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イジャスラヴリの後処理

 ACU2312 9/15 ダキア大公国 オブラン・オシュ


「イジャスラヴリ伯が……? どうして殺してしまったのだ! 生きて捕えればそれで十分だったのに……」

「殿下……」

「クッ……だが、私が言ったことか……」


 確かにピョートル大公は裏切り者を尽く誅殺せよと命じた。


「それは……ええ。しかし殿下がイジャスラヴリ伯を殺さぬようにお命じになったのもまた事実です」

「そうだな……。それで、どうして殺す羽目になったのだ?」

「イジャスラヴリ伯がエカチェリーナ隊長を攻撃しようとした為、やむなく射殺したとのことです」

「足を撃て……とは無理な話か」

「ええ……」


 自分の生死がかかっている状況で相手の生死など気にしてはいられない。その程度のことはピョートル大公も分かっている。だからエカチェリーナ隊長を罰することはない。


「どうやら、そもそも飛行魔導師隊を送り込んだことが誤りだったようです」

「……そうかもな。彼女らは特別に過ぎる」


 魔女というのはただの人間にとっては恐怖の対象だ。味方にいるならまだしも、敵に回るとなれば平静を保ってはいられない。


 一刻でも早く事実を確かめたいと飛行魔導師隊を送ったせいで、イジャスラヴリ伯が切羽詰まって銃を取ってしまった、とも考えられる。


「であれば、これは私の失態です」

「ホルムガルド公、こう言うのはなんだが、気にするな。元はと言えば私の命令だしな」

「……はっ。しかし殿下、こうなってしまった以上、対応を可能な限り早く決めねばなりません。伯爵が死んだと今は隠しておりますが、知れ渡るのは時間の問題かと」

「そうだな。しかし、飛行魔導師隊が伯爵を殺したと知れれば、諸侯はどうなるか……」

「我々に恐れをなして離反するでしょうね……。それに、これをゲルマニアに利用される可能性もあります」

「そうだな……」


 ゲルマニアに情報が漏れるのもまた時間の問題だろう。この事実を喧伝されればダキアは瓦解しかねない。早急に手を打っておく必要がある。


「ではこうしよう。我々から先手を打って、伯爵は都市再建の指示を行っていた際に不慮の事故により死亡したと、諸侯に知らせよ」

「よい策です」

「一秒でも時間が惜しい。これは今すぐに実行に移したいが、皆、よいか?」


 反対する者はいなかった。


「よし。では通信士諸君、直ちにこのことを諸侯に伝えてくれ」

「はっ!」


 このピョートル大公の采配により、ゲルマニアの策は一つ潰れ、ダキアが直ちに瓦解するという事態は防げた訳だ。ゲルマニア軍の発表よりピョートル大公の発表の方を諸侯は信じるだろう。


 もっとも、ゲルマニア軍にとってはそれはあまり重要ではないのだが。


「では次に、イジャスラヴリを誰がどう統治するか、早急に決めねばなりません」

「ああ。問題はまず誰が伯爵の位を継ぐかだな」

「はい。血統の上では相応しい人間はいるのですが……いずれも若過ぎるか経験が浅く、この戦時下で最前線の都市を任せられるかと言われると……」

「つまりロクの人材がいないということか」

「ま、まあ……その通りです、殿下」


 ゲルマニア軍が侵攻してくるかも知れないという時に、兵の指揮をしたこともない人間を一都市の司令官にするというのは、あまりにも無理な話だ。


「であれば、この際は血統をかなぐり捨てるしかないだろう」


 ダキアの秩序を破壊しかねない危険な行為だ。だがこの戦争に勝つ為なら何でもしてくれようと、ピョートル大公は決意した。貴族が残り国が滅びては本末転倒である。


「殿下……本気ですか?」

「本気だ。私はやるぞ」

「……となれば、誰をイジャスラヴリ伯に封じるおつもりで?」

「それは君だ、ホルムガルド公」

「は? わ、私ですか?」

「ああ。公爵の君ならば伯爵を兼ねてもいいだろう。だがそれ以上に、君には親衛隊を率い、最前線の指揮を頼みたい。イジャスラヴリ伯の位はついでのようなものだ」


 ピョートル大公は半分、これがちょうどいい機会だとも思っていた。アレクセイをイジャスラヴリ伯にすることで最前線に立つ理由が生まれる。


 そして親衛隊を中核とする強固な軍団を作り出し、決戦に備えるというのがピョートル大公の戦略だ。


「殿下がそう仰るのなら構いませんが……」

「今は非常事態だ。平和が戻ればイジャスラヴリ伯の位は正統な者に戻す。いいな?」

「無論です。私にはホルムガルドだけで十分過ぎる程ですから」


 ピョートル大公は戦時の一時的な措置ということで、この伯爵家乗っ取りも同然の荒業を捻じ通した。


 と、その時だった。


「申し上げます!」

「何だ?」

「ゲルマニア軍が動き始めました! イジャスラヴリ侵攻を狙っているようです!」

「何!? 早過ぎるぞ……」

「そ、その、まだ出撃した訳ではありませんが……」

「分かっている。だが奴らのことだ。一度決めればすぐさま攻め寄せて来よう。アレクセイ、直ちに親衛隊をイジャスラヴリへ移動させよ。間に合わない場合は一部だけでも構わん」

「はっ! 直ちに」


 どうやら決戦は思っていたのより遥かに早く始まるらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝ったな。幾ら諸侯がピュートル大公の言葉を信じたところで実際にイジャスラヴリ伯を殺害したところを見てしまった現地高官達はそうはいかないでしょうし、代わりの指揮官を用意しようにも今からじゃ間に…
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