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グローノフ大空襲Ⅱ

「ふっ」


 ニナが僅かに口角を上げた。そして次の瞬間、シグルズの首元で凄まじい斬撃の音が響いた。


 シグルズの首の横には首を刎ねる気満々の剥き出しの刀身。それを受け止めるように立つ刀身が彼の首の後ろにあり、それらは火花を立てる程に激しくぶつかり合っていた。


 相手の首元に刃を生成し目にも止まらぬ速さで斬りつけ、抵抗する隙すら与えずに瞬殺するニナの魔法。シグルズはそれを看破し、すんでのところで生き延びたのだ。


「ほう? 余の魔法の的になって生き残る人間など久しぶりに見たぞ」


 ニナは興味深そうに言った。彼女にとってこれは死闘などではなく、遊びの一つに過ぎなかった。


「前情報は聞いていたんだ。それで、大体こういうことをしてくるだろうと予想は出来た」

「なるほど。ではどうする? いかにして余を殺してくれるのだ?」

「別に殺す必要はない。グローノフへ向かった爆撃機が帰投するまで時間を稼げばいいだけだ」


 爆撃機が撃墜されるのは本当にマズい。それはダキア人に、爆撃機にも対抗出来るのだと希望を与えることになるからだ。


 落とされたものはもうどうしようもないが、せめてこれ以上の損害は防がねばならない。


「……チッ、つまらん奴め。なれば、余が貴様を殺してやろう」

「それは断る」

「断れるものならな」


 瞬間、ニナの周りに大量の刃が現れた。しかもそれらは焼きごてのように真っ赤に熱せられている。


 ――これはヤバいっ!


「次こそ死ね」


 ニナは無数の刀身を投げ飛ばしてきた。


 シグルズは危機を察知し、全速力で回避行動に移った。ニナの周りを小鳥のように逃げ回る。だが刃は数が多く、避けきることは出来なかった。


「くっ、壁だ!」


 シグルズは自身の目の前に巨大な壁を生成した。鉄の壁の前に氷の壁がくっついた、二段構えの壁である。


 飛来した刃はまず氷に当たり、凄まじい白煙を上げながら急速に冷却される。そして鉄の壁がそれを受け止めた。相変わらず鉄の装甲に突き刺さる刀というのは訳が分からないが。


 そして飛来する無数の刃を回避し防御していたところ、ニナは飽きたのか攻撃を止めた。


「ここまでして生きているとは、敵ながら天晴れというものだな」

「そ、それはどうも」


 シグルズも呼吸が乱れてきた。だがニナは疲れている様子など微塵もない。世界で最強の魔女を相手にするのは、そう簡単ではないようだ。


 シグルズとニナは再び睨み合う。


「さて、次はどうしてくれるのだ?」

「僕も全力で殺しにかかる」

「ほう?」

「機関銃だ」


 シグルズは2丁の機関銃を生成し、それぞれを片手に持った。二丁機関銃など人間では正気の沙汰ではないが、シグルズになら出来る。


「機関銃なるものか。初めて見たぞ」

「だったら、その威力も教えてあげよう!」


 シグルズは躊躇わず引き金を引いた。毎秒20発を超える小銃弾がニナを襲う。その巨大な反動は全て筋力強化の魔法で相殺した。


 ――効いてる、か?


 銃弾はたちまちニナの体を蜂の巣にした。血は川のように流れ落ち、肉片が飛び散り、やがてニナの左腕がもげて落ちた。


 だがニナの黒い羽は健在であり、そして何より、その顔は笑っていた。


「……そうか。なるほど。これならば、我らの魔導兵をも打ち倒せるのだろう」


 ボロ切れのようになった体も気にせず、ニナは呑気に感想を述べる。


「そ、それで生きてるのか……?」


 心臓を吹き飛ばされて生きている人間なら何例か知っているが、臓器という臓器を破壊されて平然としている人間など見たことがない。


 しかも彼女は苦悶の表情すら浮かべていないのだ。


「貴様、青の魔女シャルロットのことは知らんのか?」

「……噂だけなら聞いたことがある。首を切り落とそうが平然と生きている魔女だと」

「それを見せてやっているのだ」


 ニナがそう言った途端、彼女の体は全く正常な状態に修復された。機関銃など彼女の前では何の意味もないらしい。


「ふざけてる……」

「貴様が消したい魔法とは、このようなものだ」

「何故それを?」


 魔法を消し去ってこの世界をあるべき姿に修正するというのは、シグルズの究極的な目標だ。まあ今のところは戦争に勝つことの方が優先になっているが。


 しかし問題は、それを女王ニナが知っていることである。


「驚いたか? 余は貴様より貴様を知っているのだ」

「そんな馬鹿な。今日が初対面だろう?」

「まあな。だが、貴様のことは前々から気にかけていた」

「……まあいい」


 確かにシグルズはこの世界でも特異な存在であるし、魔法の番人であるヴェステンラントに注目されていてもおかしくはない。


「さて、余をその程度の武器で殺せぬと分かったであろう?」

「残念だが、そのようだ」

「では、貴様に一つ助言をしてやろう」

「助言? いきなり何を――」

「魔法を消し去りたいのならば――正確には百年前に魔法が今のようになったのより前に時を戻したいのならば、4つに分かれたイズーナの心臓の欠片を全て打ち砕くことだ。そしてその内2つがヴェステンラントにある。この意味が分かるか?」

「……ああ」


 それはヴェステンラント本土まで攻め込まねばならないということだ。


「物分かりのいい奴だ」


 ニナは微笑んだ。

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