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第二次イジャスラヴリ空襲Ⅱ

「ライラ所長、どうします? 敵がこちらを攻撃してくる可能性がありますが……」

「え……そう言われても、爆撃機には自衛用火器もないからさ……」


 まさか魔女が直接攻撃してくるなんて想定していなかった。だから爆撃機には機関銃の一つも備え付けがなく、攻撃されれば反撃は不可能である。


「うーん……じゃあ、逃げる! 全速力で前進せよー!」

「はっ」


 今は最も燃費の良い巡航速度で飛行している。それを最高速度に上げて魔女を振り切るという作戦である。ただでさえ超高速で飛行していた爆撃機は更に加速し始めた。


 ○


「爆撃機が、加速した……?」

「私達は気づかれてしまったようですね……」

「くっ……だったら、全速力で追いかけるしかないわ! とにかく距離を詰めるのよ!」


 エカチェリーナ隊長は飛行魔導士隊に号令した。だが返事はいつもと違ってかなり弱弱しいものだった。


「こ、これ以上高くを速く飛ぶなんて、無理ですよ……」


 アンナ副長は弱音を吐かざるを得なかった。大半の魔女はこの高度でただ浮かんでいるだけでも精一杯であるのに、それに加えてあの爆撃機に追従せよとの命令に従うのは、最早不可能だ。


「だったら……ついて来られる者のみが続きなさい! 他は帰投して構わないわ!」

「え、は、はいっ!」


 エカチェリーナ隊長は他の魔女に構うことなく、全力で高度を上げ始めた。それについて来られたにはほんの数名に過ぎなかった。


「何だかんだ言って、あなたは来られるのね」

「皆さんの意見を代表するのが副長というものです!」


 あんな弱音を吐いていたが、実のところアンナ副長本人はエカチェリーナ隊長についていくことが出来た。


 やがて彼女らは爆撃機との距離を詰め、ついに対空砲の射程ギリギリに爆撃機を収めた。


「射程に入ったわね」

「これ以上距離を詰めるのは、流石に……」


 こちらは本心だ。エカチェリーナ隊長でもここら辺が限界であろう。


「だったら、ここから爆撃機を撃つ! 私を支えて!」

「はいっ!」


 エカチェリーナ隊長の体をここまで来られた魔女たちが持ち上げる。そしてエカチェリーナ隊長は、自信より巨大な対空砲を爆撃機に向かって構えた。飛行の魔法は解除し、全力を狙撃に注ぎ込む。


 ○


「ライラ所長、敵が何かをこっちに向けています!」


 双眼鏡を覗き込んだシグルズも流石に焦る。明らかにヤバそうな何かが彼らを狙っていた。


「この距離を狙い撃てる訳が――」

「見たこともない巨大な銃です。敵は本気かと」

「え……困ったな……」


 どうやら逃げ切る作戦は失敗したらしい。であれば次はどうするか。


「じゃあ、蛇行運転で何とか狙いを逸らそう」

「……それしかないですね」


 爆撃機はバラバラに蛇行を始めた。少しでも飛行魔導士隊が照準しにくくする為である。無様な作戦と言わざるを得ないものだが、これくらいしか対応策がないのだ。


 ○


「敵がバラバラに動き始めました!」

「くっ……」


 ただ直進するだけの目標を狙撃するのと比べれば、蛇行する爆撃機を狙撃するのは非常に難しい。


 対空砲を構えるエカチェリーナ隊長も、冷や汗がとめどなく垂れ落ちてくる。


 ほんのわずかな手の震えでも狙いは数十パッススずれる。目標が巨大とは言え、完璧に照準を完璧に定めなければ爆撃機を狙い撃つことは出来ない。


「隊長……」

「何とか、当てるだけでも……」


 その瞬間、エカチェリーナ隊長には時間がゆっくりと流れるように感じられた。爆撃機も自分も、全てがのろのろと動いているように。


 ――ここよ!


 自分でも驚くほど冷静に、引き金を引いた。


 耳が壊れるかと思うほどの爆音が響き、肩が砕かれんばかりの反動が彼女を襲った。魔法で衝撃を和らげてもこれなのだから、普通の人間が使ったら普通に死にかねない代物だ。


「あ、当たってます! 命中です!」


 アンナ副長は叫んだ。


 爆撃機の翼から火花が散って、いくらかの鉄の欠片が落下して来たのだ。爆撃機を落とすことまでは出来なかったが、何とか命中弾を出せたのである。


「そ、そう、よかった……」


 と、そこでエカチェリーナ隊長は集中力を使い果たし、アンナ副長に力なくもたれかかった。


「た、隊長!?」

「私は大丈夫。それより、総員、帰還よ」

「……はっ!」


 役目を終えた飛行魔導士隊はそのまま帰還した。


 ○


「つ、翼を撃ち抜かれましたけど……大丈夫なんですか?」


 撃たれたのはシグルズとライラ所長の乗る爆撃機であった。エカチェリーナ隊長の放った弾丸は、その翼に小さな穴を開けた。


「ああ、大丈夫大丈夫。あのくらいの損傷なら、問題なく飛んでいられるよ」

「ライラ所長が仰るなら……信じます」


 いや、正確にはシグルズも大丈夫なことを知っている。翼が半分なくなっても飛んでいた戦闘機なんて話は地球で何例もあったし、飛行機というのは案外しぶといのである。


 だが実際に自分がそれに乗っているとなると、生きた心地がしなかった。まあ当然の事だろう。寧ろ平然としていられるライラ所長の方がおかしいのだ。


 ともかく、予定外の攻撃は食らったものの、爆撃は予定通りに続行される。

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