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ヴェステンラントの進軍

 ACU2312 5/10 黑尊國 日出嶋


「皆の者、撃ち方用意!」


 黄の国の魔導兵達は隊列を組み、一斉に魔導弩を構えた。


「殿下……どうかお辞め下さい。何の罪もない民草を殺すなど……」


 黄の国で唯一の良心、ラヴァル伯爵は黄公ドロシアに懇願した。


 彼らが狙う先では、肌の黒い数百人の者が必死に逃げようとしていた。集落にいた者は取り敢えず放っておいて、そこら辺にいた者を連れ去ってきたものである。


 彼らは生存の機会を与えられたと思っているが、数百パッススの射程を誇る魔導弩から走って逃げ切るなど、まず無理である。


「最近は人を殺してなかったのよ。たまにはいいじゃない」

「……このように、殿下の遊びの為だけに人を殺すようでは、諸国の信を失うことは避けられません。それでもよいと仰るのですか?」


 感情に訴えても意味がないことを知っているラヴァル伯爵は実利に訴えてみることにした。だがドロシアはそんな言葉に耳を貸さなかった。


「有色人種どもの信をいくら失おうと知ったことじゃないわ。合州国に逆らう者は皆殺しにするまでよ」

「それでもあなたは……」

「何よ?」

「いえ。何でもございません。そこまで仰るのならば、殿下の好きにされればよいでしょう」


 あまりドロシアの不興を買ってこの地位を失っては、今後彼女を止める者がいなくなってしまう。


 その判断から、ラヴァル伯爵はこれ以上何も言えなかった。


「そう。じゃあやるわ。皆の者、撃て!」

「「おう!!」」


 矢が一斉に放たれた。老若男女の区別なく、矢は人々を貫いた。最初の斉射から運良く生き残った者も、次の斉射ではほぼ全員が殺され、生き残った者は誰もいなかった。


 矢を受けても生きていた者も、首を切り落とされて殺された。


「さて、今日の勝者は誰?」

「この者が、5人を2発の矢で殺しました!」

「やるじゃない。褒美に銀4枚をくれてやるわ」

「はっ! ありがたき幸せ!」


 ドロシアにとってこれは、狩猟であり遊戯であった。彼女らにとって黒尊の民は人間ではなく、よく動く的なのである。


 そんな快楽殺人を行いながら、ヴェステンラント軍は前進していた。


 〇


「ドロシア、また『狩り』をしてきたのか……」


 休息中だと言うのに完全武装したドロシアを見て、シモンは何があったか察した。


「ええ。暇だもの。それに、たまにはこうやって娯楽もないとね」

「娯楽、か……」


 ドロシアの無意味な虐殺については、ヴェステンラント軍内部でも悪い方向にしか捉えられていなかった。


 シモンは苦々しい顔をして、ドロシアに暗に苦言を呈する。


「……有色人種を殺して、何が悪いって言うのよ」

「彼らとで我々と同じ人間ではないか……」

「あんな奴らが同じ人間? 馬鹿なこと言わないで」

「はあ……」


 この点に関してだけは、ドロシアを大公の座から引きずり下ろしたくなるものだ。


「君がよくても、よく思わない者は多いのだ。我々の体面の為にも、少しは自制してはくれんか?」

「そんなの知らないわよ。大体、私達が勝手にやってるだけなんだから、あんたの言う体面にも傷はつかないでしょう?」


 これは黄の国の軍勢が勝手にやっていることだ。他の大公国は巻き込んでいないし、ヴェステンラント軍総司令官としての行動でもない。


「……分かった。だったら好きにしてくれたまえ……」


 陽公シモンであっても、彼女を説得することは出来なかった。それだけ彼女の意思は強靭なのだ。


 〇


 ACU2312 5/13 日出嶋 黑鷺城


 諸将は毎日のように軍議を開いている。


「晴虎様、ヴェステンラントの者共が、このような狼藉をはたらいているようにございます」


 黒衣の少女――上杉の直轄軍を総括する長尾左大將朔は、征夷大將軍、上杉四郞晴虎に報告した。


「……で、あるか。いや、分かってはおったのだ。ヴェステンラントの賊徒なれば、さもあらんと」

「いかがなされますか? 我ら上杉の戦は、あらゆる民を白人共の手から救う義の戦にございます。これをみすみす見逃す訳には参りませんが……」

「で、あるな。我らは兵を出さねばなるまい」

「はい。しかし、いかほどの兵を出されましょうか」

「うむ……」

「……迷っておられるので、ございますか?」


 晴虎にしては珍しく、軍議の場でも言葉がつまった。そのようなことは朔の記憶の中ではほとんど初めてであった。


「でしたら、夜討ちをかけるとするがよいでしょう」


 隻眼の大名、伊達陸奧守晴政は言った。


「夜討ち、とな?」

「はい。晴虎様は、このような無謀な戦で兵を失うことを恐れておられるのでしょう。そこで夜討ちをしかければ、兵は少なく済むことでしょう」


 晴虎が迷っているのは、こちらから打って出ての野戦にさしもの晴虎でも勝ち目が見出せないからであった。であるから、失敗しても損害の少ない夜襲を晴政は提案したのである。


「で、あるな。よかろう。選りすぐりの者に夜討ちをしかけさせるとする。して、誰を送るべきか」

「それならば、私が行きますわ」


 白装束の少女、麒麟隊を率いる長尾右大將曉は高々と名乗り出た。


「そなたが行くか」

「はい。無色人種どもを皆殺しに来て参りますわ」

「……で、あるか。よかろう。麒麟隊を率い、彼の者に夜討ちをしかけて参れ」

「はい。承知仕りました」


 大八洲に出来ることはそれくらいであった。

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