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夜討ち

 ACU2312 5/16 日出嶋 ヴェステンラント軍本営近く


「うふふ……馬鹿な白人ども、すっかり眠りこけているわ……」


 曉の率いる六千ばかりの部隊は、山道を通り密かにヴェステンラント軍に接近していた。ここはまだ黑鷺城から百パッスス以上も離れており、ヴェステンラント軍は戦闘になることを想定してすらいなかった。


 陣地に数十名の見張りこそいるが、それ以上の備えはなく、現地人から奪った家々でゆっくりとくつろいでいた。


「曉様、仕掛けられますか?」

「ええ。でも、狙うは黄の軍よ。これは黑尊の民を殺したことへの裁きなのだから」

「ははっ」


 狙うは黄の軍勢。大八洲勢は山をゆっくりと下り、ヴェステンラント軍の野営地の目と鼻の先まで迫る。


「それじゃあ……かかれ! 白人どもを皆殺しにしなさい!」

「「「おう!!!」」」


 静まり返った陣地に、突如として鬨の声が響き渡った。そして麒麟隊は雲霞の如く敵陣へと突入する。


「刃向かう者も刃向かわぬ者も、肌の白き者は全て殺せ!!」

「「「おう!!!」」」


 普通の戦闘においては、武器を失ったり戦意を喪失したりした雑兵を殺すことはない。その時間が無駄であるし、その首を持って帰ったところで何の褒美ももらえないからだ。


 故に雑兵は放置し、名のある武将だけを殺しに突き進むものである。だが麒麟隊は、曉は違った。


「や、やめてくれ! こっちは武器も――ぐああっ!」

「お前たちは生きてることが罪なのよ? 分かった?」


 兵舎の中の兵士は、当然ながら武器も鎧も身に着けてはいない。だが曉は容赦なくその兵士達の斬り殺した。


 助けを乞う者も、命乞いをする者も、皆情け容赦なく殺し尽くした。


「あら、逃げるのかしら」

「そりゃあ、我々がこれほど殺しておりますから、敵は逃げ出すでしょう」

「なれば、射殺しなさい。神仏の報いよ」

「はっ」


 何が起こっているのか察するや否や、ヴェステンラント兵は安全な陣地の反対側へと逃げ出した。だが麒麟隊に容赦はなく、彼らの背中を次々と矢で貫いていった。


 すぐに辺りは静かになった。白人は悉く死体となり、生き残った者は逃げた。だがこれだけでは終わらない。


「兵を押し出しなさい! もっと殺すのよ!」

「はっ!」


 見渡す限りのヴェステンラント兵は殺し尽くした。であれば、更に兵を進め、殺せる限りの敵を殺すまでである。


 ○


「――ドロシア様、敵の夜襲です!」

「そ、そう……やってくれたわね……」


 寝ていたドロシアは叩き起こされ、この緊急事態を知らされた。


「敵の数は?」

「おおむね、1万には届かないかと言ったところです」

「敵は寡勢じゃない。さっさと態勢を整えて迎え撃ちなさい」


 こちらは総兵力12万、黄の軍勢だけでも4万はいる。1万程度どうということはない。ドロシアはそう判断した。だが実際はそう簡単なものではない。


「お言葉ですが、ほとんどの兵が武器も持たず、大八洲兵と戦うことなど出来ませぬ」

「ちっ……使えないわね……」


 ヴェステンラント軍は大いに混乱しており、迎撃態勢を整えていられる状態ではなかった。


「だったら私が出るわ。動ける魔女は私について来なさい」

「はっ!」


 黄公ドロシアは同時に土を司る黄の魔女である。世界最強の五大二天の魔女の一人である。


 ○


「まったく、やってくれたじゃない」

「あら? あなたはドロシアかしら?」


 総大将だというのに最前線で兵士を殺して回っていた曉と、現場に急行したドロシアは向かい合った。


「そうよ。私こそが、合州国が誇――」

「殺しなさい!」

「ちょ、自己紹介くらいさせなさいよ! この有色人種が!」


 大八洲兵は一斉にドロシアに向けて弓を引き、容赦なく矢を放った。だがその矢は、ドロシアを護衛する魔女達によって片っ端から弾き落とされた。


「へえ? やるじゃない」

「お前たちの野蛮な武器ごときで私達を殺せるとでも?」

「……まあいいわ。こいつらは適当に相手しておきなさい。私は他の連中を殺しに向かうわ」

「おっと、そうはさせないわよ」

「どうする気?」

「こうするのよ」


 ドロシアは紫に輝く魔法の杖を構えた。そしてそれを地面に向けた。


「私は黄の魔女なんだから、やっぱり土を使わないと」

「っ……」


 その瞬間、ドロシアを中心として、長大な土の壁が生み出された。それは大八洲軍が侵入した区画を丸々囲い込む。


「面倒なことをしてくれたわね……」


 高さは二パッススほど。空を飛べる飛鳥衆ならともかく、普通の武士がそれを超えるのは、攻城戦の備えをしていなければ不可能だ。


「さあどうする? この壁の前で戦うかしら?」

「チッ……引き上げよ。もう十分に殺したわ」

「はっ!」


 かくして麒麟隊は撤退した。だがヴェステンラント軍の損害は甚大なものであった。


「――殿下、我ら兵士がおよそ3千、殺されました……」

「蛮族どもが……」


 大八洲軍が撤退した跡は、死屍累々の有様であった。死臭が陣地に充満し、血は大地を赤黒く染め上げた。


 これほどに一方的な虐殺の前に、以後ヴェステンラント軍は最大限の警戒を解くことが出来なくなり、ドロシアが先住民を虐殺している暇もなくなった。


 大八洲軍の本来の目的は達成されたのであった。

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