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グローノフ大空襲

 ACU2312 8/16 ダキア大公国 キーイ


 さて次の大空襲の目標は、ダキアの東南の端、ガラティア帝国との国境に近い大都市グローノフである。


 規模としてはダキアで十五番目ほどの都市であるが、北部のイジャスラヴリと合わせてより多くの諸侯を復興事業に巻き込む為とガラティア帝国へ圧力をかける為、この都市が選ばれた。


 爆撃機は前回と同じく12機体制であり、クリスティーナ所長が全力で生産した焼夷弾を満載している。


「さて、今回も機械的な問題はないね」

「はい。整備は万全を期しています」


 ライラ所長とシグルズは爆撃機の中で最終確認を済ませた。出撃の手際も昔と比べればかなりよくなったものだ。


「よし。じゃあ出撃!」

「はっ!」


 ダキアの本来の首都に滑走路を敷き、爆撃機は飛び立った。


 ○


 そして2時間後、爆撃機はグローノフが視界に入るところまで接近した。


「おっと、今度もまた迎撃が来るようです」

「へー、こんな辺境にもダキアの魔女がいるんだ」

「そのようですね……」


 違和感があった。ピョートル大公がいるオブラン・オシュとその近郊に飛行魔導士隊は集中的に配備されているはず。こんな国の端っこに迎撃部隊がいるものだろうか。


「シグルズ、数は?」

「魔導探知機を見る限りでは、敵の数は50ほどですね……」

「そんなに?」

「確かに妙ですね……」


 飛行魔導士隊など総勢で100人程度しかいないはず。その半分がグローノフに集結しているなど、どう考えても異常だ。


「勘違いじゃないの?」

「それは……ヴェロニカを連れてきた方がよかったですね……」

「そう。まあ爆撃機は二人乗りだから仕方ないんだけどね」


 シグルズが何か間違いを犯している可能性も否定出来ない。実際、魔導探知機の扱いならヴェロニカの方が数段上だ。シグルズがここにいるのは主に部隊の指揮が目的である。


 とは言え、これまでそんなことはなかった。


「下を見ても誰もいませんね……」


 反応を見る限り、多数の魔女がこちらに接近してきている筈だ。にも拘わらず、そのような人影は一切確認出来ない。


「魔導探知機の故障?」

「こんな故障は聞いたことがありませんが……」

「うーん……」


 何もいないのに魔導探知機が反応を示すなどあり得ないことだ。しかし、一体何がどうなっているのか戸惑っていると、答えは向こうからやって来た。


「ねえシグルズ、答えはあれだよ」


 ライラ所長は操縦席のその先を指さした。


「はい? ――っ!」


 その瞬間、シグルズは感じた。強大な魔女が放つ無言の圧力、クロエやヴェロニカが放っているのと同種の波動を。しかもそれは、クロエのそれと比べても強大なものであった。


「あれは……女の子?」


 その力を感じる方を見てみると、そこには黒い外套を纏った少女が飛んでいた。爆撃機と同じ高さに、だ。


「うーん……これはまずいんじゃないかな……」

「……ええ。ここは僕が出ます。ライラ所長はグローノフへ」

「え、出るって――おお」


 シグルズは爆撃機が高速で飛行する中、そのハッチを躊躇なく開けた。瞬間的に凍てつく暴風が吹き込んでくる。ライラ所長は咄嗟に鉄の壁を作り暴風を防いだ。


「ちょ、シグルズ、私じゃなかったら死んでるからね?」

「ライラ所長でしたから開けたんですよ」

「……そう。じゃあ早く――おっと」

「爆撃機が!」


 その時、隣を飛んでいた爆撃機が大きな爆発を起こし、無残に墜落した。焼夷弾に誘爆したのだろう。爆撃機は爆発四散し跡形もなくなった。


「では僕は行きます! ライラ所長はグローノフへ!」

「よろしく」


 シグルズは爆撃機から飛んだ。そして白い翼を広げ、黒い翼で滞空する少女に向かって突っ込んだ。


「これ以上爆撃機を落とされるとまずいんだ」


 シグルズは手の中に、とても人間が持って使うような大きさではない対物狙撃銃を作り出した。22世紀の地球の産物である。


「死ね!」


 狙いを定め、シグルズは引き金を引いた。地球の戦車すらも撃破出来る一撃。食らえばどんな魔女でも吹き飛ぶ。その筈だったが――


「何?」


 少女の胸元からは煙が上がっていた。銃弾は確かに命中したのだ。だが少女は何事もなかったかのように浮いていた。


「クロエみたいな奴か……面倒な……」


 相手は弾丸を止められる魔女らしい。狙撃ではどうにもならないと判断し、シグルズは接近戦を挑もうと全速で前進した。少女もそれを察し、こちらに接近してくる。


「その白い羽、貴様はゲルマニアのシグルズだな?」

「ああ、そうだ。君は誰だ?」

「この姿を見ても分からぬか、痴れ者が。余はヴェステンラントが女王、ニナ・ヴィオレット・イズーナ・ファン・オブスキュリテ・ド・ヴァレシアだ」

「え? あ、ああ、そう、ニナね……って、女王!?」


 情報量が多すぎていまいち処理出来ていないが、その言葉を信じれば彼女は敵国の最高指導者らしい。全く意味が分からないが。


「……本当に? 本当に君が女王だと?」

「こんな高度に平然と飛んでいられる魔女などそうそういないだろうが」

「いや、まあそれもそうか」


 五大二天の魔女に匹敵する能力を持っている魔女など、この世界で十数人しかいない。遥か遠方で戦っている黄の魔女や青の魔女、黒の魔女がここにいる訳もないし、白と赤の魔女の顔は知っている。


 であれば、確かに女王なのかもしれない。


「挨拶も済ませたところで、では死んでもらおうか」

「は?」


 イズーナはシグルズを殺すことに容赦はなかった。

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