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空襲を受けてⅡ

「……カルテンブルンナー全国指導者、本気で言っているのか?」

「ええ、本気です、我が総統。惰弱な指導者と堕落した軍隊しかないガラティアなど、我が軍と比べれば雑魚同然です。これを機にガラティアを殲滅し、その資源を手に入れるべきです」

「それは妄言です、総統。カルテンブルンナー全国指導者もふざけるのは大概にして頂きたい」


 南部方面軍フリック司令官は、珍しく怒りを顕にした。


「おやおや、怖気付いておられるのですか?」

「ガラティアは魔道兵だけでも10万を超える数を擁しています。これはヴェステンラントの大公国一つに等しいものです。それに彼の国は我が国の倍の人口を持っており、その通常兵力は数え切れないほどです。それを既にダキアとヴェステンラントを相手取っている我が国が、相手に出来るとでも?」

「いくら見かけが巨大でも、腐った建物は柱を蹴りつければ全て崩れ去るものではありませんか」

「……楽観視するのも大概にして頂きたい」

「ああ。ガラティアとまで戦争をして勝負になるとは、とても思えない」


 ヒンケル総統は言った。南部方面軍の兵力はたったの30万程度。それで10万の魔道兵と数百万の通常兵力を相手に出来ないことなど、子供でも理解出来ることだ。


「……まあいいでしょう。親衛隊としても、提示出来るほどの証拠は集められておりませんから」

「証拠?」

「いえいえ、お気になさらず」


 カルテンブルンナー全国指導者も決して大言壮語を吐いている訳ではない。彼なりの目算は当然あったのだか、今回は諦めることとした。


「それでは、一先ずはガラティアのことなど気にせず、絨毯爆撃を続行する。それでいいな?」


 結局のところ、様子見というのが結論だ。


 〇


 ACU2312 7/30 ダキア大公国 オブラン・オシュ


「ほう? ガラティアが我らに支援を?」

「はい。我らの臣民に対する支援を、公然と唱えております」


 ホルムガルド公アレクセイは、ピョートル大公に報告した。ガラティアが公式にダキアへの支援を発表したと。


「ふむ……我々に負けて欲しくないというのは本当らしいな」

「はい。どうされますか?」

「無論、受諾しよう。ついでにゲルマニア軍の蛮行を非難する声明でも出しておけ」

「はっ」


 断る理由はない。ピョートル大公はガラティアからの支援を受け入れることにした。


「とは言え、送ってくれるのは食糧だけか」

「流石に人を送るのは、ゲルマニアとの関係を考えれば難しいかと」

「まあないよりは余程よいが……」


 物資があったところで、その輸送や分配に労力を使う。支援があったとしても前線の兵を動かしにくくなることに変わりはない。


 とは言え、食糧不足で詰みに陥るという最悪の事態は回避出来た。


「それにしても、あんな砂漠のどこから20万人分の食糧が出てくるんだ?」

「殿下……確かにあの辺りは砂漠が多いですが、同時に多くの大河があります。その流域は非常に豊かな土地なのです」


 それに、ガラティア帝国の人口密度は世界的に見て低めだ。


「それだけでガラティアの民を養って余りある食糧を生産出来るものなのか?」

「これは私の推測ですが、スルタンはここ数年農地を増やし穀物の生産を増やすことにご執心ですから、それに自信を持っているのでしょう」

「穀物の生産量なんて、そう簡単に増えるものか?」

「今は備蓄を放出しているだけでしょうが、スルタンにはそれを近いうちに回復出来るという自信があるのかと」

「なるほどな。まあ手を貸してくれるというのならば、文句は言わんさ」


 ダキアとしては不十分な支援であると言わざるを得ないが、それでも戦争継続に大きく資する支援であった。


 〇


 ACU2312 07/30 ヴェステンラント合州国 王都ルテティア・ノヴァ ノフペテン宮殿


 平時ならば週一くらいで七人の大公が集まるこの円卓も、今や陰公にして女王ニナが暇つぶしに来るくらいしか用途がない。


 そんな円卓には二人の人間がいた。堂々と女王の御座に座るニナと、椅子が余りに余っているのに彼女の傍で立っているルーズベルト外務卿である。


 話題はもちろん、ゲルマニアの行った絨毯爆撃についてである。


「――陛下、このような攻撃が続けば、ダキアはたちまちに降伏してしまうでしょう。何か手を打たれますか?」


 ダキア方面への支援はニナが一手に担っている。ダキアを生かすも殺すも彼女の手の中だ。


「……ダキアにはもう進化の余地がない。このまま支援をしたところで意味がない。そうだろ?」


 ニナはつまらなさそうに言った。


「ゲルマニアの戦力を分散させるという意味はあると思うのですが……」

「それではダメなのだ」

「では、ダキアへの支援は打ち切ると?」

「いや、支援は今のまま維持しておけ。だが、そろそろ余が自ら出るべき時が来たようだ」

「いつも敵地に飛び込んでいらっしゃるのに?」

「……違う。余の、陰の国を動かすと言っているのだ。まあ、とは言え、爆撃機とやらを見物しに行くのも悪くはないだろうがな」 

「それはそれは。ついに七公全員が戦場に立つのですね」

「そうなるな。余は準備をする。お前は適当にゲルマニアを非難でもしておけ」

「仰せのままに」


 ルーズベルト外務卿は恭しく礼をした。

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[一言] →ACU2312 7/29 ダキア大公国 オブラン・オシュ いつのまにか日付がタイムスリップしています。
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