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開戦前の状況

 ACU2312 5/2 崇高なるメフメト家の国家 ガラティア君侯国 帝都ビュザンティオン


「陛下、ヴェステンラント軍がついに、大八洲への反抗作戦に出たようです」


 西方ベイレルベイ、スレイマン将軍はシャーハン・シャー、アリスカンダルに報告した。


「やっとか。それで、両軍の戦力は?」

「はっ。ヴェステンラント軍がおおよそ12万、大八洲側が5万となっております」

「兵力差は倍以上か。大八洲も随分と兵を減らしたものだな」

「はい。彼らの政治体制は、このような長期出兵には向かないようです」


 多くの大名が最前線から離脱し、国許に兵を引き上げるか、本国に近いマジャパイト王国に陣を張っている。最前線への派兵を続けられるのはほんの一握りの大大名のみだ。


「やはりと言うべきか、我らとの国境に隙はないか」

「はい。我らを睨む柿﨑吐蕃(とばん)太守は、一歩も動きません。正に、動かざること山の如しと言ったものです」


 中國管領上杉家は、大八洲の四方に直轄領を設けている。これは他国への防備や外交の為である。その中でガラティアを睨むのが上杉家譜代の柿﨑家だ。


 そしてこの大戦争が始まってからもガラティアとの国境の防備は完全に固められており、取り付く島もない。


「もっとも、晴虎は今遥か東方におり、我らへの備えなど出来ませんでしょうがな」


 東方ベイレルベイ、イブラーヒーム内務卿は言った。確かにアリスカンダルが敗北したのは晴虎の采配で、それがなければ兵力の分散している大八洲軍など大したことはないかもしれない。


「ふん。彼らを甘く見るものではない。晴虎がおらずとも、大八洲は唐土の制圧を成し遂げたのだ。柿﨑はその時から上杉に仕える猛将。ましてや守りを固めるところにこちらから攻め込むなど、無意味に兵を死なせるだけだ」

「……はっ。肝に銘じておきます」

「それでよい。しかし話が逸れたな。この戦、どちらが勝つか」

「兵法の常道から言えば、ヴェステンラントが大いに優勢。しかれども、あの晴虎のことなれば、大いに勝ちをもぎ取るやもしれませぬ、と、こんなところでしょうか」


 スレイマン将軍は大仰な様子で言った。まあその通りである。


 普通この状況を見れば、ヴェステンラントが勝利することを前提とした外交、戦略を立てるべきである。だが晴虎というのは戦略をひっくり返す男だ。


 どれだけの兵力差を以てしても、彼を確実に倒せると断言出来る将は存在しないだろう。いたとしたら、それはただの愚か者だ。


「そうだな。しかし晴虎とて、そう余裕がある訳もあるまい。我らとしては勝機は五分五分と見ておくことにしよう」

「はっ。陛下の思し召しのままに」


 ガラティアは今日も静観を決め込むのであった。


 ○


 ACU2312 5/6 黑尊國 日出嶋近海


 テラ・アウストラリスと黑尊國の主要部を成す日出嶋は、最も近い場所で100キロパッススほどしか離れていない。まあその辺りは条件が悪く大艦隊を動かせないが、それでも数日でヴェステンラント全軍を送り込むことは出来る。


 白亜の魔導戦闘艦イズーナを先頭にしたヴェステンラント艦隊は、大八洲水軍から何ら妨害を受けることなく、易々と日出嶋に接岸することに成功した。


 今回編成された12万の大軍勢は、一先ず上陸を果たした。


「そう……誰もいないわね……」


 この艦隊及び黑尊國侵攻軍の総司令官、黄公ドロシアは静まり返った海岸線を見つめながら呟いた。


 上陸する時、兵は船から出て、足場の悪い砂浜を進まなければならない。そのような悪条件ならば兵力で劣勢な大八洲軍でも十分にやり合えるはず。にも拘わらず、この最大の隙を晴虎はみすみすと見逃した。


 これは何を意味するのか、晴虎は何をしたいのか、ドロシアには読みかねた。


「どう思う、オリヴィア?」

「ドロシアが分からなかったら、私にも分かりませんよ……」


 青公オリヴィアは開戦早々泣きそうな声で応えた。


「あっそう……じゃあシモンは?」


 頼りになりそうなこの中での最年長、陽公シモンにも聞いてみる。


「そうだな……私にも敵の狙いの正確なところは分からない。だが、ここで出ないということは、我々を撃退するのが目的ではないということではないか?」

「? どういうことよ? 降伏でもするって?」

「いいや、その真逆だ。晴虎はこの機に大集合した我々を撃滅しようと考えているのではないかと、私は思う」

「ほう……確かにやりかねなくもないわね」


 12万という、ヴェステンラントが西部戦線で動かせる兵力の大半が今ここにある。それが仮に殲滅されれば、大八洲は東亞における覇権を確実なものとするだろう。


「だったらどうする? このままここに居座る?」

「それは兵糧の無駄だろう。とにかく慎重に、敵の本拠地である黑鷺城を目指すというのはどうだ?」

「いまいち作戦になってない気がするけど、いいわ。そうしましょう。ゆっくりと地歩を固めながら進軍するわ」

「ああ。だが、君が総司令官なのだから、私の意見に従わなくてもいいかなら」

「あんたの意見がいいと思ったから選び取ったまでよ」


 ヴェステンラント軍は進路の街々を確実に占領しながら、黑鷺城へと向かうのであった。

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