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ヴェステンラントの侵攻

 ACU2312 8/30 黑尊國 日出嶋


「ははは、まさかここにまた来るとはね」


 黄公ドロシアは乾いた笑い声で笑う。ヴェステンラント軍の目前には守るべき兵士の消えた漆黒の城、黑鷺城が聳えていた。城内、城外にはまだ血が残っており、ドロシアが掘った即席の塹壕も大手門の前に残っている。


 まるで戦場からいきなり人だけが消えたというような状況だ。まあ実際、大八州軍は晴虎が討たれたとの報を受けあっという間に撤退したのだが。


「ドロシア……あまり無茶なことはしないでくださいよ」


 青公オリヴィアは予め釘を刺しておいた。ドロシアがこの黒人の国を支配して、放っておいたら何をしてかすか、考えたくもない。


「……分かってるわよ。私達は『解放軍』なんだからね」

「ええ。お願いしますよ」


 先に侵略したのはヴェステンラント軍のくせに、撃退された後に植民地の奪還を図るのを解放と称する。虚構に塗れた大義名分だが、まあ大義名分なんてそんなものである。


「さて、では城に入ろうか」


 陽公シモンは言った。


「ええ。そうしましょう」

「は、はい」


 ヴェステンラント軍10万は都に入城した。現地人による抵抗はなく、黑鷺城はあっさりとヴェステンラント軍を受け入れた。


「静かですね……」

「逃げたんじゃないの? 知らないけど」


 人口たった500万の黑尊國とは言え、都には10万以上の人が集まっている筈。にも拘わらず、都で出歩いている人間はいないに等しく、まるで廃墟のように都は静まり返っていた。


「いや、違うな」

「何よ?」

「見ろ、煙が上がっている。人はいるが、家の中に引き籠っているだけだろう」

「どうして引き籠ってるのよ」

「……考えれば分かるだろう」

「チッ」


 下手に関わったら殺されるというのはもう庶民でも知っていること。誰もヴェステンラント軍と接触しようとはしないだろう。


「まあいいわ。奴隷は小屋の中に引き籠っていればいい」

「……そうか」


 経済的な利益などドロシアは大して興味がなかった。寧ろ白人を恐れて隠れているのはいい気味だと思えた。


 さて、市中の様子には興味はなく、一行は黑鷺城の天守へと向かった。この城を東亞侵攻の司令部とするのである。兵士達は次々に魔導通信機などの設備を持ち込み、たちまちに白人の為の城に生まれ変わった。


「さて、元からヴェステンラントの同盟国のマジャパイトまではいいとして、その先はどうしようかしら」


 3人の大公と諸将が集められ、早速軍議が開かれた。取り敢えずヴェステンラントに救援を求め続けているマジャパイト王国までは攻め込むとして、その先はどうするかという問題である。


 その北西には大越國インドシナがあり、北東には邁生群嶋がある。前者は大八洲の同盟国であり、後者は大八洲の本土である。


「大八洲の曉は、自分に従わない大名を朝敵として討伐してくれと依頼して来ています。それに従って、邁生群嶋に侵攻するのがいいのではないでしょうか?」


 オリヴィアは弱々しい声でなかなか過激なことを言う。


「そうね……まあ、このまま曉が大八洲の支配者となったら意味ないし、こっちから干渉すべきかもね」

「は、はい。大越國なんて、あってもなくても変わりませんよ」


 曉は盟友になるなどと言ったが、信用は出来ない。と言うか、大八洲の支配を固めれば平然と敵対してくるだろう。


 であれば、大八洲本土が非常に手薄なこの隙にその領地を掠め取り、既成事実にしてしまって大八洲を牽制出来るようにすべきだ。


「しかし、邁生群嶋の大名は曉に付いていないのか? もし付いていれば、攻め込むことは出来んぞ」


 シモンは言う。当然のことだが、攻め込んでいいのは曉に敵対する大名だけでたる。邁生群嶋の大友、甘粕が曉に付いていれば、そこで侵攻は止められる。


 曉を敵に回せば大八洲は反ヴェステンラントで再び団結し、結局は何も出来ないだろう。


「誰か、分かる者は?」

「あー、それなら、大友家はつい昨日、曉を討伐すると声明を出したわ。甘粕は未だに何も」


 ドロシアは、と言うより黄の国は、長年大八洲方面の外交、軍事を担当してきた。大八洲特有の政治体制にもそれなりの知識はある。


「なるほど。しかし大友は北部の大名だろう? 南の甘粕はどうする?」

「何も言わないんだったら敵に決まってるじゃない。味方以外は全て敵よ」

「そうか……まあ、それもよいか。どっちつかずの外交をする方が悪いのだ」


 シモンは冷淡であった。どっちつかずと言うのは甘粕の無能故であり、そんな者を敢えて生かしておく価値はないと、彼は考える。


「あなたにしては言うじゃない」

「私は別に聖人ではない。嫌いな者は嫌いだ」

「そう。まあ曉に味方していない限りは問題ないか」

「うむ。いずれにせよ橋頭堡は確保出来るだろう。それと、そろそろこちらから兵力をゲルマニア戦線に移した方がよいと思うが」

「そうね。今は総兵力で十万もいれは十分。あなたは東部戦線に行ってもいいかも」

「近いうちにそうさせてもらおう」


 既に陽の国の軍隊は必要ではなくなっている。ゲルマニア方面へその兵力が再配置されるのも時間の問題だろう。

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