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心理戦Ⅱ

 ACU2312 6/2 日出嶋 ヴェステンラント軍補給路


 ヴェステンラント軍が黑鷺城を包囲し、およそ1ヶ月が経過した。


「ふふふ……小荷駄の守りも固めないとは……ヴェステンラントも馬鹿ね」


 数十人の荷車を引いたヴェステンラントの輸送部隊。それが見通しの悪い森林に入ったところを、大八洲軍の小隊は捕捉した。長尾右大將曉の率いる、百人程度の小部隊である。


「曉様、辺りに他の敵はいません。我らの用意も整っております。しかけられますか?」

「ええ、もちろんよ。かかれ!」

「「おう!!」」

「な、なんだ!?」


 悠々と物資を運搬していた兵士達。彼らは前後左右から当然現れた大八洲兵に対し、ただただ恐慌に陥ることくらいしか出来なかった。


「いつも通りよ! 殺し尽くしなさい!」

「「おう!!」」


 それは戦闘とは呼べるものではなかった。ヴェステンラント軍の魔導兵も、突然の襲撃で兵力に劣り、圧倒的に大八洲軍に優位な状況での戦闘を強いられれば、全く為す術はない。


 白人は包囲され、まずは魔導兵が一分も持たないうちに殺された。そして次の狙いは武器を持たない者。


「た、助けてくれ! 俺達はただ――」

「生かしたら、私達のことが漏れるじゃない」


 曉にとって何の脅威にもならない、ただ荷車を押していただけの男。それを容赦なく斬り殺した。御者、従者、その他の非戦闘員も、ただちに一人残らず死体となった。


「よし。誰も生きてはいないわね」

「はい。全員首を斬っております」

「よろしい。では死体と車は全て燃やし、血は洗っておきなさい」

「はっ!」


 魔法を使えば容易い事。彼らが存在した痕跡は、何一つ残らずに抹消された。


 ○


「――最近補給が滞っているようだが、原因は何だ?」


 陽公シモンは黄公ドロシアに尋ねた。この軍団の補給は全て黄の国が担当している。


「……恐らくは敵が輜重隊を襲撃しているわ。それもかなりの頻度でね」


 毎日数十の部隊が港と陣地を行き来している訳だが、それに支障をきたすほどに大八洲軍からの襲撃は激しかった。


「恐らくは、とは何だ? どうして断定出来ない?」

「何でかはしらないけど、襲われた跡が何も残っていないのよ。だから今回の事態に気づくのが遅れたのよ」

「なるほどな」


 半月程前にこの事態が始まった時、ドロシアは何かの事故かと思っていた。或いは兵が脱走したか。


 しかしあまりにも行方不明になる部隊が多かったことから、ドロシアはつい最近になってこれが敵の攻撃だと気づいた。


「まあ十中八九、大八洲の攻撃だろうけど、確証はないわ」

「この状況で他の原因など考えられまい」

「それもそうね。もちろんだけど、大八洲が動いていると考えてこっちも動くわ」

「となれば、戦略の見直しが必要だな」


 今後、補給路が脅かされる事態はますます増えていくことだろう。となれば、この包囲を維持することすら出来なくなるかもしれない。


「城を攻め落とすにしても一日で出来るものではない。早く決断した方がいいだろう」


 力攻めに移行したとしても、これほどの巨城であれば落城まで更に一ヶ月以上かかることも考えられる。


「……分かってるわよ」

「つまり……この状況で攻め込むということでいいんですよね?」


 青公オリヴィアは確認がてら尋ねた。


「そういうことね」

「それで大丈夫なんでしょうか……」

「まあ一ヶ月間休むことなく砲撃の音を聞かせ続けたんだし、士気は落ちているでしょうね」

「それはそうでしょうけど……」


 魔法がある限り、ヴェステンラント軍の砲弾は無限にあるようなものだ。四六時中砲弾が飛んで来れば、敵は休むことも叶うまい。


「しかし、我々に戦術を選ぶ余地はない」

「そうね。もう兵糧攻めをする余裕もなさそうだし」


 残念ながらこちらの兵糧が尽きるほうが早そうである。こうなれば兵を損なわずに勝つという選択肢は失われた。


「では、これから黑鷺城への攻撃を始めるわ。準備を始めて」

「うむ」

「わ、分かりました!」


 かくしてヴェステンラント軍は力攻めを開始した。


 ○


 翌日、黑鷺城内にて。


「晴虎様、どうやらヴェステンラント軍が動き始めたようにございます。これより力攻めを始めるつもりかと」


 長尾左大將朔はヴェステンラント軍の大きな動きを報告した。


「で、あるか。なれば、直ちに兵を配置し、守りを固めよ」

「既に手筈は整えてございます」

「流石は朔であるな」


 これほどの巨城となると城門も数多く存在する。都そのものも兼ねている以上、城門を最低限にして守りを固めるというのも不可能であった。


 直ちに兵を城門に配置し、それぞれに諸将を配置する。こちらは特に奇策もなく、兵法書通りの配置である。


「やはり我には城は似合わぬな」


 晴虎は呟いた。


「何故にそのようなことを……」

「城に籠るよりも打って出たいと、この心が燃えるのだ。それに城攻めも籠城も、我はそこまで得意ではない」

「それは……」


 確かに晴虎は野戦では無類の強さを誇るが、城攻めはそこまで得意ではない。時間をかけてしまったことは何度かある。


 籠城戦はそもそも経験が少ないが、野戦のような電光石火の采配は期待出来ないだろう。

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