国ではまだまだ現役であった。


 そのファランクスの前に、兵士とさして変わらない鎧を着るも大王の気品を纏っている男が立った。ガラティアのシャーハン・シャー、アリスカンダルである。


 宮殿で見せるぼんやりとした様子はどこにもなく、万軍の主とは彼であると万人が認めるべき凛々しい姿がそこにあった。


「諸君! 我らはこれより、信義に悖る大八洲の逆賊、長尾右大將曉を討伐すべく、彼の地に攻め入る! 正義は我らにあり、我らに弓引く者は尽く悪である!」


 皮肉にも彼の天敵である晴虎と全く同じような大義を掲げ、アリスカンダルは戦争に踏み込もうとしていた。


「我が精鋭ファランクスの諸君! 諸君は我らに抗う愚か者を粉砕する槍である! 諸君の奮戦に期待する!」

「「「おう!!!」」」


 事前の仕込みが大いにある演説だが、兵士達の士気は高い。鬨の声は国境を越えて響き渡った。


「――進め! 逆賊の首に刎ねよ!」

「「「「おう!!!!」」」」


 この日、イブラーヒーム内務卿の想定通り1ヶ月で準備を整えたガラティア軍、総計45万は、大八洲への攻撃を開始した。


 〇


 ACU2312 9/20 大八洲皇國 潮仙半嶋


「御館様、よくぞ、ご無事で……」


 山本菅助はやっと帰還した武田樂浪守信晴に頭を垂れた。諸将もそれに倣い、次々に信晴の前に深々と頭を下げる。


 ――うわ、怖……


 それを少々引きながら眺めている、顔を白い布で覆っている少女。ガラティアから送り込まれた不死隊を率いるジハード・ビント・アーイシャ・アル=パルミリーである。


「え、えー、武田殿、ご無事なお帰りを心よりお祝い申し上げます」

「外つ国人からの言葉はありがたい」

「はっ。それで、申し上げたきことが」

「ふむ?」

「我が君、アリスカンダル・イブン・ラーディン陛下は、つい先刻、曉に宣戦を布告しました」

「おお……」「ついにガラティアが動くか……」


 諸将はざわめく。その真意は人によってバラバラであったが。


「儂がここに戻るのに合わせて下さったか」

「はい。同じ日に東と西から攻め込まれるのです。曉も迎え撃つのは難しいでしょう」

「うむ。我ら盟友として、共に戦わん」

「はっ」


 一応、武田とガラティアは味方だ。謀反人曉という共通の敵を抱えている。だがそれを討伐した後にどうなるのかは、語る必要もないだろう。


 ガラティアと大八州は根本的に敵同士。いずれは反目し合うことになる。そもそも今だって、アリスカンダルは武田家が上杉家の主力を東北に引き付けている間に唐土の領地を掠め取ろうとしているのだ。


 まあそんなことに言い及ぶ者はいないが。


「うむ。これより我らは、逆賊曉の居座る平明京を目指し、西へ上る。山形、髙坂、内藤、馬場、甘利、板垣。そなたらは儂に続け」

「はっ!」


 いずれも武田家の重臣である。この武将達だけでおよそ二万の兵を動員することが可能だ。武田家の総兵力の七割程である。


「また、眞田は三千の兵を率い、燕の國を押さえに参れ」

「ははっ」

「菅助も引き続き、眞田に与力として付ける。存分に力を示すがいい」

「ありがたき幸せにございまする」


 地球で言うと満州の辺りにある燕の国。つい二週間ほど前までは唐土連合軍の主力をなしていたが、先の敗戦で組織的な戦闘能力を失っていた。三千の兵だけで十分なのである。


 眞田の軍勢が燕を制圧しつつ、信晴の率いる本隊が平明京に攻め込むのである。


「で、我らはいかがすればいいですか?」


 ジハードは信晴に問う。彼女らは一応大八州への援軍として派遣されて来た。その指揮権は信晴に移譲されている。


「ジハード殿には、我ら本隊に同行してもらいたい。我らに騎馬隊は多いが、飛鳥衆には恵まれておらぬのでな」

「分かりました。我らは空を押さえましょう」

「それは頼もしい。頼んだぞ」

「はっ」


 不死隊は本隊と共に平明京へ向かう。岩田城で壊滅した燕の国にはもう援軍は必要ない。それは周辺の唐土諸侯も同じである。


 武田軍による曉討伐作戦、西上作戦は今、開始された。


 ○


 同日、平明京にて。


「はは、ははは……ガラティアが出て来るとはね……」


 当の曉は両軍の宣戦布告を聞いて、死んだ魚のような目で乾いた笑い声を出すしか出来なかった。


「曉様、我々にもヴェステンラントというお味方がおります。まずはガラティア相手には時を稼ぎ、その間に武田を降すが上策かと」

「あなたはいつも落ち着いているわね」

「焦ることに何の意味がありましょう」

「…………そうね」


 先の戦闘で上杉家の戦力は全く損害を受けておらず、依然として大八州で最大の兵力を擁している。戦略的な挟撃を受けて大混乱に陥ってはいるが、決して圧倒的な戦力差がある訳ではなかった。

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