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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第三章 大戦前夜

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傍観者

 ACU2309 4/20 メフメト家の崇高なる国家(ガラティア帝国) ガラティア君候国 帝都ビュザンティオン


 ガラティア帝国というのは他称だ。諸外国からガラティア帝国と呼ばれる国家に正式な名称はなく、ただ漠然と、メフメト家の国家などと呼ばれる。ただし日常的な会話の中では単に帝国とよく呼ばれている。


 メフメト家の崇高なる国家というのは諸王の王――シャーハン・シャーが正式な場で使う名だが、それすら便宜上のものに過ぎない。


「ついに、動きだしたか。世界は乱れる……」


 いつも憂いに満ちた表情を浮かべている孤高の男。その左目は褐色、右目は青。所謂虹彩異色症というものである。


 この男の名はアリスカンダル・イブン・ラーディン・イブン・メフメト。この帝国のシャーハン・シャーである。


「はい。エウロパは確実に混乱を迎えるでしょうな」


 シャーハン・シャーにそう応えた老将。彼の名はスレイマン・イブン・アイユーブ・アル=ビュザンティオニー。帝国の諸将の将――ベイレルベイのうち、西方を担当する男だ。


 その忠義は山よりも高く海よりも深いと語られ、帝国で最も敬愛されている将軍の一人である。


「陛下は何を望まれるのですか? どうにも近頃の陛下は、進むべき道の先を見ておられないようです」

「そうだな……私は一体、何を望んでいるのだろうな……東方遠征はもう完了してしまった。ヒムヤル半島に逆らう者はもういない。父の夢であったヌミディア北海岸の制圧も果たした。では、他に何が残っているのだ?」


 自らの望むままに拡大戦争を繰り返したアリスカンダルが辿り着いたのは、何の面白みもない世界だった。夢を叶えてしまった人間は、一体どうするべきであろうか。


「なれば、陛下は内に目を向けるべきでありましょう」

「内?」

「はい。我が国は潜在的に、大八洲すら超える大国となるべき国です。しかしながら、臣民の紐帯はとても十分とは言えず、国内にはまだ荒れ果てている地域が残っております。まずは国を育て、民を豊かにすることをお考え下さい」

「軍人のお前がそれを言うのか?」

「軍人ほどに平和を愛する職業も、他にありますまい」

「そうか……」


 確かに、帝国の内政はそう上手くいっているとは言えないものだ。未だに内乱の火種は絶えず、貧富の差は著しい。


 スレイマン将軍はこれ以上の戦争を望まない。既に十分過ぎるほどの武功を立てた。もうこれで十分だと彼は思っていた。そしてアリスカンダルにもそう思って欲しかった。


「陛下には、どこまでも野望を持って頂きたい」


 顔の大半を白布で覆った少女。その名はジハード・ビント・アーイシャ・アル=パルミリー。アリスカンダルの親衛隊のようなものである不死隊の隊長である。


 帝国にはレギオー級のような特別な魔導士はおらず、彼女もヴェステンラントの方式で言えばコホルス級に分類される魔女だ。その中では最上級の魔女と言えるが。


「野望、か。私はもう野望を全て叶えてしまったのだ。それがどうすればいいのだ?」

「我らは未だ、世界の果てに辿り着いていません。それに、陛下には相応しき王冠がございます」

「世界の果て――見てみたいものではあるがな」


 東へ東へと進み続けた先。そこに世界の果てはある。だがそこに立ち塞がる障壁は余りにも高い。何より、アリスカンダルにそこに向ける熱意はなかった。


「それと、相応しき王冠、とは何のことだ?」

「陛下には皇帝こそ相応しいと言いたいのです」

「皇帝、か……」


 アリスカンダルはジハードの意図を察した。だが、そんな馬鹿げたことに付き合うほどの気概は既に失われていた。


「ジハード、すまないが、私はもう以前の私ではないのだ。分かってくれ」

「陛下……」


 ジハードはただ、昔日のアリスカンダルを見たいだけなのだった。


 ○


「スレイマン、私はどうするべきだろうか」


 ジハードはスレイマン将軍に尋ねてみた。アリスカンダルを元に戻す方法について。


「陛下は既に燃え尽きたのだ。普通の人間――君主ならば一生をかけても成しえないような偉業を、こんな若いうちに成し遂げてしまった」

「燃え尽きる……」

「そうだ。陛下は超えたいものを超えてしまった。その先には何もない。だからせめてよき為政者であって欲しいと、私は願うのだ」

「で、あるのならば、陛下に更なる道しるべを示すべきではないか?」

「道しるべ、か。しかし、いかに道を示したとて、陛下にその道を進む意思がなければ、何も変わらない」

「であれば、どうすればいいのだ」

「どうしようもない。いや、このままでよいのだ。少なくとも私はそう思う」

「そうか……」


 ふと思う。そもそもこれ以上の外征をしたくないスレイマン将軍に尋ねても欲しい答えは返ってこないのではないかと。或いは、分かっていても誤魔化されるかもしれない。


 それに、スレイマン将軍に限らず、これ以上の帝国の拡大を望んでいる者は少ない。いや、殆どいないと言ってもいいだろう。


 ――自分で考えろと言うことか。


 そんなことを言われたのはまだ小さな子供の頃だったが、それが役に立つ日が来ようとは。


「今はお待ちください。いずれ必ず……」


 ジハードは決意した。必ずや自らの手で輝けるアリスカンダルを取り戻してみせようと。


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