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籠城戦Ⅲ

「ど、ドロシア様……それはどういう……」

「考えれば分かることじゃない。つまりはね、奴らの矢にはただ矢尻を温めただけの矢が混じってるってことよ。それもかなりの量がね」


 ある程度温められていたのは、こちらがその仕掛けに気づくのを遅らせる為、わざわざ矢尻を火か湯かで温めてから放ったからだろう。


 実際、これまでヴェステンラント軍は大八洲軍の矢が全て魔導装甲を貫ける魔法の矢だと勘違いしていた。


「しかし、そんなことをする意味は……ああ、なるほど」

「そう。私達は騙されてたのよ。……ムカつくけど」


 農民が使うようなただの弓矢など、銃弾すら跳ね返す魔導装甲の前には何の意味もない。


「では、敵の矢など無視して突撃をしかければ、何の支障もなく城を落とせるということでしょうか?」

「まあ、何の支障もなくって訳にはいかないけどね。中には本物の矢も紛れているから」

「なるほど……それは厄介ですね……」


 敵の矢の大半がただの矢だとしても、中には確実に魔法の矢が紛れている。そしてそれは魔導兵を殺すことが出来る。


「とは言え、多少の損害を顧みなければ強行突破も出来なくはないけど」

「ほ、本気でそれを……」

「冗談よ。流石にそこまではやらないわ。でも、やりやすくはなった」


 塹壕の入口を構築し終えた後、ドロシア一行は本陣へと帰還した。


 〇


 その後、ヴェステンラント軍は塹壕を更に掘り進め、着実に城門への迫っていた。


「晴氏様、敵はどうやら我らの策に勘づいたようでございます」


 晴氏の助太刀に来た朔は、ヴェステンラント軍が矢の仕掛けを見抜いたと判断した。


「俺もそう思っている。奴ら、矢など恐れていないようだからな」

「左様にございますね」


 塹壕を掘る魔導兵達は次々と降り注ぐ矢など恐れていないようであった。これはもう、矢に当たっても死ぬ可能性が低いことを敵が理解している証拠だろう。


「さーて、こっちは一応選りすぐりの者に為朝弓を持たせちゃいるが、バレちまったからには長くは持たんだろう」


 貴重な鬼石を節約する為、為朝弓は射撃に優れた者に与えられ、精密にヴェステンラント兵を狙撃している。


 とは言え、やはり彼らの勢いを止めるには至らず、ヴェステンラントの塹壕線は日に日に大手門へと迫っていた。


「北條殿の見立てでは、後どれほど持ちますでしょうか」

「そうだな……こんな戦いは俺も初めてだから正しくは分からんが、持って十日だろう」

「十日……」


 それは落城までの時間であって、五日もすれば外堀は破られ、城下町を捨てて内堀の中に籠ることになるだろう。


「まあ長くは持たん。下手すりゃ五日で本丸まで落ちるかもな」

「でしたら……」

「ああ。もう待っている暇はない。晴虎様に次の手を打つよう伝えてくれ」

「はい。そのようにお伝え申し上げます」


 朔は飛び立った。


 〇


 そして晴虎のいる天守にて。


「晴虎様、敵は我らの策に勘づき、攻めの手を強めてございます。残念でございますが……北條殿でもそれほど長くは持ちますぬかと」

「で、あるか。なれば、これよりヴェステンラントの息の根を止める」

「はっ!」

「しかれば、我を連れて行ってくれるか?」

「え……は、もちろんにございます!」


 朔は晴虎を抱きかかえ、城の外へと飛び立った。


 〇


 舞台は再びヴェステンラント軍に戻る。ドロシアが大八洲軍の窮状に気づいてから、ヴェステンラント軍は全方向から総攻撃を開始した。


 塹壕はついに堀に到達し、もう2日もあれば大手門を突破出来そうな勢いである。


「殿下、落城までもうそろそろですな」


 ラヴァル伯爵は言う。


「そうね……やけに柔らかい気がするけど……」

「晴虎にしては弱過ぎると?」

「ええ。確かに城攻めで相手にしたことはないけど……あれほどの将がここまで籠城が下手くそなものかしら」

「どうなのでしょうか……」

「……やっぱりここは怪しむべきね。敵が何か秘策を用意していると」


 ドロシアは無意識のうちに晴虎を認めていた。それほどまでに晴虎は恐ろしい男なのだ。


「しかし、秘策と申されましても、城内から打って出ようものならばたちまち殲滅出来ると、シモン殿下が……」


 優勢とは言え、晴虎の反撃を恐れたヴェステンラント軍は防御的な陣形を整えながら前進している。


 もしも大八洲軍が門を開け放ったのならば、その中に無数の矢が叩きこまれることだろう。


「そうね。城の中から出てくるのは自殺行為。そのくらいのことは晴虎も分かっている筈。だったら…………」


 その時、ドロシアの頭の中にふと一つの可能性が浮かんだ。


「まさか、外から?」

「外、と仰いますと?」

「そう、外よ。城の外から――私達の外から攻撃することが狙いだとしたら……」

「ま、まさか、敵兵の大半は城内にいるという話では……?」

「でもそれは、私達の経験に過ぎない」


 大八洲軍は軍旗というものを非常に重んじる。その数から敵の数を推測する方法は、これまで大きく外れたことはない。


 だがそれは所詮経験則だ。大八洲軍が必ずその規則に従うという保証はない。


「そ、そんなまさか……。っ!?」

「「「「おう!!!!」」」」


 その時だった。彼らの背後から、天地を揺るがす鬨の声と法螺貝の声が響き渡った。


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