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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第三十章 黑尊國の戦い

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心理戦

 その後5日間、両軍の間に一切の死傷者は出なかった。ヴェステンラント軍は包囲を完成させた後に何の攻撃もしかけず、大八洲軍も城から打って出るようなことはなかった。


「それで、様子見はこのくらいで十分か、ドロシア?」


 シモンは尋ねる。まだ大八洲軍の意図を見抜けていないヴェステンラント軍は、その意図を探っていたのである。


「ええ、そうね。敵は本気で籠城する気みたい」


 大八洲軍のじっとして動く気配のない様子から、彼らが籠城してヴェステンラント軍を撃退しようとしていると、ドロシアは判断した。


 実際同じ状況に置かれれば、ドロシアもシモンもオリヴィアも同じ選択をしただろう。


「では、このまま包囲を続けるか」

「ええ、まずは安全な策から取りましょう」


 正直言ってドロシアはもう負けたくない。昔から粗野な性格な彼女も、晴虎を相手にしては何事にも億劫になってしまうのだ。


 その結果選ばれたのが、戦わずして確実に勝てる兵糧攻めである。


「でも……兵糧攻めだけで本当に勝てるんでしょうか……」

「それは前に言ったでしょう。兵糧攻めで勝てるのが一番。それが無理なら、敵の士気を下げた上で力攻めよ」

「それが上手くいくのでしょうか……」

「あんたはいっつも悲観的ね……」


 オリヴィアが積極的な意見を出すことはほとんどない。常に相手の出方に合わせ、慎重な行動を取る。


 まあそういう人材もいた方がよいのは確かである。


「で? 何が不安なのよ?」

「はい。敵はこの5日間、全く動揺していないように見えます。この調子では兵糧も十分な蓄えがあると思いますし、包囲を続けるだけでは士気は挫けないかと……」

「なるほどね……」


 農民から徴募した兵が中心であるヴェステンラント軍と違い、大八洲軍は幼い頃から訓練を積んだ武士のみによって構成される。


 包囲を続けるだけではその士気を挫くのは難しいかもしれない。


「だったら、嫌がらせをしないとね」

「嫌がらせ?」

「相手も所詮は人間よ。士気を挫くのはそう難しくないわ」

「ほ、ほう……」


 ドロシアは不敵な笑みを浮かべた。


 〇


 それから3日後。ヴェステンラント軍の陣地にお目当ての品が届いた。


「なるほど。大八洲の大筒ですか」


 先の海戦で大八洲の軍船から鹵獲した大砲である。


「ええ。まあ城を壊すのは無理でしょうけど、兵を眠らせないくらいの嫌がらせは出来るわ」

「ですが……私達には砲弾がないのでは?」

「馬鹿ね。大筒ってのは何でも撃てるように出来てるのよ」

「そ、そうなのですか……?」


 大八洲の大筒に限らずだか、ゲルマニアのものを除いて、この世界の銃砲は極めて単純な構造をしている。口径が大体合っていれば正規の弾丸でなくとも容易に撃ち出せるのだ。


 実際、弾丸を買う金がない百姓などはそこら辺でちょうどいい大きさの石を見つけて弾丸の代わりに使うことがままある。


「まあ流石に石を使いはしないけどね。魔法で適当な鉛玉を作ればいいってことよ」

「なるほど」


 魔法でものを作る時、職人がやるよう(精確なものを作れる魔女は極めて稀である。


 だがこの大筒の為には精確な弾丸を作る必要はなく、おおよそ大きさが合っていれば問題ないということである。


「まあここで話してても始まらないわ。早速砲撃を始めましょうか」


 かくして数十の大筒による砲撃が開始された。


 〇


「この音は……大筒!?」


 城内にあった朔は、その独特の飛翔音からそれが大筒による攻撃であると見抜いた。


「皆! かがむのです!」

「は、はい!」


 流石に音だけで砲弾の位置を判断することまでは出来ない。周囲の兵の姿勢を低くさせつつ、この場に飛んできた場合には鬼道でそれを受け止める用意をする。


「っ……! ここには来なかったか……」


 すぐ隣の櫓に砲弾は着弾した。


 壁は崩れ多くの木片が飛び散ったが、すぐにその場の者が崩れた部分を修復したようであった。


 とは言え朔はその被害状況を確かめねばならない。


「――一通り見たところ怪我人は出ていないようですが……大事はありませぬか?」

「はい。幸いにして櫓の天辺にしか人がおりませんでしたので、人死は出ておりません」

「それは良きことにございます……」


 最初の一撃では幸運にも死者も負傷者も出なかった。だが大八洲の武士と言えど、砲弾の直撃を喰らえばただでは済まない。


 事実、これより後に続いた激しい砲撃では、確実に死傷者が出続けた。


 〇


「建物は壊せていないようですけど……これでいいのですか、ドロシア?」


 オリヴィアは言う。いくら砲弾を叩き込んでもその建物は瞬時に修復され、城は新品同然のままであった。


「ええ。昨日も言ったけど、あくまで目的は敵の士気を削ぎ落とすこと。四六時中砲撃の音が聞こえたら、気も滅入るでしょう?」

「なるほど」


 大八洲軍へ与えられる損害自体は極めて軽微である。多少は敵を殺せているだろうが、そんなものは誤差程度だ。


 だがこれはあくまで最終的な力攻めに向けて敵を疲弊させる為の策である。


 絶え間なく砲撃を続けること、それ自体が重要なのだ。

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